留守番でパニックを起こした犬 治療・訓練をへて病院の人気者に

   家に迎えた保護犬が、1匹にするとパニックを起こして暴れ、留守番をさせられない。トライアルをしてみて、初めて分かった。それでも手放さず、治療と訓練を経て、今では幸せに暮らす家族がいる。犬は外出が好きになり、勤務先の病院でも人気者に。犬の治療を機に、飼い主には新しい目標も見つかった。

(末尾に写真特集があります)

   東京・八王子にある一戸建て。介護士の北村大輔さんと、看護師の環奈さん夫妻は、2匹のミックス犬と暮らしている。

   マルチーズとミニチュアダックスフントの混血の姉妹で、11歳の「ハニーパン」と「にじ色」だ。

教室(Dog Culture WISH)でプライベートトレーニング中のハニーパンと環奈さん
教室(Dog Culture WISH)でプライベートトレーニング中のハニーパンと環奈さん

よく吠え、留守番が耐えられない犬

   夫妻がハニーパンを迎えたのは3年前の秋。その3カ月前に見送った先代犬を保護団体「ミグノン」から迎えた縁で、ミグノンのホームページを見たのがきっかけだった。

   8歳の時、親犬や兄弟犬と一緒に動物愛護センターに持ちこまれ、ミグノンに救出された犬だった。

   紹介を受けて、夫妻はハニーパンのトライアルを始めた。

「少し神経質」とは聞いていたが、いざ家に迎えると、どこでもよく吠えた。

   留守番も大変だった。最初は屋内で自由にさせて留守番をさせると、ドアをかじっていた。次はソフトクレートに入れておくと、メッシュ部分を破って外に出て暴れていた。そこで網のケージに入れると、鍵を開けて出ていたという。

 夫妻に慣れるのは早かったが、1匹にすると、パニックを起こしたのだ。1カ月以内に正式譲渡となったが、吠えや分離不安の克服が課題となった。大輔さんが説明する。

「先代犬は高齢で耳も悪いこともあり、静かな落ち着いた子でした。犬によってこんなに違うものかと驚きましたね。外出のたびに騒ぎ、留守番させるとパニックを起こすハニーパンもつらいだろうし、ミグノンさんに相談して行動治療を受けることにしたんです」

葉山にて。環奈さんに抱かれるにじ色と大輔さんに抱かれるハニーパン(2年前)
葉山にて。環奈さんに抱かれるにじ色と大輔さんに抱かれるハニーパン(2年前)

治療の結果、お出かけ大好きに

 動物行動学で有名な獣医師の診察を受けた。保護された背景や日頃の様子を細かく聞きかれ、内服薬(抗うつ薬)とサプリメントを処方された。おやつを使ったトレーニングなども教わった。環奈さんがいう。

「留守時の不安は薬で落ち着いていきました。外出時の興奮に関しては、緊張する場面で特別なおやつ(好きなササミやチーズなど)を細かくして与え続け、おやつに集中させる。嫌なことと大好きなことをセットにして状況に慣れさせていく。徐々におやつの頻度を減らし、望ましい行動をとるとご褒美がもらえるという学習をさせる……という方法を習いました」

 外出先で会った人にもご褒美をあげてもらい、「いい子、いい子」とほめてもらうことで、吠える症状もおさまっていった。環奈さんは、獣医師の治療と平行して犬のしつけやマッサージ、手作り食などを学べる教室にも通った。

「治療を始めて2カ月くらい経った頃、誰に触られても平気になり、お出かけや旅行も大好きになったんです」

病院に通勤したにじ色(左)とハニーパン。嬉しそう。
病院に通勤したにじ色(左)とハニーパン。嬉しそう。

足の不自由な姉妹犬も加わる

 実は、夫妻はハニーパンを迎える際、その姉妹犬「にじ色」の方が気になっていた。若い頃に両前足をけがして治療されず放置されたため、前足に障害があった。床をすって歩くため、外出時には抱っこ袋が必要で、留守番のない家が理想だと説明されていた。

   ハニーパンを迎えてから7カ月後、ミグノンのサイトを見ると、にじ色のプロフィ-ルに「留守番できます」と載っていた。トライアルを経て、家に迎えた。

「にじ色のために、低いソファを置き、リハビリ用の高反発のマットも敷きました。階段は使えないし、すってしまうので外も歩けませんが、家の中の平らなところは早く歩くんですよ」

 にじ色はハンデを忘れてしまいそうなほど元気いっぱい。マットを敷いた居間やキッチンを跳ねるように歩いている。

「患者さん、こんにちわん」「ここはパパママの職場なんだね」
「患者さん、こんにちわん」「ここはパパママの職場なんだね」

患者さんとともに笑顔に

 精神的に問題があったハニーパンと、足に障害のあるにじ色。2匹のケアをしながら、夫妻は「楽しく充実した生活」を送っている。

   2匹は、月に2度ほど、夫妻が勤務するリハビリテーション病院へ一緒に通勤する。患者さんとふれ合うためだ。2匹も患者さんとの時間を楽しみにしているという。

「病院が犬によるセラピーを始めたいというので、うちの子たちを参加させるようになりました。脳や循環器、整形を中心としたリハビリ病院なのですが、麻痺のある方が犬を膝に乗せると、落とさないように集中したり、なでるために手を動かそうとしたり、体を起こそうとしたりするので、セラピー兼リハビリになっていると思います」

   環奈さんは、犬に必要な治療やケアを行い、正しい知識を持って接することで「こんなにも犬は変わるのか」と実感したという。そして、犬のインストラクター養成講座を受講し始めた。

「ハニーパンも、にじ色も個性が違う。勉強することで犬たちとの絆が深まったと感じています。見た目の可愛さだけでなく、犬種の運動量や性格の傾向なども知った上で飼うのは大切なこと。人と犬の幸せな生活をサポートできるような存在になりたいんです」

 環奈さんはそう言って、愛しい2匹を見つめた。

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藤村かおり
小説など創作活動を経て90年代からペットの取材を手がける。2011年~2017年「週刊朝日」記者。2017年から「sippo」ライター。猫歴約30年。今は19歳の黒猫イヌオと、5歳のキジ猫はっぴー(ふまたん)と暮らす。@megmilk8686

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