余命宣告された愛猫、治療やめてストレスない日々 「生きてるだけでほめてあげたい」

 もしも愛猫が余命宣告されたら、飼い主としてどのように治療に向き合うべきか、悩む人は多いだろう。2匹の愛猫の闘病を経験し、「最後は治療をしない」という結論にたどり着いたゆみ子さんにお話を聞いた。

(末尾に写真特集があります)

おっとり屋のトロと怒り顔のプン

 神奈川県に住むゆみ子さん一家は、小さなお姫様に仕えている。今年で15歳になる雌猫のプンは、自分のことを「家族の中で一番可愛い存在」と認識し、ゆみ子さんをごはん係のメイド、夫を遊び相手兼散歩係の執事、息子をドアボーイとして扱いながら、日々傍若無人に暮らしている。

「神経質な子なので、ごはんの時に音がすると固まって食べなくなります。そのため、プンのごはん時は家族は“だるまさんがころんだ”状態。常に音を警戒しているので、私はプンの横に座って、食べ終わるまで励まさなくてはいけません。最近は、夜中にトイレに起こされ、トイレ中も見守らせるようになりました。とにかく、家族の中で一番わがままなので、あだ名は“プン子姫”。みんながプンのために動いています。主人に対しては特にわがままがひどく、毎日抱っこで近所を散歩させているんです(笑)」

 プンがこの家にやってきたのは2005年の11月。兄妹猫のトロ(雄)、チャイ(雌)とともに、生まれて数カ月でボランティアに保護され、兄妹3匹でのトライアルを経てゆみ子さん一家に引き取られた。

 もともと、ゆみ子さんの夫はトロを気に入り、ゆみ子さん自身は、均整のとれた甘い顔立ちのチャイに惹かれていた。しかし、住宅事情で引き取れるのは2匹まで。悩んだ末に、器量も性格もいいチャイには引き取り手が見つかるだろうと、“とろくておっとり屋”のトロと、“険のある顔つきでプンプンと怒ったように鳴く”プンを家族に迎えた。

2匹の猫
引き取った当時のプン(左)とトロ(右)。プンは「プンプン怒っているような鳴き方」から名付けられた (ゆみ子さん提供)

「トロとプンは、性格が真逆のせいか、あまり相性が良くなかったんです」ゆみ子さんは当時の様子を振り返る。

「トロは甘え上手なんですが、プンはプライドが高くて気難しいので、甘えているところを見られたくない。人間と二人きりの時にしか絶対に甘えてきません。トロや他の家族がいる場所では、甘えたくてもやせがまんをするんですよ(笑)そんなところも可愛いのですが……。プンは内心、トロのことを『いけすかないやつ』と思っていたのでしょうね」

 プンのライバルだったトロは、今年の春にがんとの闘病の末亡くなった。自分よりも上手に家族の気を引くトロがいなくなったことで、プンは以前よりも堂々とふるまうようになり、ごはんもよく食べてふくふくと太り始めた。しかし、そんなプンもかつては、苦しい闘病生活を経験していたという。

「プンは、3歳のころに悪性リンパ腫で余命宣告を受けています。でも、私たち家族は色々な経験を経て、今のプンを通院や投薬などの医療にかけようとは思っていないんです」

 ゆみ子さんは、トロやプンの闘病を経て、「治療をしない」という選択について考えてきた。

愛猫「トロ」の最後の最後に

「トロは2017年に、肝臓胆管がんの告知を受けました。手術をしても生存率は低く、効果が高い抗がん剤を使用すれば副作用も強い。トロはただでさえ病院が嫌いで心が弱い子だったので、私たち家族は、効果は弱くても副作用の少ない薬での治療を選択しました。1年ほど薬の効果を待ちましたが、症状はよくならず。2018年の春、投薬と通院の中止を主治医に相談しました」

 そこで主治医から告げられたのは、「もって半年。次の桜は見られないでしょう」という言葉。ゆみ子さんは改めて夫と話し、過去にも、うまれつきの腎臓の障害で投薬や通院を繰り返してきたトロを、「この後は穏やかに過ごさせよう」、という結論に至った。

薬を飲む猫
気の弱いトロは、通院するたびに心が折れて納戸に閉じこもったという(ゆみ子さん提供)

 通院をやめてから、トロ専用の療法食もやめ、ずっと食べたがっていたプンと同じごはんを与えた。家族の夕飯に鶏肉を使う日は、鶏肉が好物のトロのために湯がいたものをとりわけてやった。

 結果的にトロは、通院というストレスがなくなった生活を送り、余命宣告を受けてから2年近くも生きたという。しかし、トロの最後に関して、ゆみ子さんには後悔がある。

「今年の3月、徐々に食事が取れなくなり、体重が落ちてイライラした様子を見せ始めました。呼吸が苦しそうなので、胸水がたまっているのだろうと思い、『最後にもう一度抜いてあげよう』と夫と話して病院へ。いつもならばそんなに時間がかからない施術ですが、その時は原因を突き止められるかもしれないという話もあり、酸素室に半日入院させました。結果的に、その経験が、ビビリのトロの最後の気力を奪ってしまった」

