かかりつけ医だからできること 淺井亮太獣医師「動物の命を輝かせるお手伝い」
動物病院の診察室で、ペットと飼い主さんと日々向き合う獣医師の“思い”を紹介する当連載。第3回は、「動物医療センター もりやま犬と猫の病院」院長・淺井亮太先生にお話をうかがいました。
(この連載はペットの健康診断を推進する獣医師団体、一般社団法人Team HOPEと共同でお届けしています)
“おたがいさま”のホスピタリティ
淺井先生が院長を務める「動物医療センター もりやま犬と猫の病院」は、予防医療から専門的医療まで対応し、さらに年中無休で24時間救急診療を行っています。
「特に夜間救急では、対応している病院が少ないこともあって、初めての患者さんもたくさん来院します。誤飲や誤食だったり、高いところから落ちて骨折したりというのが多いですね。ひと晩で平均10件くらいあります」
また、見るからに具合が悪かったり、ケガをしたりしているケースだけでなく、「どうも元気がなくて……」と、飼い主さんが心配して連れてくるというケースも少なくありません。
「そんなとき、かかりつけ医として診ている子の場合は、普段の様子や健康状態をこちらも把握しているので体調の変化に気づきやすく、万一のときにも診断から治療までスムーズに進めることができます。慣れている場所のほうが動物にストレスがないですし、飼い主さんにとっても、大事なわが子のことをよく知っている獣医師のほうが安心で、話もしやすいと思います。そういう意味で、かかりつけ医をもっておくことは大切だと思います」
一方で、初めて診る動物の場合は、飼い主さんの話を聞くところからはじめます。家族構成、家でどんな生活をしているのか、どんなところが気になるのか——、飼い主さんに細かく丁寧に話を聞きながら、焦らずいつもどおりに動物を診ることで、原因は必ず見えてくるといいます。
「特別なことをしているわけじゃないんです。飼い主さんの言葉に耳を傾けながら、ひとつずつ手順どおりに診察、検査をして原因を突き止めます。その結果、大したことがなかったという場合もありますし、それでも飼い主さんが心配だというなら、次の日にもう一度診させてもらうようにしています。不安の感じ方は人によって違いますから、飼い主さんの感覚に合わせた診察、治療を心がけています」
そうして動物と飼い主さんに寄り添う淺井先生の思いの根底には“おたがいさま”の気持ちがあります。
「100年、200年経って技術が進み、AIが発展しても、最終的に人の心に寄り添えるのは人間である獣医師。だから、獣医師に必要なのは獣医療の知識や技術はもちろんですが、“おたがいさま”の気持ちを忘れずに、飼い主さんの立場になって接することだと考えています。動物病院はサービスを提供する場ではなくて、動物と人に寄り添うホスピタリティにあふれる場。そしてそれが、究極のかかりつけ動物病院だと考えています」
命を輝かせるためにできること
淺井先生が獣医師になって20年。2007年に開業してからいまにいたるまで、年中無休、夜間救急対応を続けています。
「いまはスタッフとシフトを組んで働いていますが、開業当初は自分一人だったので、文字通り24時間、仕事をしていました。日光に当たらないから真っ白になっちゃって(笑)。いま思えば無計画すぎますが、動物の命に休みはないという思いはいまも変わっていません」
そんな淺井先生が将来の夢として獣医師を考えるようになったのは、小学4年生のときでした。
「小学生のときに戸建てに引っ越したのをきっかけに、どうしても飼いたいと親に無理を言って、犬を飼い始めたんです。もう、その子がかわいすぎて。犬のためになる仕事をしたいと最初に思ったのが、この頃だったと思います」
時が経ち、大学ではオリンピックを目指すほど「カヌースラローム」に没頭した淺井先生。就職では、教員になることを目指しましたが挫折してしまいます。
「挫折は自分の人生を見直す機会となりました。日々の生活の中で子どもの頃の夢からはいったん離れていましたが、過去を振り返ったときに、『獣医師』という3文字が自然と頭に浮かびました。そこからは猛勉強。獣医師になるための大学に編入学しました」
