とても慎重な黒猫を家に迎えて1年 ゆっくり距離縮めて「初めて布団に乗ってきた」

黒猫と絵本
丸い目が可愛いニコちゃん(さかざきさん提供)

 Suicaのペンギンや、ヤマトホールディングスの「クロネコ・シロネコ」などで知られるイラストレーター・絵本作家のさかざきちはるさんは、黒猫ニコル(推定3歳)と暮らしています。家族に迎えてちょうど1年。ゆっくりと距離を縮めてきたそうです。じつは、2年前に死別した先住猫のことがなかなか忘れられず、ロスにさいなまれる日々でした。どんなふうに悲しみを乗り越えたのか、ニコルとの暮らしはどんなものか、お話を伺いました。

(末尾に写真特集があります)

はじめて布団に乗ってきた

「黒猫のニコちゃんは、とっても慎重な猫。少しずつ家になれて、最近になって大きな変化がありました。じつはきのう、はじめて私が寝ているところにやってきて布団の上に乗ったんです」

 そういって、さかざきさんはほほ笑む。

 さかざきさんがニコちゃんことニコルを迎えたのは、昨年10月11日。ちょうど一年を超えたところだ。関東を襲った大型台風の前日に、保護猫カフェ「ちよだニャンとなるcafé」からやってきた。

ソファの上の猫
甘えん坊だった先住のてんちゃん(さかざきさん提供)

「最初にニコちゃんとカフェで会ったのは昨年7月でしたが、迎えるまでに時間がかかりました。じつは出会った9カ月前くらいに、初めて飼った猫のてんちゃんを9歳で亡くしていて……心の準備が必要だったんです。今でこそ笑って話せますが、別れた当時は泣いてばかりでした」 

最後まで希望を捨てずにいた

 さかざきさんはそれまでにも鳥やうさぎを見送った経験があるが、猫はより近しく家族のような感じだった。そのため、てんちゃんを失い、今までにないショックを受けたという。

 てんちゃんに両側の乳腺がんが見つかったのは、一昨年の6月だった。

 左側の乳腺をとった時点で肺に転移していたので抗がん剤を試し、嫌がれば薬を休み、QOL(生活の質)を大事にしながら病気と向かいあった。最後の1カ月は自宅に酸素室を用意した。

「闘病中に、シュレディンガーの猫(箱を開けるまで中にいる猫の生死を確認することができない)という量子力学をモチーフに使っているドラマを見たのですが、それが心に残って……扉を開けるまで、てんちゃんが元気でいるかどうかわからない。でも扉を開ける瞬間まで元気と信じていないとその真実を引き寄せられない……そんなふうに思ってしまい、毎日、仕事場から帰って扉を開けるのが怖かったけど、生きると信じていました」

 しかしその願いもむなしく、てんちゃんは旅立っていった。2、3カ月くらいすると、さかざきさんは猫のぬくもりが恋しくなった。

ネコヨガにも挑戦、やがて出会いが

「猫がいないダメージが思いのほか大きくて。でもてんちゃんの思い出があるので、すぐに迎える気にはなりませんでした。それでも、猫に会いたい…てんちゃんも保護猫だったので、いつかビビッとくる子がいたらもらうことも考えられるかなと思って、自分で調べて、猫リパブリックなどの保護猫カフェに足を運ぶようになりました」

 さかざきさんは、保護猫のいる部屋で行う、ヨガ教室にも通ったという。猫とともに何かするのではなく、猫はヨガをする人の側で気ままに過ごしている。

「ポーズをしているところに猫が勝手にとことこやってきて、ひざに乗ってくれたりすると、来てくれた!(笑)とうれしくなり、それだけで癒やされましたね」

なでられる猫
ネコヨガに参加すると、保護猫が足の間でくつろいでくれた(さかざきさん提供)

 柔らかな体に触れたり抱いたりしながら、「ああやっぱり、猫が好き」と、さかざきさんは思ったそうだ。

 そして以前、てんちゃんが生きていた頃に保護猫カフェ設立のためのクラウドファンディングに参加した「ちよだニャンとなるcafé」にも足を運び、そこでニコルに出会ったのだった。

