ボンネットから救出された口ひげ模様の猫 飼い主の心の隙間を埋め、先住猫とも仲良く

 年齢を考え、3年前に“最後の猫”のつもりでメスの子猫を迎えた女性が、翌年、遊び相手にとオス猫を迎えた。穏やかで愛敬たっぷりな猫は、メス猫のよき相棒になると同時に、女性の心の隙間も埋めてくれたという。

(末尾に写真特集があります)

姉弟のように仲良しの猫

 東京・世田谷のマンション。リビングに入ると、茶トラの小夏(3歳)が駆け寄ってきて、足元でごろんと転がった。2年前、小夏が1歳の頃に会ったことがあるのだが、その時と変わらず人なつこい。

 そんな小夏の後を追いかけるように、きれいなハチワレ猫が出てきた。

くっつく2匹の猫
「一緒にいるとあったかいね」虎徹(左)と小夏(まりさん提供)

「このハチワレの子が2歳の虎徹(こてつ)くん。初めて会う人には少しビクビクしますが、すぐに慣れますよ」

 飼い主のまりさん(58歳)が、可愛くて仕方ないという感じで虎徹を見る。小夏と1歳違い。血はつながらないが、本当の姉弟のように仲良しだという。

小夏の遊び相手がほしくて

 まりさんが虎徹を迎えたのは、2019年の1月だった。

 その2年前、2017年に迎えた子猫の小夏がおとなになって、一人遊びをすることが減った。時間や体力を持てあましているようにも見えた。

「遊び相手が必要そうだけど、人が相手より猫の相手の方がいいかなと思い始めたんです。小夏を迎えた時、自分の年齢を考えて、この子が最後と思っていたのですが……」

なでてもらう猫
まりさんになでてもらう虎徹

 まりさんは、夫とひとり娘・かれんさん(17歳)の3人家族。かれんさんは2年前からカナダの高校に留学している。SNSのビデオ電話で「猫をもらいたいと思ってる」と話すと、「へえ~、いいんじゃない?」と賛成してくれた。そこで、保護猫の小夏を迎えた時にお世話になったボランティアに「おすすめの子はいますか?」と聞いてみた。

「ちょうど保護した猫がいて、“ぴったり”だと思うといわれて、夫と見にいくことにしました」

 お見合いの日、ボランティアは他の部屋から小さな猫を抱いて連れてきた。猫がくるっと振り向いた瞬間、まりさんは一目ぼれした。

「目がまんまるで、鼻の下の模様がムスタッシュ(口ひげ)みたい。ボランティアさんの顔をふみふみして、なんて可愛いんだろうと思いました(笑)。体全体の毛が長いけど、しっぽが習字に失敗した筆みたいにギザギザで、そこもチャーミングでした」

ボンネットから救出されていた

 虎徹は、まりさんと出会う前年の冬、車のボンネット(エンジンルームの中)に入りこんだところを、ボランティアにレスキューされていた。

「ボランティアさんが働く仕事場の前が幼なじみのけんちゃんという方の家で、駐車中の車に猫が入っていったので、“ボンネットけんちゃん”と仮の名をつけていたそうです」

 冬場は特に、エンジンルームに猫が入りこむことがあり、それを知らずにエンジンをかけたり発車をすると、猫がけがをしたり命を落とすこともある。虎徹は、すんでのところで助かったラッキーボーイだったのだ。

猫のイラスト
かれんさんがカナダから送ってくれた似顔絵と名前(まりさん提供)

 新たな名前は、カナダにいるかれんさんがつけた。

「じつは3年前に小夏を譲り受ける時、兄弟をもらうか迷って、オスならきりっとした名がいいから“こてつ”と娘が考えていました。今回、オス猫をもらうことを知らせると、それならあの名前がいいと。娘があたためていた名なので、尊重しました。それでボンネットけんちゃんから虎徹になったのです(笑)。名前のイメージよりやさしい感じの子ですが」

