川べりに1匹でいた痩せた全盲の猫 保護されて、今ではのびのび幸せ家猫ライフ

全盲の猫
「次はなにしようかな」リビングに佇むナンくん(山下さん提供)

 体にハンデを持つ保護動物は、若くても譲渡につながらない現実がある。だが、昨年川べりで保護された全盲のオス猫は、ある女性のハートを瞬時に射抜き、今は家族として幸せに暮らしている。ヤンチャなキャラや、家での生活ぶりについて聞いてみた。

(末尾に写真特集があります)

 埼玉県に住む会社員の山下さん(36)が紹介してくれたのは、サバトラ模様のナンくん。推定1歳半のオス猫だ。

「この子、ハンデがあることを忘れちゃうほど活発なんですよ」

 その言葉通り、ナンくんは居間にあるボールをころころ転がして遊んでいる。

遊び回る姿にときめく

 山下さんがナンくんの存在を知ったのは、昨年の秋。一匹飼いのトラ(メス、4歳)の遊び相手に「もう一匹迎えようか、迎えるなら保護猫がいいね」と夫と話していた。そんな時、たまたま保護猫カフェ「ねこかつ」のインスタグラムにポストされた若い猫の写真が目にとまった。

 “つみれ”と名づけられたその猫は、川越の小畔川沿いに1匹でたたずんでいるところを保護されていた。痩せて、猫風邪が原因で眼球を摘出したという。

「つみれくんは写真でも愛嬌がありましたね。つみれくんにも他の保護猫たちにも、直接会ってみたくなったんです」

2匹の猫
“つみれくん”時代、保護猫カフェで仲間の猫と(ねこかつ提供)

 2月、山下さんが保護猫カフェを訪れると、ナンくんはフロアでほかの猫と一緒に過ごしていた。その姿にはっとなった。

「ひとりぼっちでいるわけでもないし、目が見えてないわりにはよく動いている。いろいろなものを探しながらうろうろする姿がすごく可愛く見えたんですよね。一緒に暮らしたくなって、夫に相談してから、申し込みをしました」

つみれからナンになりノビノビ

 トライアルは4月からスタート。家にきてすぐ、先住のトラちゃんにシャーッと洗礼を受け、しばらく布の下に潜っていたが、夜になるとのこのこ出てきて、食事をしたという。

「ごはんはここ、トイレはここ、と教えるとすぐ覚えました。結婚前にも何匹か猫を飼っていましたが、今までの子と何も変わりません。むしろ順応性が高いようにも感じました」

 グレーの毛色が魚のすり身の「つみれ」を彷彿とさせるため、保護猫カフェではつみれと呼ばれていた。山下さんは家の子になったのを機に、名前を変えることにした。

「わたしは毎年行くほどインドが好き。それでインドにちなんだ名をいくつか考えたんですが、響きも可愛いし美味しそうなのでナンにしたんです(笑)」

 環境変化もなんのその、ナンくんはどんどん家になじみ、毛に艶が出て触り心地がよくなった。寝転がったりタワーに乗ったり、楽しそうに過ごした。昼間には山下さんのベッドのまんなかで手足を伸ばし、ノビノビ~と寝ることも。

2匹の猫
トラちゃん(左)と(山下さん提供)

トラちゃんの身に異変が

 ナンくんがなれていく一方で、トラちゃんの身には少し異変が起きていた。

 もともとシャイで、山下さんの友達や親が来ても逃げるタイプだったが、急にアゴにぷつぷつとニキビができた。その後、口をくちゃくちゃ動かして、ヒクーッと変なしゃっくりをするようになった。

「トラを病院に連れていき調べたら、とくに病気ではなかったのですが、ストレスがかかったのかもしれないと先生に言われました。元気な男子が来て驚いたのかな」

 ナンくんは体格がよく、家にきた時からトラちゃんより大きかった。どうなることかと思ったが、しばらくすると、トラちゃんのしゃっくりが止まったそうだ。そして、ガマンするのはやめましたというように、とっくみあうようになった。

キャットタワーに登る猫
最近はタワーの一番上にも登れるようになった(山下さん提供)

 山下さんは、おおらかに2匹を見守った。今まで何匹も猫を飼ってきたため、危険な状況か否か、判断もついたのだろう。

「もうマングースみたいに仁王立ちになってお互い譲らない。トラは遠慮しないし、ナンも力はある。でもそうしてケンカしながらお互いを認めていき、“ちょうどいい感じ”の距離にいることが多くなりました。うれしかったですね」

 ナンくんが来たころからリモートワークが始まったため、部屋のドアは開けっぱなし。2匹ともリビングにいることが多いが、ナンくんは昼間に山下さんの寝室に移動してベッドにあがり、大の字に寝ることもあるのだとか。少しくらいの高さなら難なく乗れるそうだ。

「キャットタワーには一段ずつあがりますが、最近、いちばん上まで行けるようになったんです。見えてないから動きがおとなしめだけど、もし見えていたら、いろんなとこに飛び乗って、物を激しく破壊していそうな気がするんですよね(笑)」

ふつうの子と変わりない

 目が見えなくて、飼い主として困ることは「とくにない」という。

「トイレはたまに失敗するけど、それは見えないからではなく、『汚れたままじゃないか』
という訴えのような気がするんですよ。手で身体をなでると喜んでブヒブヒ鼻を鳴らします。目が見えない分、ほかの感覚が優れていて、感心することもあるんです」

 山下さんががさがさ音をたてて何か食べ始めると、ナンくんはいちはやく寄ってきて、くれくれと手をかけるという。ヨーグルトや生クリームを食べていても「それうまいやつ?」というふうに近づいてくる。

「ここはマンションの11階なので、もちろんベランダの外に出ないように気をつけていますが、ナンくんは無理なことをしないんです。これからコロナが落ち着いて会社にいくようになっても、食事やトイレのお手伝いは必要ないので留守番も心配していません」

2匹の猫
「トラちゃんどこかな」(山下さん提供)

 ねこかつでは、全盲の猫を保護したのはナンくん(つみれくん)が2匹目だという。1匹目の猫はスタッフの家の猫になった。今、また3匹目の全盲猫を保護中だ。

 ねこかつの代表、梅田さんは目が見えない猫について、こんなふうに言っている。

「全盲の子じたいに出会うことが少ないですが、家族は見つかりにくいと思います。でも見つかりやすい、にくいは、保護する際の判断材料ではないですから……。家の中ならふつうの子と変わりないのです。つみれくんがナンくんとして歩み出せて本当によかった」

 取材を終えるころ、ナンくんはお気に入りのキャットタワーに移動して、明るい窓のほうに顔を向けた。きっとこれから続く楽しい未来が、心の目に映っているはずだ。

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藤村かおり
小説など創作活動を経て90年代からペットの取材を手がける。2011年~2017年「週刊朝日」記者。2017年から「sippo」ライター。猫歴約30年。今は17歳の黒猫イヌオと、3歳のキジ猫はっぴー(ふまたん)と暮らす。@megmilk8686

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