ギャル猫ディーナは和スイーツ好き? 脱走するもアイスで捕獲

25年前、両親が健在だったころ、デパートのペットショップで「在庫処分」扱いされているところを引き取ったディーナさん。なかなかの美人さんでした
25年前、両親が健在だったころ、デパートのペットショップで「在庫処分」扱いされているところを引き取ったディーナさん。なかなかの美人さんでした

 もう今から8年ほど前のこと。その当時の我が家の最高齢猫は、なんと妊娠した状態でペットショップからやってきたギャルママ・ディーナさんでした。17歳という年齢は人間なら本当に「ギャル」ですが、猫である彼女は立派なシニアなのでした。

(末尾に写真特集があります)

抹茶アイスLoveだったディーナ

 人間の食べるものは極力あげないようにしていたものの、長年一緒に暮らしていると「特別なおやつ」ができてしまうこともありました。

 まだ「ちゅ~る」なんてない時代です。例えば梵天丸はレタスやキャベツの葉を「しゃもしゃも」するのが大好き。ヨーグルトやミルク、チーズはどの子も大好物です。

そして我が女帝、ディーナさんはギャルらしく「スイーツ」が大好き。柑橘系以外のフルーツ(特にマンゴー)が好きでしたし、バニラアイスはもちろん、一番のお気に入りは抹茶アイスでした。

 コンビニやスーパーで売っている、1箱にたくさん入っているお徳用の棒つきアイス。白い練乳アイスがかかっていて、中身は宇治金時、っていうやつです。

 これが夫の好物で、夏になると冷蔵庫に常備していたんですが、ある日練乳の香りにつられたディーナが一口ご相伴に。すると、なんと練乳部分よりも緑色の「抹茶部分」にご執心なのです。

 お茶に含まれるタンニンやカフェインが気になるので(安いアイスでそんなにたくさん入ってるとは思えないものの)、それに甘い物もよくないでしょうから、なめるとしてもごくたまに。ほんの一口。

 それでも、冷凍庫から抹茶アイスが出てきたときだけ、ディーナだけが、夫の元に駆け寄ったものです。

抹茶アイスとなると目の色が変わったディーナさん。「一口だけ」だから余計にうれしかったのでしょう
抹茶アイスとなると目の色が変わったディーナさん。「一口だけ」だから余計にうれしかったのでしょう

脱走したときも抹茶アイスで

 そんなディーナが、2階の窓から1階の屋根に出てしまったことがありました。古い日本家屋。2階は1階の半分ぐらいの広さで、ぐるりと瓦屋根になっています。出てしまったのを目撃したので、すぐに追いかけようと思いましたが、何しろ屋根の上です。ここは慎重に……。

 そこで抹茶アイスを持ち出しました。最初は出てしまった窓からアイスを差し出して、できるだけ優しい声で呼びます。

「ディーちゃん。ほら、おいで。一緒にアイス食べよう!」

 気になるようでそばには来るものの、家に入ろうとはしてくれません。仕方がない、かくなる上は……。

 私が窓からそっと、幅1mほどの屋根に出ました。人が見たらどう思うでしょう。手に抹茶アイス持ったおばさんが、へっぴり腰で屋根の上を猫を呼びながら歩いてるんですから。

「ほら。ディーナ、おいでよ」

 意を決して、屋根の上にあぐらをかいて座りました。そこで一人、アイスを食べていると……。

「なーぅ……」

 ディーナがやってきます。まるでリビングでくつろいでいるかのように、ディーナがひざの上まで来るのを待ち、腕の中でアイスをなめさせてあげました。

「おいしいね。じゃあ、そろそろ帰ろうか」

 ふと顔を上げると、夏の夕暮れです。近所のスーパーへ向かう自転車にのった人、学校帰りの小学生。夕日にきらめく、よその家の屋根瓦。

「ディーナさんのおかげで、いい景色が見られたよ。ありがとね」

 怖がらせないようにディーナを抱っこして、そーっと家に入りました。

これが当時住んでいた家。この1階の屋根部分をぐるりと、抹茶アイス片手に回ったのでした
これが当時住んでいた家。この1階の屋根部分をぐるりと、抹茶アイス片手に回ったのでした

塩歯磨きにだまされたディーナ

 虫刺されの薬や湿布薬。歯磨き粉。人間が口にするガムやタブレット。スースーするミントへの反応も、猫それぞれです。

 大抵の猫がいやがって顔を背けるのですが、ディーナさんだけはミントが大好きでした。虫刺されの薬など、気を付けないと、塗った患部をなめようとします。

 薬を口にしていいはずがないので、注意が必要でした。湿布を貼ったら、必ず上から包帯を巻くこと。それでも包帯や服の上から、ザリザリと音を立ててなめようとするのです。

 そんなディーナが、ミントに「懲りた」ことがあります。それは歯磨き。夫はかなり乱雑に歯磨きするので、口のまわりに白くあぶくがつきます。洗面台に乗ったディーナがそれをぺろり。

「こらディーナ。そんなものなめるんじゃありません」

 ところが、ある日。歯茎の腫れを気にした夫が、塩入り歯磨きを買ってきたのです。匂いは今までと同じミント。意気揚々と、ディーナがそばへ行き、一瞬で夫の口元をぺろり。

 ぶくぶくぶく……。

 口から唾液(だえき)と共に泡を吐き出しました。甘いとばっかり思ってたらしょっぱかった。驚いたことでしょう。

 以来、歯磨きしている人間に近寄らなくなったのは、おそらくあれで懲りたせいでしょう。

ビビりん坊のくせに、寝るときの姿勢は「だらーん」。典型的な内弁慶でした
ビビりん坊のくせに、寝るときの姿勢は「だらーん」。典型的な内弁慶でした

ギャルのまま、17歳で他界

 たいていの犬や猫は、歳をとると寝ている時間が長くなり、性格も穏やかになっていきます。しかしディーナさんは、見事に「ギャルのまま」でした。

 私たち夫婦にだけは、おなかを触らせてくれたディーナさん。ある日何げなく体を触っていて、乳首ではない、イボがあるのに気づきました。

 診断の結果は乳腺がん。1度は手術して除去しましたが、食欲が落ち、どんどん体重が低下。2kgを下回りそうなほど痩せたころに、再発。

 最期は、仕事の途中で気になって立ち寄った、夫の腕の中で逝きました。生意気で可愛くて、気が強いくせにヘタレだったディーナさん。

「これで、私の実家のことを知ってる猫が誰もいなくなっちゃった……」

 涙にくれる私に、夫がかけてくれた慰めの言葉は

「まだ君がいるでしょ」

 どうやら相変わらず私は、猫と同列のようです(笑)

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浅野裕見子
フリーライター・編集者。大手情報出版社から専門雑誌副編集長などを経て、フリーランスに。インタビュー記事やノンフィクションを得意とする。子供のころからの大の猫好き。現在は保護猫ばかり6匹とヒト科の夫と暮らしている。AERAや週刊朝日、NyAERAなどに執筆中。

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この連載について
毎日が猫曜日
猫と暮らし始めて、気が付けば40年! 保護猫ばかり6匹と暮らすライターの、まさに「カオス」な日々。猫たちとの思い出などをご紹介します!
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