野良生活を1匹で生き抜いた後ろ脚のない子猫 気難しい先住猫ともめげずに距離縮める

 後ろ脚に障害を持って生まれ、過酷な環境を生き延びてきた茶白猫のコチビは、暖かい家族に恵まれて、「ごく普通の飼い猫」になった。

(末尾に写真特集があります)

先住猫の友達探しがきっかけ

 規子さん一家とコチビ(ミックス・雄)との出会いは、2018年にさかのぼる。当時、規子さんは、繊細で臆病な先住猫、パール(ミックス・雌)の“友達”を受け入れようと、譲渡先を探している保護猫をチェックしていた。

「パールは、何らかの事故が原因で後ろ右脚を失い、成り行きで保護した元野良猫です。人間嫌いの気難しい性格で、脚が1本ないことを差し引いても、極端に臆病で家族は誰も触れられないんです。保護した時にすでに成猫だったので、ここから人なれするのは時間がかかると家族は諦めていたのですが、このままではパール自身もストレスがあるのではと考えていました。そこで、人間が好きな猫と一緒に暮らせば、いい影響を受けるかもしれないと思ったんです」

茶白猫
未発達の脚は壊死してしまえば断脚しなくてはいけないが、幸い手術をしなくてもよい状態を保っている(規子さん提供)

 しかし、新たな家族を迎えるには、ハードルがあった。同じく先住犬のチロ(ミックス・雌)だ。チロは室内を自由に行き来するので、猫のためだけに脱走対策を徹底することができない。パールを迎え入れられたのは、脚が不自由で移動範囲が限られ、脱走の心配がないためだった。

「連日保護猫のサイトを眺めながら、脱走対策が必須になる健常猫を迎えるのは難しいと感じました」と規子さん。そんな時に目に留まったのが、NPO法人『ねこけん』のブログで紹介されていた、後ろ脚が不自由な茶白の子猫だった。

後ろ足にハンデも、予想外の活発さ

「コチビが気になったきっかけは、ハンモックでヘソ天になっている写真がとっても可愛かったから。後ろ脚に生まれつきの障害があると書いてあったので、『この子なら、そこまで徹底した脱走対策は必要ないかもしれない』と思ったんです。それに、うちにはパールがいるから、脚が不自由なねこのために何を用意すればいいかもわかっている。さっそくねこけんさんに問い合わせ、会いに行ってみたんです」

ひざに乗る猫
それまで臆病で触れられないパールに接してきた家族は、おっとりとした性格のコチビに驚いた(規子さん提供)

 子猫に会いにいった規子さんは、その可愛らしさにすぐに魅了された。

「第一印象は『元気!』でしたね。右後ろ脚ははじめからなくて、左後ろ脚はねじれた状態で縮んでいましたが、前脚だけでほふく前進のように移動し、背筋の力で器用に高いところにも登っていました。次に思ったのは、『触れる!』ということ。うちはパール以外の猫を飼ったことがなかったので、手を伸ばしても逃げも怒りもせず、うれしそうに受け入れたのを見て、『猫なのに触れるの?!』とすごく驚きました(笑)」

人懐っこく、めげない性格

 規子さんは、ねこけんから子猫を引き取り、「コチビ」と名付けて家族に迎え入れた。

「コチビは生後数カ月で保護された野良猫ですが、人なれはまったく問題ありませんでした。保護団体って、すごいですよね。一匹一匹、きちんと人なれさせて送り出して。我が家で保護したパールは、6年経った今でも生粋の家庭内野良猫ですから。猫がこんなに人懐っこいものだと知らなかった家族は、コチビのことを”触れる猫”と呼んでいるんですよ(笑)」

 肝心のパールとの相性は、規子さんのもくろみとは裏腹に、出だし好調とは行かなかった。

「コチビは、人間だけでなく猫に対してもすごくフレンドリーなんですが、パールは正反対。初対面の時は、物おじせずに近づいてくるコチビを怖がって、パールの方が隠れてしまいました。それからしばらく、パールに近づくたびにシャー!と激しく怒られていましたが、コチビはめげずに距離を縮めようとしていましたね」