「てんちゃんが白黒猫だったので、白黒がいいと最初は思っていたのですが、真っ黒なクロエという猫を薦められました。指をさしだしたすっと寄ってきてくれて、この子可愛い!と思ったんです。ちょうどその頃、ヤマトホールディングスで黒猫(クロネコ・シロネコ)のデザインの仕事が決まっていたので、これもなにかの縁かなと。実際にもらう決心をするまでに数カ月かかりましたが、(お声がかからず)私を待っていてくれたんですよね」

よそよそしかったニコル

 クロエは、さかざきさんの家に迎えてから名前がニコル(通称ニコちゃん)になった。そして、家に来た途端に、なぜかよそよそしくなった。

「びっくりしたような“まん丸目玉”になって。最初の一カ月は2段ケージで過ごしたのですが、出した後、2カ月くらいキャットタワーのボックスに引きこもりました。ごはんをタワーに運ぶと、ニコちゃんはボックスから半身を出して食べていましたよ」

キャットタワーと猫
2カ月くらい過ごしたキャットタワー(さかざきさん提供)

 ニコルはとにかく用心深かった。

 てんちゃんがおっとりしていて甘えん坊だったので、さかざきさんはその落差に戸惑ったそうだ。それでも、だんだん距離が近づき、一カ月するとタワーから下りてごはんを食べるようになった。さかざきさんのいないときに、いたずらをするようにもなった。

「留守中に、テーブルの上に乗っているボールペンとか、ファンデーションのチューブとか、落としてソファの下にはたきこむんです。この前も爪切りがないなーと思ったら、ソファの下にありました。私の前では絶対にしないですけどね。白黒猫は少しおっとりというかどんくさい子が多い気がするんですが、黒猫は賢いのかな、ニコちゃんは観察力がすごくて、私が家にいる時は、ずっと私の動きを見ているんです」

 ニコルは保護猫カフェに来る前は、もともと(民家で餌をもらう)外猫で、室内で飼われたことはなかったようだ。ブラシをしたり、なでられるのは大丈夫だが、「抱っこ」をこわがった。

「私の“スネから下”に乗り、足の間に入って頭を乗せたりもするけど、私の手の動きをいつも見ている。ソファでも、あぐらをかいたり“すぐ動けない体勢”でいると側に来るけど、足を下に下ろすと寄って来ない。好きだけど、“ぎゅっとされるのは絶対おことわり”って感じ(笑)」

おなかを出す猫
ゴロンと転がりおなかを見せるニコル(さかざきさん提供)

 それでも気は許していて、ニコルはおなかを出して“へそてん”で寝ることがある。てんちゃんはしなかったポースだ。その「違い」が今は面白く、いとしく思えるという。

ミッションを目前に控えて

 1年前、ニコルを迎えた翌日は暴風雨だった。しかし台風が去ると青空が見えた。今、てんちゃんとの別れを乗り越え、さかざきさんの心も晴れている。

「もちろん、てんちゃんのことは思い出すけど、ニコちゃんを迎えてよかった。最近、仕事から帰ってくると、にゃあにゃあ鳴くようになったんです。時間がかかったけど、布団の上に乗ってきたし……猫がいる生活=私の生活なんですね。生き物の気配が家にあり、帰ってきて『ただいま』といえるのがやはりいい。そのうち、遊び相手にもう一匹、相性のいい子を迎えても楽しいかな。でもそれはまだまだ先。その前に、大事なミッションが控えています」

 そのミッションとは、動物病院にいくこと。家に来て1年経つので、健康診断にいきたいのだが、(キャリーバッグにいれるため)「抱っこして嫌われないかはらはら」なんだという。

「親しくなってきたのに、『わっ、捕まえられた~』とニコちゃんが驚いてまた距離があいてしまうか心配(笑)。でも、ニコちゃんは頭がいいし、病院に連れていった後もずっと家で変わらぬ生活が続くとわかれば、(私との)関係も変わらないはず、そう信じています」

 もはや、さかざきさんの心は、ニコルのことでいっぱい。これからどんどん絆を深めていくのでしょう。

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藤村かおり
小説など創作活動を経て90年代からペットの取材を手がける。2011年~2017年「週刊朝日」記者。2017年から「sippo」ライター。猫歴約30年。今は19歳の黒猫イヌオと、5歳のキジ猫はっぴー(ふまたん)と暮らす。@megmilk8686

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この連載について
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