譲渡会で出会った3本足の猫 知らずにその名を呼んでいた…運命を感じてうちの子に

 譲渡会で出会った成猫は、工場で育ち、脚に障害があった。最初は心を開かなかったが、だんだんと家になじみ、いつしか家族の中心になっていった。

(末尾に写真特集があります)

ツンツンの箱入り猫

 都内のマンション6階。居間にあがると、白黒猫が低めのキャットタワーで箱座りしていた。誰か来たの?という風にちらりとこちらを見る。

「この子がうちの箱入り息子、にゃんにゃん。ツンデレというかツンツンの約10歳です」

 飼い主の横野さんが笑顔で紹介してくれた。しばらくすると、にゃんにゃんはタワーを降りてきた。右前脚を折り畳んだまま、ぴたっと胸のほうにつけている。地面に脚を付けないようだ。

譲渡会でにゃんにゃんと呼ぶと…

「初めて会った時、障害があることに気づきませんでした」

 横野さんがにゃんにゃんと会ったのは、2017年の10月だった。

「近くのホームセンターで、ねこかつが主催する保護猫の譲渡会があると知り、『どんな感じだろう』と思って主人と見にいくことにしたんです。“のぞくだけ”のつもりでした」

譲渡会に出たにゃんにゃん(ねこかつ提供)

 横野さんも夫も猫好き。実家では拾ったりもらったりで猫が絶えたことがない。だが結婚してからは仕事や子育てでペットを飼う余裕がなかった。6年前に今のペット可マンションに越してからも、「家族が留守の時間が多いし」「飼うなら子猫よりおとなの猫がいいけど、どうかな」と消極的な気持ちでいた。

 それでも吸い寄せられるように、朝早く、譲渡会に出向いていったのだった。

「会場には8匹くらいの猫がそれぞれケージに入っていました。すぐにおとなの茶トラと白黒猫が目に入り、『どちらかを選ぶのは難しいね』なんて主人と話していました。そうしたら家族連れが白黒猫の前に来て、スタッフから説明を受けているのが聞こえてきました」

「この子はエイズキャリアです。元気ですが、前脚も不自由なんです」

 その言葉を聞いて、「もらわれにくいのかな…迎えるならそういう子がいいな」と横野さんは思った。

 早く訪れたため、ケージに名札を付ける準備ができておらず名がわからない。そこで、近所の野良猫を呼ぶように「にゃんにゃん」と呼んでみた。そしてケージ越しに耳の後ろをちょっと触れると、猫は嫌がるどころか“もっと触って”というように顔を押しつけてきた。

「もうその瞬間に私はメロメロ(笑い)。後でもう一度ケージを見たら、名札に『にゃんにゃん』と記されていて、運命を感じました!知らずにその名を呼んでいたんだ、と」

3日目にカリカリと音が

「この子は一匹飼いをして欲しい」とスタッフに勧められ、納得してその場で申し込みをすると、しばらくして「ぜひ横野家に託したい」と連絡があった。

譲渡会で見初めた翌月、トライアルが始まったが、思いがけないことが起きた。人なつこそうに見えたにゃんにゃんが、隠れてしまったのだ。

「家に来て体重が増えた、でも太ってないよ」(横野さん提供)

「私も主人も猫を飼ってきて慣れていたし、気楽に考えていたんです。ところがテーブルの下や部屋の隅に隠れて。ごはんもぜんぜん食べないし、おしっこもしなくて…」

 翌日、横野さんは仕事を休んで様子を見たが食べなかった。その翌日、仕事にいって帰ってくるとやはり食べていない。丸2日も食べないので猫の体力が心配になり「明日になっても食べないようなら戻しにいこうか…家になじめないのかも」と夫婦で話し合った。3日目、いよいよねこかつに電話をかけようとしたその時、かりかり、と隅で音がした。

 ついに食べてくれたのだ。

「うれしかったですね、にゃんにゃんも我慢の限界だったのかもしれませんが」

 その日を境にごはんをよく食べ、水を飲み、排泄もきちんとするようになった。

 にゃんにゃんは、横野さんが譲渡会で出会うまでの2年間をねこかつ(保護猫カフェ)で過ごした。

 それ以前は埼玉県内の産廃処理工場に住みつき、作業員が餌をあげていた。ところが工場を閉鎖することになり、作業員がねこかつに相談し、保護したのだ。足は脚その当時から悪かったので、事故に巻き込まれたのか、先天的なものかはわからないという。

左前脚をかばうように

 にゃんにゃんは障害をものともせず、元気に動き回った。体調もよく、家に来てから体重も少しずつ増えていった。

 だが2年くらいした時、朝起きると、にゃんにゃんの様子がおかしかった。左前脚をかばうようにしている。

「大丈夫な方の脚を痛めていて、すぐに病院に連れて行きました。そうしたら骨は折れていないけど捻挫をしていて…すぐにぴんときました。あの椅子が原因かもな、と」

「抱っこが苦手でフリーズしたニャ」にゃんにゃんと横野さん

 自宅でパソコンを打つときに作業がしやすいようにと、横野さんの夫が数日前にPC
専用ラックと椅子を買っていた。にゃんにゃんはそこに何度か乗ろうとしていたのだが、キャスター付きの椅子から滑り落ちたのではないか。そう考えた横野さんは、すぐにラックと椅子を処分するように夫に頼んだという。

「猫だからどうしても高い所に乗りたがる。でも、にゃんにゃんがけがをするかもしれない物は、家にないほうがいい。やはり普通の猫よりバランスが取りにくいと思うから…」

 以来、危険がないように室内環境に気をつけているという。

だんらんの中心に

 横野さんには20代のふたりの息子がいるが、にゃんにゃんを可愛がっているそうだ。

「2人とも仕事から帰ると、すぐにゃんにゃんを触っています。男の子はおとなになるとあまり話をしないけど、『まだ触ってほしいの?』なんて猫に話しかけながら、違う話を私にしてくれるようになりました。夫も食事後に自分の部屋に入らず猫と触れあっているし、にゃんにゃんは一家だんらんの中心にいますね」

お気に入りのマットでグルーミング(横野さん提供)

 横野さんも、お世話が楽しそうだ。

「しもべとして仕えています(笑)。にゃんにゃんが家に来て3年目になりますが、最初の頃はシャー以外の声を出さなかったんです。最近になって、私たちの顔を見てようやくにゃあと鳴くようになりました。お尻をぽんぽんして欲しい時と、おなかがすいた時にね」

 にゃんにゃんのペースで、本当の家族になってきたのだろう。

 そろそろ昼寝の時間かな?声をかけると、にゃんにゃんはぴょんと跳ねるように、隣の部屋へと移っていった。

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藤村かおり
小説など創作活動を経て90年代からペットの取材を手がける。2011年~2017年「週刊朝日」記者。2017年から「sippo」ライター。猫歴約30年。今は16歳の黒猫イヌオと、2歳のキジ猫はっぴー(ふまたん)と暮らす。@megmilk8686

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この特集について
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