教育を受けたことがない元繁殖犬 飼い主と一緒にしつけトレーニング、共に大きく成長

 今年6月に保護犬(元繁殖犬)を迎えたメイクアップアーティストの早坂香須子さん。いざ生活をはじめると、思いがけないことが次々に起きました。自分も犬のことをもっと知りたいし、先住猫のためにも犬に変わってもらわなければ……。そんな思いから一緒にしつけのトレーニングを受けることにしました。変化はあったのでしょうか?保護犬を迎えるまでを描いた前編に続き、後編の今回は保護犬を迎えた後の暮らしをお伝えします。

(末尾に写真特集があります)

クラスの人気者タイプ

「ダンちゃんは明るい子。でも少しビビりだし、排泄、散歩の引っ張り、散歩にいくとテンションが上がってそのまま……といくつか問題がありました」

 こんな時いったいどうしたら?早坂さんが悩んでいると、犬に詳しい友人がドッグトレーナーを紹介してくれた。

「ダンちゃんを迎えて1週間後、ドッグトレーナーの里見潤先生に自宅に来ていただき、様子を見てもらったのですが、いくつか私が課題を出されました。『まず早坂さんは普通に生活してください。絶対、犬に気を使わないで』と言われて、目から鱗でしたね」

鼻を突き合わせる犬と猫
なこちゃんと鼻チューするダンちゃん(早坂さん提供)

 ダンちゃんは音を怖がるので、早坂さんはドアを閉める時もそーっとしていたが、それでは人間も疲れるし、犬が“普通”に慣れるためにも生活音はたてたほういいという。ダンちゃんのキャラの見立ても意外なものだった。

「確かにビビリなところがあるけど、頭もいいし、身体能力が高く、小学校のクラスでいったら“人気者になるタイプ”と言われました(笑)。でも教育されていないので、学び直しが必要で、それが私の大事な仕事だと。一方的に教育するのではなく、飼い主が犬のことを知らないと状況が変わらないということを、痛感した感じです」                    

粗相しても見ないふり  

 ダンちゃんの問題の解決法は、次のようなものだった。

 たとえば排泄。粗相を防ぐために、もともと敷いてあったお洒落で柔らかなカーペットを全部外し、ダンちゃんが来てから用意したパネルカーペットも半分外した。「トイレはおしっこシートでする」ということを徹底するためだ。

「粗相は犬がわかっていてするタイプと、わからなくてするタイプがあるといい、ダンちゃんは後者でした。犬は足の裏の感覚でおしっこ(の場所を把握)するので、絨毯もシートに近い感覚だから、していいと思っていたみたい。先生の前でもジャーとしていたのですが、その時すかさず、『早坂さん見ないでください」といわれて、はっとしました」

 早坂さんは早く始末したいと思ったが、粗相とした時に叱られると、「おしっこすることが悪いのかな」と思って隠れてするようになり、回数を把握できなくなることがあるという。

「叱らなくても、もう~と言いながら始末すると、『おしっこするとママが反応する』と思って癖になるので、ダンがほかのことをしてる間に片付けるとよいということでした。犬は褒められたいだけでなく、ねじれた反応でも欲しがることがあるんだと、初めて知りました」

ベッドの上の女性と犬と猫
「家族が増えて嬉しいです」(撮影・砂原文さん)

 猫のなこちゃんとの関係については、「(早坂さんと)ふたりだけの時間を作ってください」とアドバイスを受け、ベッドの上で短時間でもなこちゃんと過ごすようにして、グルーミングなどをしてあげるようにした。

「寝室のドアをきっちり閉めると、ダンちゃんが嫉妬するのか(わざと)粗相をすることもあったので、ダンちゃんをケージにしまい、声をかけながら寝室にいったりしました」

 そうしているうちに、なこちゃんは“この犬ずっといるならしょうがないね”というふうに、存在を認め始め、ダンちゃんも、ケージに入ると少し落ち着くようになったという。

お散歩は声をかけながら

 外が好なダンちゃんは、散歩時にぐいぐい引っ張る癖があったが、早坂さんが意識を変えることで、サイドウォークにも慣れてきたそう。

「最初は、『はいこっち』とダンちゃんに話しかけながら歩くと、自分が危ない人と思われないかな?と恥ずかしかったんですが(笑)、散歩時の犬との関係性や大切さを知ってからは、照れずに声かけができるようになり、ダンちゃんもムチャをしなくなりました」

散歩中の2匹の犬
サマースクール中のダンちゃん(中央)(早坂さんがトレーナーの先生より送られた写真)