 コチビとの暮らしについて規子さんは、脚が不自由なことで特別なお世話をすることはほとんどないと話す。

窓から外を見る2匹の猫
脚にハンデのあるパールとコチビのために、窓辺には小さなステップを置くなどの気遣いが(規子さん提供)

「しいていうなら、おしっこのときに体がぬれるくらい。見つけたらすぐに捕まえて拭くだけなので、大した手間ではないですね。自宅は、脚の不自由なパールのために、もともと猫が上りたがるような場所には細かい段差をつけるなどの工夫がしてありますが、健常猫を飼ったことのない我が家ではそれも普通のことなので」

 規子さんは現在、人間の子供用の室内ジャングルジムを改良して、コチビのためのキャットタワーをDIYすることを検討しているという。

動物は、自分の状況を嘆かない

 ねこけんに引き取られるまでのコチビは、野良猫としてたった一人で生きていた。保護した人の話によると、はじめは母猫と一緒に家の庭に現れ餌をもらっていたが、やがて母猫を伴わず一匹であらわれるようになったという。

 ハンデのある体で、過酷な野良生活をどうやって生き抜いてきたのか。「一つ言えるのは、コチビの明るくてめげない性格とフレンドリーさが、コチビ自身を救ってきたのでしょうね」と規子さん。

 規子さんには、コチビの明るさやたくましさを実感した出来事がある。

「我が家で子猫を保護したことがあり、コチビは大喜びで一緒に遊んでいました。子猫は健常猫だったので、追いかけっこを仕掛けてもコチビがついていけるはずがないのですが、驚いたことにそれでも彼は追いかけていく。子猫がぐるぐる回れば後ろ脚を軸に体をブンブン回して追いかけたり、子猫が家具の隙間に入れば、前脚ではって追いかけていきます」

遊ぶ猫
両方の前脚を使って器用に遊ぶというコチビ(規子さん提供)

 規子さんは、健常猫と対等に遊ぼうとするコチビの姿に複雑な感情を抱いたという。

「コチビを見ていて気付かされたのは、『動物は、他者と自分を比べてねたんだり嘆いたりしない』ということ。私たち家族は、コチビが普通の猫についていけない姿を見て、ついつい可哀想に感じてしまうんです。でも、コチビ本人は、体が不自由なことに不満を感じていないんですよね……」

普通の触れる猫、それだけで十分

 コチビが規子家の一員になって、およそ2年の月日が流れた。当初コチビを拒否していたパールにも、小さな変化があったという。

「パールはこのごろ観念して、寝床に割り込んでくるコチビと一緒に寝ているんです。コチビが家に来た当時は、じゃれつかれても無視していましたが、最近は相手をしてやる姿も見られます。それに、コチビの影響なのか、家族がパールに触れるようになってきたんですよ」と規子さん。

くっつく2匹の猫
コチビのアピールにパールが折れ、一緒に眠ることを許した(規子さん提供)

「我が家にとってコチビは、いたって普通のなんの特徴もない家猫です。コチビが家に来たことで、私たち家族は、『猫って抱きしめると柔らかいんだ』ということを知った。それを知れただけでもう十分ですよ」

 規子家に引き取られたコチビは、「脚に障害を持った元野良猫」から、明るくフレンドリーな性格で家族を和ませる、「ただの飼い猫」になった。

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NPO法人ねこけん
「ねこちゃん譲渡会」
日時:11月29日(日)12~15時
場所:島忠ホームズ仙川店(東京都調布市若葉町2-1-7)
主催:NPO法人ねこけん
3密対策のため、当日11時30分から整理券を配布します。

◆ねこけんの活動の様子は、ブログからどうぞ。

原田さつき
広告制作会社でコピーライターとして勤務したのち、フリーランスライターに。SEO記事や取材記事、コピーライティング案件など幅広く活動。動物好きの家庭で育ち、これまで2匹の犬、5匹の猫と暮らした。1児と保護猫の母。猫のための家を建てるのが夢。

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