17年一緒に暮らす猫「くま」 食欲がない日が続き、何も口にしなくなった

 帰宅すると二階から駆け下りてくる習慣はいつのまにかなくなった。

(末尾に写真特集があります)

すっかり晩年の姿に

 眠るくまの耳元でただいま、と声をかけるとようやく目を覚まし、ふぁ〜と返事をする。ゆっくりと歩くたびにすっかり硬くなった爪がカチャン、カチャン、と音を立てる。

 耳は遠くなり、背骨はゴツゴツと浮き出ている。いつのまにか、すっかり晩年の姿になっていた。

三毛猫
キリッ 緑の瞳

 季節の変わり目には調子を崩して、いよいよかと覚悟を決めるたびに回復した。

 一緒に暮らして17年、病院の先生の見立てでは20歳をとうに超えている。

眠る3匹の猫
くまを挟む

 腎臓が弱っていることはわかっていたが、老体の負担を考えると根本から治療をする気にはなれなかった。

 痛みが出る場合は取り除く処置をしてもらい、そのときが来たら寿命だと受け入れたい。かかりつけの先生は気持ちを十分に理解してくれた。 

三毛猫
くまや

くまはもう決めたのだ

 めずらしく食欲がない日が続き、栄養剤の点滴をしてもらう。3日続ければ持ち直すだろうと言われたが体重は少しずつ減っていった。

 あらゆる好物をいろんな温度や形状にするが、もう何も口にしない。  

日だまりで眠る猫
ひだまりくま

 朝早く仕事へ出る。昼過ぎに夫にメールをすると、くまは自力で二階に上り、日当たりのよいベッドの上で寝ていると言う。

 暗くなってから帰宅すると、ふらふらしながら出迎えてくれた。視線を合わせて口をふぁ〜の形にあけるが声はもう出ない。

2匹の猫
ぼくのおばあちゃん①

 ごはんをあげようとすると、もういらない、ときっぱりと顔をそむけた。くまはもう決めたのだ。

かすかな鼻息を感じながら

 夕食をとっていると足元に来て静かに横たわった。

 いつものように抱えて一緒にベッドに入り、枕元にのせた頃にはほとんど動けなくなっていた。

三毛猫
目が覚めるとくまがいた

 何年ものあいだ、目を覚ますとくまの顔が目の前にあった。

 かすかな鼻息を感じながら、一緒に過ごす最後の夜かもしれないと思うと涙が止まらない。

くっつく2匹の猫
ぼくのおばあちゃん②

 うとうとして起きるたびに呼吸はゆっくりになっていく。明け方に目を覚ますと、くまは息を引き取っていた。

◆この連載「家猫庭猫」が、来年1月に書籍化されます。詳しくはこちらからどうぞ。

(次回は最終回です。1月13日に公開予定です)

【前の回】真っすぐに意思を伝える猫「くま」 朝はごはん、と言いながら顔をかんで起こした

安彦幸枝
写真家。泊昭雄氏に師事。著書に、庭に来る白猫アフとサブが主人公の物語「庭猫」(パイインターナショナル)、「荒汐部屋のすもうねこ」(平凡社)「どこへ行っても犬と猫」(KADOKAWA)「安彦家の窓辺の猫 カレンダー2020」ほか。猫以外には旅と食を得意とし、機内誌や旅雑誌、ガイドブックや書籍などの媒体を中心に活躍中。

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この連載について
家猫庭猫
 写真家の安彦幸枝さんが、一緒にすごした合わせて5匹の家猫と庭猫の物語をつづります。
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