ヨロヨロの野良猫「困ったらおいで」 すると翌朝わが家に現れた
近所でたまに見かける猫がいた。半眼で毛につやはなく、いつもゆっくりと歩いている。ガリガリの体に比べて頭だけがやけに大きい。
ホワイトハウスの猫
近くにホワイトハウスという名の木造アパートがあり、住人男性が餌をやっているのを何度か見かけていた。その猫のことを私と夫は「ホワイトハウスの猫」と呼んでいた。
ある日、ホワイトハウスの前を通りかかると、男性が傍らの猫に話しかけながら植木の手入れをしている。それ、どこの猫?と尋ねると、「どこの、誰の猫ってことはない。〇〇さんちで餌をもらっていたらしいけど入院しちゃったみたい。だから最近うちに来てる。でも俺も来月引っ越すからこの猫どうすんだろね、かわいそうだけど連れてけない」
以前見かけたときよりも、さらにひと回り小さくなっていた。毛はパサパサで、息をするだけでもヨロヨロしている。目と鼻はぐちゃぐちゃとうんで、猫エイズを発症しているに違いない。
「困ったらうちにおいでね。うちは、その角を曲がった突き当たりだからね」家の方角を指しながらかがんで猫に言い聞かせる。
家の中に入りたそうなそぶり
翌朝、門扉を開けるとスルッとその猫が入って来てびっくり、本当に来た。
家猫のくまが感づけば外へ出たがるので、庭ではなく勝手口に誘導して缶詰をやる。ずいぶんと空腹だったらしくがっつく。
冬毛に生え変わっていないのか毛が薄い。背中の骨はゴツゴツと浮き出て哀れだ。近づくとうみの甘い匂いがして、嗅いだだけで病気がうつりそう。
完食の勢いでがっつくが、器の中身はちっとも減らない。かわいそうに、きっと口の中に炎症があり痛くて食べられないのだ。
それでも少しは食べてから、家の中へ入りたそうなそぶりを見せる。「くまに病気を移すかもしれないから家にはあげられないんだよ、ごめんね。でもごはんはあげるから、いつでもここにおいでね」。背中をなでると怖がらずに頭をすり寄せて、ずいぶんと人なつこい。
落ち着いて食べられるように
食べなければ衰弱がさらに進んでしまう。せめて炎症が落ち着いて食べられるようになればと、くまがかかっている近所の病院で抗生物質と栄養剤の点滴をしてもらう。
推定10歳超えの雄。体重は2.6kgしかなかった。カルテの名前欄には、とりあえず「まだ名無し」と書く。家へ連れて帰り庭に放つと、しばらくぼーっとしていたがそのうちどこかへ出かけた。
うみと匂いのついたキャリーバックを洗って干す。翌日の帰宅途中、あの猫が来ているような予感がしたら、やはり庭で待っていた。
急いで勝手口に連れて行き、缶詰を開ける。薬が効いたのか昨日より少しは食べられるようになっている。その日からうちに通って来るようになった。
【前の回】 一軒家に居ついた流れ者の猫「くま」 私の家に迎えることに
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