飼い主と死別し路上に放りだされた猫 新しい家でお姫様になる

「去年12月、猫3匹とここに引っ越してきました」

 東京都港区の瀟洒なマンション。家主の雅子さんに案内されて長い廊下を歩いていくと、居間の入り口の電子ピアノの上にいるキジサビ猫と、目が合った。美人さんねと近づくと、シャーッと怒られた。

(末尾に写真特集があります)

困っている猫を助けたい

「この子が鞠(まり)ちゃん。少しおっかない、我が家のお姫さまです(笑)」

 こちらをしばらく見てから、鞠はふふんっという感じで昼寝をしてしまった。ちょっとプライドの高い鞠と雅子さんが出会ったのは、2011年の5月、ちょうど9年前のことだ。その年の1月に雅子さんは13年間共に暮らしたメス猫うずらを亡くしていて、その悲しみから「猫を当分飼うことはない」と思っていたそうだ。

 ところが3月に東日本大震災が起きて、気持ちが変わった。「困っている被災猫さんの何か役に立ちたい」と思ったのだ。

保護されて避妊手術をしてもらった鞠ちゃん(tekoさん提供)

「それまでボランティアをしたことはなかったけど、福島の猫が大変なことになったので、“預かり”をしようかと思ったんです。それでかかりつけの動物病院に『福島とつながるボランティアさんを紹介してくれませんか?』と訪ねたら、『福島の猫でなくても、近くの猫を保護している良い方がいますよ』といわれて…」

 そして紹介されたのが、近所に住む個人ボランティアのtekoさんだった。tekoさんと直接会い、「ちょうど家族を探している」という(当時2歳半の)鞠の写真を見て生い立ちを聞くうちに、雅子さんは「預かりでなく、家の子にしたい」と運命のように思ったそうだ。

ケージごと道路に放り出されて

 鞠はもともと同じ区内のマンションの1室で、70代くらいの女性に飼われていたのだが、その飼い主が部屋で亡くなってしまった。残された鞠は、飢えをしのいで3月の大地震も乗り越えて3週間後に発見された。

 だが、さらなる試練が待ち受けていた。

「1階に住む大家さんが、しばらくごはんをあげにいっていたそうですが、部屋の整理などが終わった3カ月後、ケージごと道路に放り出してしまった。たまたま通りかかった近所のペットショップの店長が見つけ、彼女のボランティア仲間でもあるtekoさんに連絡して保護してもらえたのですが、それからも“すったもんだ”があったようで…」

凜とした表情が魅力(雅子さん提供)

 この日、途中から取材に参加したtekoさんが、「そう、あの時は大変でした」と説明する。

「私が連絡を受けて現場に駆けつけたら、『アメショーです、もらってください』とケージに貼り紙がしてあって、でもどうみても雑種のキジサビ。猫を置いた大家さんが出てきたので『アメショーじゃないですよね』と言ったら『違うけどそうでもしないと誰ももらってくれない。要らないし困るので』というので驚いてしまいました」

 tekoさんは「家族を募集するので私が連れて帰りましょうか」と連絡先を大家に渡して鞠を連れ帰った。しかししばらくすると電話がかかり「返してよ」といわれたそう。

「自分のほうで飼い主を見つけたんで返してというのです。でもこちらでももう募集をしていたし、何よりも道路に猫を置くような人に任せられません。結局、『お願いする』と言われて引き取りましたが、所有権を巡るトラブルは割と多いので、所有権放棄の同意書というのをきちんと交わすべきだとその時に学びました」

家にやってくると本領発揮

 tekoさん宅で保護されている間、鞠はとてもおとなしくしていて、雅子さんも“静かないい子”と聞いていた。だがいざ雅子さん宅にやってくると、「猫をかぶっていたのではないか」と思うほど、おてんばぶりを発揮したらしい。