 天真爛漫で、順応性も高くどんどん馴染んでいくダンちゃんと過ごしていると、繁殖犬だったことを、忘れそうになったという。

ネットから聞こえた鳴き声に怯えて

 ところがしばらくして、ダンちゃんがひどく落ち着かなくなった瞬間があった。それは、早坂さんがある動画を家で観ていた時だった。

「ダンちゃんが生まれて5年近く繁殖場にいたこともあり、6月12日にライブ配信されたHGA48・緊急オンライン院内会議『どうぶつのための数値規制』を!を少し遅れてネットで観ていました。すると、浅田美代子さんが訪れた劣悪な繁殖場の録画に切り替わった途端、(低い音だったのに)、犬たちの鳴き声を聞いて、普段ほとんど鳴かないダンちゃんがビクついたようなおかしなテンションになり、興奮して叫んだんです。すぐに動画を中断して、ダンちゃんをなだめて寝かせ、ヘッドフォンで残りを聴きました」

3匹の犬
サマースクール中のダンちゃん(中央)(早坂さんがトレーナーの先生より送られた写真)

 保護団体のブログで見たダンちゃんの保護時の写真は、毛がぼうぼうではあったが、良心的な方だろうと早坂さんは感じていた。だが狭い所で一度にいろいろな鳴き声が聞こえるような環境にいたので、「こんな風に思い出すのだろうか」と切なく思ったという。

「なこちゃんも多頭崩壊出身なので、食べものにこだわる。お皿に残ったままどこかに行って、その間にダンちゃんが食べようとすると、それ私の!と焦るんです。なこもダンも2匹ともにいろいろあったから、そんな背景もしっかり受け入れないといけないんですよね……」

初めてのサマースクール

 ドッグトレーナーからの課題を粛々とこなす早坂さんだったが、先生の家で他の犬たちと合宿ができると聞き、8月に入り、ダンちゃんを預けることにした。

「まだ不安要素があったし、経験が広がるといなと思って参加を決めました。ダンちゃん初サマースクール!家に来て1カ月半足らずでしたが、先生にダンちゃんをお渡しした瞬間から、さみしくて泣けてきた(笑)。合宿の間、先生から写真や動画が届いて、がんばる姿に今度は嬉し涙。ふだん物音に敏感すぎるダンが、屋内でビクつかず楽しんでいたんです。散歩も大きなわんちゃんたちと歩調を合わせて歩いていました」

犬と猫
近頃、つかず離れずお互いを認め合うよい距離感に(早坂さん提供)

 サマースクールは1週間だったが、「大きな成長を感じた」という。

「トイレが100%成功となって帰宅。犬たちの社会で揉まれ、なこちゃんにもテンション高くちょっかいを出すことがなくなり、なこの方もダンを家族として受け入れた感じがします。合宿中、なこは以前の“ひとりっ子”に戻りましたが、ダンちゃんが来てからお姉さんをしていたんでしょう。のびのびした気持ちを取り戻し、内に我慢するのもやめたみたい」

 早坂さん自身にも変化があったようだ。

「私がふたりを仲良くするために気を遣わなくなりました。ごはんやブラシなど習慣的なことは今もなこちゃんが先ですが、2匹のペースで(かまってほしい時に)アピールしてくるようになり、嫉妬も減ったようです。1週間離れて暮らすことで、みんなの気持ちが自然に変わったのかも。散歩がない間に私の体重も少しプラスになったけれど(笑)」

ずっと2匹を大切に

 なこちゃんとダンちゃんとの暮らしを楽しむ早坂さん。2匹を大切にしたい、と話す。

「ご縁を頂き、犬と猫の両方と暮らすことができて幸せです。なこちゃん、ダンちゃんを通していろいろ教えてもらっているので、これから外に向けて、(保護動物について)思うことなどをどんどん発信していきたい。まずは、この子たちをうんと幸せにしないと」

 慌ただしかった夏が過ぎ、早坂さんの家に実りの秋が訪れようとしている。絆もどんどん深まることだろう。

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藤村かおり
小説など創作活動を経て90年代からペットの取材を手がける。2011年~2017年「週刊朝日」記者。2017年から「sippo」ライター。猫歴約30年。今は19歳の黒猫イヌオと、5歳のキジ猫はっぴー(ふまたん)と暮らす。@megmilk8686

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この連載について
ペットと人のものがたり
ペットはかけがえのない「家族」。飼い主との間には、それぞれにドラマがあります。犬・猫と人の心温まる物語をつづっています。
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