暴れん坊のコギャル猫「ディーナ」がわが家へ 猫4匹犬1匹に

我が家にやってきたころのディーナさん。目元のきりっとした、スリムで小柄な美人さんでした
我が家にやってきたころのディーナさん。目元のきりっとした、スリムで小柄な美人さんでした

 今から20年ほど前のこと。父が心不全で倒れたことで、東京から猫2匹連れで名古屋に引っ越して2年と少し。人生5番目の猫と出会ったのはそんなころでした。

(末尾に写真特集があります)

デパート屋上のペットショップで 

 父の状態もすっかりよくなり、体重も血圧も下がって、むしろ以前より健康に。そんなある日のことです。

 週末の買い物に、少し郊外のデパートまでドライブするのが両親と私の楽しみでした。何の気なしにデパート屋上へ行ったところ、そこにはペットショップが。

「ねえ、可愛いアビシニアンがいるよ」

 我が家には同じアビシニアンのアーサーがいます。だからどうしても、アビシニアンに目が行ってしまうのです。

 ケージに入れられているのは、ほとんどが子猫や子犬。なのに、狭いケージの天井に頭が付きそうなぐらい育ってしまった、メスのアビシニアンがいました。

 シャーッ!

 スリムなボディにアーモンド形の緑の瞳。それはそれはきれいな猫なのに、誰かがケージをのぞき込むたびに、精一杯歯をむいて威嚇します。眼光鋭くすごむさまは、まるで不良少女のよう。

「あらあらあら。せっかくの美人さんが台無しでしょ」

 動物好きの母が声をかけながらケージの前に立ちました。

 んにゃん。

 あら。

 その子は、私たち家族には歯をむきませんでした。鈴を転がすような声で鳴き、透明なアクリルのドアに頭をこすりつけてきます。ケージに表示されていたのは、アビシニアンのメスであること。生後9か月。お値段は…

「3万円???」

 純血種のアビシニアンが3万円とは、当時としても破格でした。こんなに大きくなるまで売れなかったからこの値段なのか。こんなにかわいいのになかなか買い手がつかないのは、やはりあの威嚇ぐせのせいでしょう。

家に来たとたん、この態度。ご飯を平らげ、好き放題探検したら、母のベッドでのびのび
家に来たとたん、この態度。ご飯を平らげ、好き放題探検したら、母のベッドでのびのび

「うちに迎えましょう。こんなに窮屈なところに入れられて、毎日ああやって怒って歯をむいて…かわいそうよ」

 この娘は私が更生してみせる。そんな顔で母がきっぱりと言いました。そうして我が家に来ることになったのが、暴れん坊の「コギャル」、ディーナさんでした。

子猫というにはドスのきいた声

 段ボールの簡易ケージに入れられて、ディーナは我が家へやってきました。道中、心細そうに鳴いていましたが、箱ごと膝にかかえると、とたんに静かになりました。ところが、家に入ったとたん。

 わぁぁぁぉーーーーう!

 小さな体のどこからそんな声が?というほどの一声です。ほかの猫たちや犬のニオイがしたのでしょうか。いきなり飛び出したりしたら大変。とにかくリビングまで箱のまま運びました。

 んぎゃぉぉう! うわーーーぁおぅ!

 アーサー、クリス、ココ。猫たちはいっせいに逃げ出し、食器棚やオーディオラックの上へ駆け上がり、がたがたと揺れながらすさまじい声を発している箱をこわごわ見つめています。

 かわいそうなのは犬のネネでした。犬は猫のように高いところへ上がれません。父の膝に必死で飛び乗り、ガクガクと震えています。

「大丈夫だってば。子猫だよ」

 ネネが「信じない!」という目つきで箱をみつめています。子猫というにはあまりにドスのきいたうなり声。箱のふたを開けると…ぴょん!と茶色い塊が飛び出しました。

 初めての場所なのに、鼻が利くのか、まっしぐらに猫たちのご飯場所へ飛んでゆきます。みんなの皿に頭を突っ込んでは底をなめています。

「お腹減ってるのかしらね」

 用意した皿にドライフードをざらざらっとあけると、がつがつと食らいつきます。ペットショップでご飯をもらえてなかったってことはないでしょうに…。不思議な子です。

うなぎの頭を盗み食いしようとしてかぶりついたら、あまりの熱さに「うなぎにかみつかれた」と勘違い。台所の床中、頭をどつきまわして怒ったことも
うなぎの頭を盗み食いしようとしてかぶりついたら、あまりの熱さに「うなぎにかみつかれた」と勘違い。台所の床中、頭をどつきまわして怒ったことも

 名前は私がつけることになりました。ここでもアルファベットの法則です。何番目のお産で生まれた子かは、わかりません。アーサー(A)、クリス、ココ(C)と来て、次はDだ!ってことで、名前は「ダイアナ」に。しかし「ダイアナ」は呼びにくい、ということで「ディーナ」に落ち着きました。

 ひとしきりお腹がふくれたら、ディーナはすっかりおとなしくなりました。家じゅうを探検し、さっさとトイレをみつけて用を足します。

 人間にはのどを鳴らしてすり寄りますが、クリス、ココ、ネネには「シャーッ!」。唯一、同じアビシニアンのアーサーには、後ろをついて歩くようになりました。同じ種類なのがわかるのでしょうか。まるで先輩を慕う後輩のようによりそい、アーサーが顔を洗えば自分も洗う。アーサーが香箱を組めばすかさず隣で組む、という調子。

「アーサー、かわいい後輩ができてよかったじゃん」

 当のアーサーはむしろ迷惑そう。ですが、なついてくるのを邪険に払うこともしません。これで猫4匹、犬1匹。

 小競り合いはありつつも、なんとかうまくバランスをとってやっていけるはず、でした。その一か月後までは……。

【前の回】鐘つき堂で生まれた子犬「ネネ」 リハビリ中の父に笑顔をくれた
【次の回】ペットショップから来た猫「ディーナ」 なんと妊娠していた!

浅野裕見子
フリーライター・編集者。大手情報出版社から専門雑誌副編集長などを経て、フリーランスに。インタビュー記事やノンフィクションを得意とする。子供のころからの大の猫好き。現在は保護猫ばかり6匹とヒト科の夫と暮らしている。AERAや週刊朝日、NyAERAなどに執筆中。

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猫と暮らし始めて、気が付けば40年! 保護猫ばかり6匹と暮らすライターの、まさに「カオス」な日々。猫たちとの思い出などをご紹介します!
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