「用意したお城(段ボール製)にすぐ入り、部屋には慣れましたが、いきなり私に飛びかかってきたので、おっと本性発揮、やる気を見せたなと。(笑)。ごはんをあげる時も、わんこそばを替える時のようにさっと出してさっと手を引っ込めないと、ひっかかれました」

 雅子さんには鞠がけなげに思えた。一人暮らしで相棒の猫を亡くした自分と、飼い主を亡くして1匹になった猫は、“いいペース”でやっていける気がしたのだ。それまでの無理な生活で尿に結晶が出たり、飢餓感が強く一気に食べては吐いたりする鞠を見て「生涯守らないと」という思いも強くなった。

 その3カ月後のこと、雅子さんは猫友となったtekoさんの家に遊びに行った時に、小さな王子様のような黒猫を見て、心が動いた。クレオと名付けられた生後3カ月の猫だった。

大きく育ったクレオ、奥は雅子さんが保護した芽生

ケンカが絶えず悩んだ揚げ句…

「tekoさんが近所で保護した子猫ですが、最初はノミに吸われて首回りが脱毛してカビカビになって貧血もしていたそうです。私が会った時は、ケアをされて美男子になってました」

 抱かせてもらううちに、雅子さんの心がふっと動いて「うちにシマシマ模様の鞠という猫がいるよ、おねえちゃんが欲しくない?」と思ったそうだ。

「オス猫は飼ったことがなかったのですが、以前、獣医さんに『メスだけでなく、一度オス猫も飼ってごらんよ。可愛いから』と言われたことも思い出しました。tekoさんにクレオを迎えたいと話すとすごく喜んでくれて、うちの子になることが決まりました」

 雅子さんは“同時に2匹”を飼うのは初めてだったので、複数飼いをすると団子のように寝る姿が見られるのかな、と漠然と思っていた。

猫の好きな廊下。鞠(中央)も走ったり寝転んだり(雅子さん提供)

 ところがクレオを迎えると鞠は拒絶し、クレオもひどくビビった。

「シャーシャー(やめて、うざいからー)とつっぱねて、前脚をぶんまわす。私は猫同士のケンカを見たことないからハラハラ気になって。tekoさんに相談したら、そのケンカは血をみるほどの激しいもの?猫同士でいい距離をつくる時が来ると思うから自然に任せてみたら?とアドバイスをもらいました」

 2匹で一緒にくっつかなくても、同じ屋根の下で好きな場を見つけてそれぞれが住み分ければいいのかも、そう思うと気が楽になった。いつもは離れてよそよそしく見える2匹だが、お客さんが来ると一緒に2匹で隅っこに逃げていき、先に鞠が立ち、後ろにクレオが隠れるなど、絆が芽生えるようになっていった。

お姫様はマイペース

 2年前の5月、雅子さんは黒猫のメス、芽生を自ら保護して“3匹飼い”になった。

「芽生は気のいいメスでクレオと仲良くなり、今は2匹で洗面台の下で昼寝中です(笑)。引っ越す前からなぜか黒チームは洗面台の下が好きで、クレオが扉を開けると芽生も入っていくんですよね。そして鞠姫は相変わらず、一人寝を楽しんでいます」

 新居の一室は雅子さんの作業スペースで「mememamori」や「Ohari」など猫グッズを作っている。猫たちは入室NGだが、鞠は廊下が長く部屋も広くなった今のマンションが気にいったのか、以前より食欲が出て、最近、少し体重が増えたそうだ。他の2匹と廊下で遊ぶことも増えた。

 帰りがけに「じゃあね」と鞠に声を掛けると、返事の代わりに元気な「シャー」が響いた。

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藤村かおり
小説など創作活動を経て90年代からペットの取材を手がける。2011年~2017年「週刊朝日」記者。2017年から「sippo」ライター。猫歴約30年。今は16歳の黒猫イヌオと、2歳のキジ猫はっぴー(ふまたん)と暮らす。@megmilk8686

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