みるみる回復した腎臓病の猫「ぽんた」 運よく抗生剤が効いた(41)
慢性腎臓病のぽんたの症状が悪化してから1カ月ぶりに、ぽんたが爪研ぎで爪を研いだ。
動作はゆっくりで弱々しくはあったが、久しぶりに見せる猫らしい行為だった。
しかし喜んだのもつかのま、その足で猫トイレに向かったぽんたは、出たり入ったりを繰り返した。しばらく猫砂の上にしゃがんだと思えば立ち上がり、トイレから出て振り返り、不審そうに砂の上をじっと見る。そして「あーうー」と高い声で鳴いた。
膀胱炎だ、と私は察知した。腎臓病の猫は細菌感染による膀炎症にかかりやすい。2年前の夏に、ぽんたも1度経験していた。
すぐに動物病院に連れて行くと、予想通りの診断だった。
注射で抗生物質を投薬してもらい、しばらくの間は毎日、細菌感染を抑えるための抗生剤を家で飲ませることになった。
抗生剤は、種類によっては腎臓に多少負担をかける場合があるという。
少し前、ぽんたの腎臓病悪化によるよだれや口臭を緩和するのに、抗生剤は効かないのかと、ツレアイが院長先生にたずねたことがある。その際、効果がある可能性は高いが、これらの症状を抑えるためだけの投与はすすめられない、ということを言われた。生命に直結する症状ではないから、ということだったのだろう。
しかし今回は膀胱炎だ。悪化して尿が出せなくなると危険で、それこそ命にかかわる。ぽんた自身もつらそうだ。薬の種類を選び、腎臓に影響を与えない薬用量での処方となった。
帰宅すると、私はさっそくぽんたに薬を飲ませた。
薬は、たちまち効いた。
その日の夜から、トイレへの出たり入ったりはなくなり、翌日は「ほなー」と鳴きながら、リビングを闊歩するようになった。
顔を器に突っ込むようにしながら、だるそうに飲んでいた水にも、体を起こして向かい、ぴちゃぴちゃと軽快な音を立てて舌を動かすようになった。
その翌日は、水を飲んだあと、ゆっくり前脚で顔を洗い毛づくろいをした。
さらに翌朝、口の周りを拭こうとしてぽんたの顔を見ると、小ざっぱりとしていて驚いた。目やにや鼻水、よだれが止まったようだ。抗生剤が運よく、膀胱炎以外の症状にも効いたのだろう。
ぽんたと私たちにとって、まるで「魔法の薬」だった。
それからのぽんたは、しおれていた植物が水を吸って生き返るように、みるみる回復した。ベランダに出たがるようになり、チェストにのぼっての、窓外のパトロールも復活した。背中を盛り上げてバリバリと爪を研ぐようになり、帰宅すると玄関に迎えに出てきて、足に体をこすりつけながら私のあとをついてまわった。
昼間はソファで一緒に昼寝をし、夜、ベッドに入ると添い寝をしてくる。
抗生剤を飲ませて2週間が経つころには、ぽんたに以前と同じような目の輝きと毛づやが戻った。「なー、なー」と、私たちに話しかけるような元気な鳴き声が、家の中に響くようになった。
違っているのは、体重がさらに減って3.3kgになり、明らかに見た目に痩せてしまったことと、相変わらず自分からはフードを食べようとしないことと、遊びに興味を示さないこと。
それでもよかった。
一度は覚悟をした「お別れ」が遠のいたのだ。私は、ぽんたの膀胱炎に感謝したい気持ちだった。
ぽんたが元気になったことでひとつだけ困ったことが発生した。リキッド状の療法食をシリンジで与える際、ぽんたが異議を唱えるようになったのだ。
その形状や白い色から、私はこの療法食を「ミルク」と呼んでいた。「ミルク」を充填したシリンジを右手に持ち、左手でぽんたの頭を押さえると「うー」とうなりはじめる。シリンジを口の端に近づけると、ぶんぶんと頭を振る。
ペースト状のフードを給餌していたときは、ぽんたの抵抗に耐えられず、すぐに諦めた。
だが今回はそうはいかない。「ミルク」は今のぽんたにとっては命綱なのだ。
なんとか、うまく飲んでくれる方法を考えることが、私の新たな任務となった。
【前の回】腎臓病の猫「ぽんた」を介護する日々 大変だがつらくはなかった(40)
【次の回】猫「ぽんた」に療法食を嫌がられ落ち込む でもあきらめはしない(42)
sippoのおすすめ企画
「sippoストーリー」は、みなさまの投稿でつくるコーナーです。飼い主さんだけが知っている、ペットとのとっておきのストーリーを、かわいい写真とともにご紹介します!
LINE公式アカウントとメルマガでお届けします。