そうして幼い頃の夢を叶えた淺井先生が獣医師として大切にしているのは、動物の命を輝かせること。
「生き物には寿命がありますから、死ぬことは避けられません。だからこそ生きている間は輝かせてあげたい。そのお手伝いをしたいと思っています」
淺井先生が代表を務めるテリアグループでは、飼い主さんと二人三脚で、家族である動物の健康と幸せを見守るのはもちろん、動物に対する考え方や病気についての知識を学んでもらう教室を無償で開催したり、情報を発信したりと、飼い主さんと動物が幸せに暮らすためのサポートにも力を入れています。
動物も人も、みんなが幸せな世の中を目指して
また、年中無休、夜間救急対応とあわせ、淺井先生が開業当初から続けているのが健康診断です。
「僕は、人と動物が幸せになるためにどうすればよりよい世の中になるかを考えて行動するようにしていて、健康診断もそのひとつ。人間の何倍も加齢のスピードが早い動物たちにとって、健康診断は健康管理とリスク管理の要ですから。でも、僕が開業した当時は健康診断をしている病院はほとんどありませんでした」
開業からしばらくして淺井先生は、全国の獣医師がチームとなりペットの予防医療と健康管理の普及・啓発活動に取り組む「一般社団法人Team HOPE」を立ち上げた太田亟慈先生と知り合う機会に恵まれました。
「健康診断は将来的に絶対必要なことで、業界全体で、みんなで力を合わせてやっていこうというお話を聞いたときに、そうすればきっと幸せな動物が増えるだろうと思いました。すぐに賛同して、いまは副代表として運営にも携わらせていただいています」
また、獣医師が主体となって機能障害をもった犬や猫を保護し、無償で治療して新しい家族に送り届ける活動を行う「Team BOWWOW」にも参加。賛同病院として動物の治療にあたるほか、淺井先生はTeam BOWWOWで治療した犬を家族として迎えてもいます。
動物の命を輝かせるため、一つひとつの命に真剣に向き合い、飼い主さんに寄り添う淺井先生には自慢があります。
「かかりつけ医として僕が診ている子たちは、健康診断をしっかりしていることもあって、長生きする子が多い。そして亡くなった後にほとんどの飼い主さんが僕にあいさつにきてくれるんです。『先生、最期まで幸せだったよ』と言ってもらうたび、こちらこそありがとうという気持ちになります」
淺井先生が目指すのは、「動物も人も、みんなが幸せな世の中」。
「まず獣医師の仕事に誇りをもって自分が幸せだと思うこと。そして動物はもちろん、人も幸せにする気持ちで頑張ること。その結果、動物病院は、動物も人もリラックスできる、ホスピタリティあふれる場になり、社会全体がそういう場になれば、みんなが幸せなよりよい世の中になるでしょう。そのために努力し続けていきたいと思います」
今回ご登場いただいた獣医師の先生
淺井亮太先生
獣医師。「動物医療センター もりやま犬と猫の病院」院長。「株式会社テリア」代表取締役。「一般社団法人Team HOPE」副代表。日本大学農獣医学部、酪農学園大学獣医学部卒業。2007年、愛知県名古屋市に「もりやま犬と猫の病院」(現「もりやま犬と猫の病院ケアセンター」)を開院。現在は、名古屋市に2か所、豊田市に1か所の拠点をもつテリアグループとして予防医療から先進医療まで幅広く対応している。
この連載はsippo×Team HOPEでお届けしています
一般社団法人Team HOPE
2013年に発足した、ペットの健康診断を推進する獣医師団体。健康な時から動物病院へ通うことで、病気の早期発見と早期治療の実現を目指すと同時に、ペットとご家族さまにとって動物病院がいつでも行けて相談できる、身近な存在となるよう活動している。賛同会員病院数は2024年11月時点で2,800を超える。https://www.teamhope.jp/
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