腎臓病の猫「ぽんた」を介護する日々 大変だがつらくはなかった(40)

 ぽんたが家に来て3度目の夏を迎えた。例年より梅雨明けが早く、7月の初旬ですでに気温は連日30℃を超えていた。

(末尾に写真特集があります)

 慢性腎臓病と診断されてから2年と5カ月目に入り、腎臓の数値が測定不能な値にまで上がった日から、私はほぼ毎日のように自転車をこぎ、動物病院にぽんたを運んだ。

 治療のおかげで足元のふらつきと脱水は改善された。とはいえ、なんとか持ち直した、という状態で、決して元気になったわけではない。日中は、ほとんどの時間をリビングのソファの下かテレビの裏にもぐって過ごし、たまに出てきても、床の上でじっとしていることが多かった。

 免疫力が下がったためか、風邪のような症状も出て、目やにや鼻水が目立つようになった。また腎臓病の悪化とともに、保護したときからぽんたが患っていた歯周病も進んだ。口臭はきつくなり、よだれがひどい。よだれは、腎臓から排泄されなくなった老廃物がからだにたまって起こる、尿毒症の影響もあるようだった。

「元気だったころの僕だよ」(小林写函撮影)
「元気だったころの僕だよ」(小林写函撮影)

 ぽんたは気持ちが悪いらしく、フードもほとんど受けつけない。病院ではペースト状の療法食を通院のたびに給餌してもらっていたが、一度、帰宅後に吐き戻したことがあった。それ以来、給餌の量が減らされ、ますます栄養は取れなくなっていた。点滴の際に吐き気止めの薬も一緒に入れてもらうようになったが、あまり効果はないようだった。

 体重は3.7kgまで落ちた。2カ月前に比べると1kg減で、人間に例えて換算すれば、約10kg減ったことになる。

 体重の増減にはこだわらない、と決めてはいたが、坂を転がるように減っていく数字を目のあたりにすると、冷静ではいられない。口の周りをベタベタにして、ギュッと口を結んでいるぽんたを見ていると、これ以上、ペースト状のフードを家で食べさせることは無理だった。

 そこで私は、以前病院で紹介された、リキッド状の療法食を与えてみることにした。これは高カロリーの流動食で、栄養と同時に水分も補給できるのが利点だ。

 シリンジ(針のない注射器)でクリーム色の液体を吸い上げ、ぽんたの頭を押さえて軽く口を開き、口の端からシリンジの先を差し込む。液体を飲ませるときは、ぽたぽたと数滴、舌の奥に落とすことがコツだと病院で教えてもらった。やってみると、ペースト状のフードを与えるよりはずっと簡単だ。ぽんたも、液体なので嚥下しやすいらしく、何度か繰り返しても嫌がらずにつきあってくれる。

「猫草が枯れちゃったから、これをいただこう」(小林写函撮影)
「猫草が枯れちゃったから、これをいただこう」(小林写函撮影)

 数日経つとシリンジの扱いにも慣れ、1日に給与できる量も増えていった。これも強制的な給餌には変わりはないが、ぽんたに負担がかからない限りは、続けようと決めた。

 私の1日は、ぽんたを中心にまわっていた。通院、朝晩の投薬、数時間おきの給餌、点鼻薬の投与。トイレに間に合わずに粗相をしたときは、その始末。相変わらず毛づくろいをしないので、消毒液を含ませたコットンで汚れた目や口の周りをこまめに拭く。背中や脚はシャンプーシートできれいにし、ブラシで毛並みを整える。

 仕事以外の外出はできるだけ控えるようにし、家ではリビングにパソコンを移動させ、常にぽんたが視界に入る場所で仕事をした。友人からの近況をたずねるメールには「猫の病気が進み、介護の日々です」と返信した。

 介護は大変だが、つらくはなかった。病気が悪化したとはいえ、ぽんたと一緒に過ごせる時間があるのはうれしかったからだ。暑いさなかの通院も苦ではなかったし、「いい天気だね」とぽんたに話しかけ、入道雲がまぶしい夏空を仰ぎながら自転車のペダルをこぐひとときは、心地よくさえあった。

「冷蔵庫に入れといたシュークリームがなくなってるんだよな」(小林写函撮影)
「冷蔵庫に入れといたシュークリームがなくなってるんだよな」(小林写函撮影)

 家ではすっかり無口になってしまったぽんただが、病院での点滴治療中だけは、相変わらず「うー」「あー」「シャー」と大声を上げて抗議する。

 抗議はするが、拒絶はしない。院長先生は「怒る元気があるなら、大丈夫だね」と笑顔を見せる。すっかり猫の保定にも慣れた新人の若い先生も「ぽんたちゃん、嫌なことをしてごめんね、でもおりこうだったね」と言ってぽんたをなでてくれる。

 そうするうちに、ぽんたは、少しずつ元気を取り戻していった。ソファにのぼったり、台所まで移動して窓の下に座るようになり、7月の下旬には、1カ月ぶりに爪研ぎで爪を研いだ。

【前の回】腎臓病が進む猫「ぽんた」 足取りふらつき、朝一番で病院へ(39)
【次の回】みるみる回復した腎臓病の猫「ぽんた」 運よく抗生剤が効いた(41)

宮脇灯子
フリーランス編集ライター。出版社で料理書の編集に携わったのち、東京とパリの製菓学校でフランス菓子を学ぶ。現在は製菓やテーブルコーディネート、フラワーデザイン、ワインに関する記事の執筆、書籍の編集を手がける。東京都出身。成城大学文芸学部卒。

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この特集について
猫はニャーとは鳴かない
ペットは大の苦手。そんな筆者が、ひょんなことから中年のハチワレ猫と出会った。飼い主になるまでと、なってからの奮闘記。
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