ペットショップから来た猫「ディーナ」 なんと妊娠していた!

出産間際の、おなかふっくらディーナさん。ちょっと移動しては横になってフウフウ息をしてました
出産間際の、おなかふっくらディーナさん。ちょっと移動しては横になってフウフウ息をしてました

 ふとした出会いで我が家へやってきた、アビシニアンの女の子、ディーナさん。暴れん坊ながらも家族に溶け込み、楽しい日々が始まったはず、なのですが。

(末尾に写真特集があります)

食いしん坊猫「ディーナ」、ごはんを横取り

 肩で風を切って歩いてはいますが、これといったトラブルもなし。ネネは怖いなりになれたようで、時には寄り添って昼寝をするように。クリスもココものほほん、と付き合っています。相変わらずアーサーのことは勝手に「先輩」と決めたようで、うるさがられながらもついて歩いています、が。問題は食事でした。

 決まった時間になると、ご飯タイムです。ネネはドッグフードを。猫たちは缶詰フードを。仲良く一列に並んでもらうのですが、ディーナの食欲はちょっと異常でした。

 うゎぅ、うゎぅ、うゎぅ…

 何やらうめきながら、がつがつと食べます。そして誰よりも早く平らげると、クリスといわずココといわず、手あたり次第に突き飛ばして、横からご飯を奪うのです。この時ばかりはアーサーとて例外ではありませんでした。

「こら!ディーナ!この食いしん坊め!」

 猫の食事時間には、必ずだれかが付き添わなくてはなりません。これまで互いのご飯を奪い合ったことなど一度もなかった3匹は、何が起きたのかわからず、顔を見合わせています。

 ちなみにネネのご飯は「ネネちゃん絶対LOVE!」の父がしっかり、ガードしていました(笑)。

 そんなある日。

「なんだかディーナさん、太ったんじゃない?」と母。

 うちへ来て一週間と少し。たしかにお腹がふっくらしてきたような…。手でふれると嫌がりませんが、おなか周りがやけにがっちりしています。

「病気だといけないから、お医者さんに診てもらおう。ワクチンもまだだし」

診察した獣医師「子猫が産まれますよ」

「あと少しで生まれますね」

 ディーナを触診した先生はにっこり笑って、そう言いました。

 はい????ディーナはつい最近、ペットショップから来た子なんですよ。先生、私の説明聞いてました?

 しかしレントゲンにはまるでメザシのように小さな骨格が5体、並んでいるではありませんか!うちの猫たちは全員、避妊去勢済。母も私も混乱するばかりです。先生、そもそも猫の妊娠期間って、どのぐらいなんですか?

「およそ9週間ですね。おそらくあと10日ぐらいで生まれますから、受胎したのはお宅に来る前じゃないでしょうか」

 ああもう、何が何だか!母に至っては「娘に彼氏ができたときだって、こんな心配しなかったのに…」などと口走る始末。あたしゃ猫並みか。

 その夜、母はご飯をあげながらディーナに謝っていました。

「知らぬこととは言え、悪かったね。食べても食べても足りなかったろう。お母さんになるんだもんね。好きなだけ、食べなさい」

飼い主の心配をよそに、立派に母猫になったディーナ。どこか誇らしげな表情がかわいい
飼い主の心配をよそに、立派に母猫になったディーナ。どこか誇らしげな表情がかわいい

 それから約10日後。先生の予告通り、ディーナは5匹の子猫を出産しました。アビシニアンの子のはずなのに、産まれた子には縞模様やまだら模様が…

 どういうことなのか、デパートに問い合わせました。デパートがテナントのペットショップに確認、事実関係を調査。その結果。

 我が家に来る前、ディーナは2週間近く、店にいました。その時点ですでにおなかに赤ちゃんがいたのです。その前は、なんとブリーダーのところにいたのだとか。

「そのブリーダーはアビシニアンとアメリカンショートヘアを繁殖しています。生まれた子猫に縞やまだら模様があるなら、おそらくアメショーとのミックスでしょう」とショップの方。管理が甘く、ディーナとアメショーが交配したのを見て、おなかが目立たないうちに慌てて手放したのだろう、とのことでした。

生まれたばかりのディーナの子。アビシニアンの子どもなのに、おなかにはまだら模様が?
生まれたばかりのディーナの子。アビシニアンの子どもなのに、おなかにはまだら模様が?

 デパートとしては面目があるのでしょう。『お客様相談室』の方は電話口でこう言いました。「不良品ですので、母猫、子猫とも当店で引き取ります。もちろんご返金もいたします」

 母はきっぱりと「お断りします。不良品だなんてとんでもない。こんなにかわいい子たちが5匹もお腹にいたんですよ!喜んでお引き受けしますのでご心配なく。ただ、ブリーダーの方には、乱雑な管理を改めてくださるよう、お伝えください」と言って電話を切りました。

 その時に学んだこと。猫の妊娠の確率は、ほぼ100%。1回交接があれば、ほぼ確実に1匹、赤ちゃんができます。交接のたびに1匹ずつ入り、父親が違えば違う遺伝子、つまり違う柄の子が生まれることもある、というわけです(獣医さんに教わりました)。

子猫たちは新しい家族のもとへ

 ディーナに子育てなんてできるのかと心配でしたが、誰に教わるわけでもなく、立派にお母さんを務めあげました。相変わらずガツガツと食べ、おっぱいをあげ、排泄を促し、子猫たちを大事そうに抱えて眠ります。やがて眼が開き、よちよちと家じゅうを徘徊するようになりました。

 さあ、大変です。我が家はさながら『わくわく動物ランド』です。かわいいけれど、いきなり猫9匹は、飼いきれる数ではありません。私は打ち合わせや取材、撮影の現場へ行ってはモデルやカメラマン、スタイリスト、編集者に子猫の写真を見せて引き取り手を探しました。

少しずつ、微妙に毛色の違う5匹。母猫ディーナ、育児でくたくたです
少しずつ、微妙に毛色の違う5匹。母猫ディーナ、育児でくたくたです

 子猫たちにはあっという間に貰い手が見つかりました。どなたも信頼できる、猫飼育の経験のある人ばかりです。離乳が済んで、しっかりご飯が食べられるようになってから譲渡しました。

 最後の1匹がいなくなった日。ディーナは少し寂しそうでした。家じゅうを歩き回り、子猫を呼びながら探しました。しかし2,3時間もすると鳴くのも探すのもやめ、何事もなかったかのように夕飯にありつきました。食べる量は妊娠・授乳期間よりも少し減り、表情も穏やかになった気がしました。

「シャーシャー言ってたのも、大食いだったのも、妊娠してたからだったんだね」

 小柄なディーナを抱き上げて頭をなでると、真ん丸な瞳で見つめ返してきます。生後9か月なんて、人間ならまだ高校生ぐらいでしょうか。

「立派なお母さんだったよ。偉かったね。お疲れ様」

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浅野裕見子
フリーライター・編集者。大手情報出版社から専門雑誌副編集長などを経て、フリーランスに。インタビュー記事やノンフィクションを得意とする。子供のころからの大の猫好き。現在は保護猫ばかり6匹とヒト科の夫と暮らしている。AERAや週刊朝日、NyAERAなどに執筆中。

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この連載について
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猫と暮らし始めて、気が付けば40年! 保護猫ばかり6匹と暮らすライターの、まさに「カオス」な日々。猫たちとの思い出などをご紹介します!
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