可愛い姿に心が安らいだ

 肝心の先住の小夏との相性については、まさにボランティアの言葉通り、いや予想以上にぴったりだったという。

「インスタをフォローしてくださる方が、“お互いにケージにいれて少しずつ近づけるといい”“互いに興味を持ってきたら匂いを確認しあうような状況を作るといい”などアドバイスを下さいました。相性に関しては心配もあったので、皆さんの意見を参考にしながら見守る予定でしたが、あっという間に仲良くなったんです」

 小夏がシャーをしたのは最初だけ。こてつが寄っていくと、あれ?とけげんな顔をしたが、すぐに存在を受け入れて、その日のうちに同じハウス(ケージ)に入った。2日後には優しく弟分をなめてあげていた。

くつろぐ猫
かれんさんの足の上でくつろぐ虎徹(まりさん提供)

 その様子を見て、まりさんの心は安らいだという。

「娘が留学して以来、少しさみしくなりました。SNSで連絡をとっても、家にいるといないでは大違いで……夫と小夏とゆったりとした時間を過ごしていました。もちろん小夏の存在にも癒やされていましたが、虎徹が来て2匹になってからは、室内がより明るくなって、2匹の関わり合いも愛らしく、心の隙間が埋まっていく気がしました」

 虎徹は小夏の最良のパートナーになり、「2匹ってあんな風に遊ぶんだね」と、夫婦の会話も増やしてくれた。

帰国した娘もメロメロ

 娘のかれんさんは、昨年の夏休みと今年3月に一時帰国している。

 本来は6月下旬に帰国するはずだったが、コロナで滞在していたカナダがロックダウンして学校も閉鎖してしまったため予定が早まり、9月までの半年間を自宅で過ごしたのだ。

 かれんさんは、オンライン授業の合間や、夏のバイトの合間に、虎徹とよく遊んでいたという。

「娘は『虎徹って穏やかで、ぽーっとしてるよね。前にいたオス猫とも違うし、今までうちにはいなかったタイプだね』と言いながら、ぽぽちゃん人形みたいに抱いて、小さなベッドをこしらえて寝かせたり、夢中になってましたね」

 かれんさんは虎徹と一緒に寝室で寝たかったようだが、小夏と一緒に夜間にばたばた運動会をして階下への迷惑がかかる可能性があり、また寝室の高い棚から物を端から落としていくので、「寝る時は別」にして、2匹は就寝時にケージに入るようになった。

 2匹はぴたっと抱き合って寝ることもあり、その姿にかれんさんも感心していたという。

くっつく2匹の猫
ハンモックで虎徹(左)を抱きかかえる小夏(まりさん提供)

「9月になって娘がカナダに発つ時、小夏は“いかないで”といわんばかりにスーツケースに乗りました。虎徹は今でも、娘の部屋の前にたたずみ、“何で出てこないの?”と鳴いていますよ。でもあと半年したら、戻ってきますからね」

 かれんさんの帰国は、高校を卒業する来年の6月。またにぎやかになりそうだ。

「本当に動物の力って大きいな」と、まりさんがほほ笑む。

「3年前、私は更年期障害でいらいらして娘との関係がこじれてしまったんです。夫にたくさん支えられていたけど、そこに小夏が来て自分ががらっと変わり、親子の仲を修復できました。あれはまぎれもなくアニマルセラピーだったと思う。その後、娘が不在で心が揺らいでしまいましたが、また夫に励まされ、そこに虎徹が来て、立ち直ることができました。うちに来てくれて、本当によかった」

 虎徹がその言葉に応えるように、まあるい目でまりさんを見上げた。

 まだ2歳。これからますます頼もしい存在になっていくのだろう。

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藤村かおり
小説など創作活動を経て90年代からペットの取材を手がける。2011年~2017年「週刊朝日」記者。2017年から「sippo」ライター。猫歴約30年。今は17歳の黒猫イヌオと、3歳のキジ猫はっぴー(ふまたん)と暮らす。@megmilk8686

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