くつろぐ猫
治療をやめ、少し元気を取り戻したころのトロ(ゆみ子さん提供)

 家に帰ってきたトロは憔悴し、ごはんも水も受け付けず、落ち込んだ時に隠れる、隣接する両親宅の納戸に入って出てこなくなった。2日ほどそんな状態が続いたのち、ゆみ子さんはごはんを食べさせるためになんとかトロを連れ戻し、猫用ミルクを飲ませた。それが最後の食事になり、トロは次の日の朝、家族全員のもとを回ってあいさつをしてから亡くなったという。

「最後の最後に大嫌いな病院に連れて行き、ストレスを与えて自然に死を待たせてあげなかったのが、今でも大きな心残りです」とゆみ子さんは話す。

治療を受け付けない“お姫様”

 プンの悪性リンパ腫は、まだトロのがん治療が始まる前、2008年の冬に見つかった。「呼吸が苦しそうだったので病院に連れて行きました。主治医によると、その時点で、何もしなければ余命1週間。抗がん剤が効いたとしても余命5年。プンはまだ3歳だったので、家族で相談して治療をはじめることに。初めは10日間の入院で、集中的な抗がん剤治療を。その後、2週間に1回程度、胸水を抜くために通院。胸水がたまると呼吸が苦しくなるので、病院から酸素室を貸してもらい、自宅ではその中で過ごしてもらうことになりました」

 しかし、トロよりもずっと気難しくお姫様気質のプンが、酸素室の中でおとなしく過ごすことはほとんどなかったという。

「本来はずっと中で過ごさなくてはいけないのですが、呼吸が苦しい時でも1時間が限界。中でわざとおしっこをして、ぬれた身体を拭いてもらうことを口実によく逃げ出しました」

酸素室の中の猫
自宅で酸素室に入れる際も、嫌がって大暴れしたという(ゆみ子さん提供)

 “お姫様”への投薬も、ゆみ子さんの悩みの種だった。

「飲みやすくカプセルに入れて投薬機で口に入れるのですが、見えないところで必ず吐き出しているんです。指は必ずかまれるので、指サックも欠かせませんでした」

 そんな攻防が続いたものの、ゆみこさんの看病の成果か、プンの我の強さが病に勝ったのか、じょじょにプンは元気になった。

「翌年の春には酸素室を卒業し、1年後には胸水がたまらなくなりました。すると、通院の頻度が減ったせいかさらに調子が良くなり、主人と相談して、そのまま投薬も通院もやめて、自宅で様子を見ることにしたんです」

キジ白猫
とにかく命令口調で家族に用事を言いつけるプン。そんなところも可愛くて仕方ない(ゆみ子さん提供)

 現在、余命宣告から12年、プンは通院も投薬もせず、病気だったことすら忘れて、家族に「プンプン」と文句を垂れながら、わがままに暮らしているという。

「がんが消えることはないのですが、治療をやめてからのプンはストレスのない生活を満喫しています。春にトロが亡くなってから、プンのわがままはますますひどくなり『この家で可愛いのは私だけ』と言わんばかりに甘えん坊になりました。最近は、まるで子猫のような高い声で甘えたり、朝から家中を走り回って運動会をしています。手がかかるけど、家族みんなが『仕方ない』と受け入れる。尊い存在です」

生きる力を信じ、結果を受け入れる

 ペットが重い病気にかかった時、飼い主はどこまで治療を続けるべきか。その選択の理由は様々で、正解はない。ゆみ子さん自身、プンのがん治療をやめるという選択をしたが、「治療や延命処置を否定するつもりはありません。とくにまだ若い子なら、必死で治療してあげようとする気持ちはよくわかります」と話す。

 しかし、トロの生きる気力を奪ってしまった最後の入院に関しては、「人間の技術を駆使して、やってはいけない領域に踏み込んでしまったのかもしれない」と考え続けている。

イスの上の猫
「家の男たちをアゴで使っています」とゆみこさん(ゆみ子さん提供)

「歳をとった猫にとって、苦しい治療が幸せかはわからない。手術のリスクが高くなる10歳をすぎたら、もう生きてるだけで褒めてあげて、その時が来たら自然に見送ろうと決めました」

 ゆみ子さんは、トロやプンの闘病経験から学んだ、ペットの闘病と向き合う際の心の在り方について話してくれた。

「治療をしても治る見込みが低い場合に限りますが、その子がしたがることは、その子を信じてやらせてあげるということも、時には大切なのかもしれません。トロやプンの場合は、治療をやめて好きなことをする生活を選んだことで、宣告された余命を超えたので。それと、最後は覚悟。結局、何を選択しても生き物の命には最後があります。自分のした選択が、たとえ悪い結果になったとしても、飼い主として受け入れる覚悟が必要なんだと思います」

 プンが辛い闘病を乗り越えられたのも、その生命力を信じてどんなわがままも受け入れ、家族で尽くしてきた成果なのかもしれない。

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原田さつき
広告制作会社でコピーライターとして勤務したのち、フリーランスライターに。SEO記事や取材記事、コピーライティング案件など幅広く活動。動物好きの家庭で育ち、これまで2匹の犬、5匹の猫と暮らした。1児と保護猫の母。猫のための家を建てるのが夢。

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