オシッコだけでも検査可能 獣医師が勧める猫の健康を守る方法
猫の8割は慢性腎疾患にかかると言われます。そんな愛猫の健康を守るために、動物病院とどう付き合ったらいいのか。尿のチェックなど、飼い主が気を付けるべきことは何か。日々臨床で猫たちに向き合っている3人の獣医師(田中綾先生、平林雅和先生、木村勇介先生)に話し合っていただきました。(本文中は敬称略)
猫の不調は気付くのが遅れがち
――猫は動物病院に連れて行きにくいですよね?
木村:家ではおとなしいのに、病院に来ると豹変する、っていう子は確かにいますね。動物病院で大暴れして手が付けられなくなる。飼い主さんが2度と連れて行きたくないと思うのもしかたないな、と思いますね。
田中:犬は散歩もありますし、しつけもあり、そもそも外出する習慣がある。散歩の途中で用もないのに病院に寄ってくる子もいますよ。
平林:毎日の散歩で運動性が観察できるのは犬のいいところですよね。猫はただでさえのんびり寝ていることが多いから、飼い主さんでも判断しにくい。
木村:触られるのを嫌う子、抱っこを嫌がる子もいますから、身体にふれる機会が少ないとますます異常に気づきにくい。すごく大きい乳腺腫瘍ができた猫を連れてきた飼い主さんは「なんだかしきりと舐めているから連れてきました」って。普段触らないから気がつくのが遅れるんです。
ただ、無理に連れてきてほしいとは思いません。まずは電話で状況を聞いて、直接診る必要性を感じたら「連れてきてください」と伝えます。電話だけで何とかなるなら、猫の負担もないしそれでいい。前に働いていた病院ではオシッコだけをよく持ってきてもらっていました。
平林:それは検査だけして、報告はどうするんですか?
木村:電話が多いですね。そういう飼い主さんは後で聞きに来てくれますし。
平林:それで料金は?
木村:1500円ぐらいかな?
平林:それは検査費だけですよね。
木村:そうです。大した労力じゃないし、電話で済むぐらいなら問題ないし。
田中:検査だけでは診察になりませんから、診察料は発生しない。飼い主さんにも猫にも負担がかからない。もちろん、医学的に採取した尿じゃないから、それですべてがわかるなんて思っていません。ただ、出血はないか。結石につながるような結晶はないか。糖は? 比重は? などはわかります。
その上で「何かありそうだから連れてきてもらって診たほうがいいな」なのか「今はとりあえず大きな問題はなさそう。またひと月ぐらいしたらオシッコもってきてください」なのか。そこのスクリーニングにはなりますね。
木村:朝早くにオシッコが採れた場合は、病院の玄関のところに置いておいてもらいました。ビニールとかスポイトとかに入れて、保冷剤と一緒に。出勤前に置いていく方もいますね。出勤すると、猫のオシッコが待っているんです(笑)
平林:それはいい!オシッコボックスとかいいかもしれませんね。
田中:朝いちばんのオシッコが、一番濃度が高いから、いい取り組みだと思います。
子猫のうちから医療に慣れさせて
平林:やはり猫を初めて飼う人と経験者の違いもありますね。
田中:前の猫を腎臓病で亡くしたから…っていう人は、早くから意識して猫を診せてくれますよね。
木村:そのパターンはすごく多いですね。逆に初めて飼う人は猫に腎臓病のリスクがあることすら知らない場合もあります。
平林:僕は飼い始めの人が病院に来てくれたら家庭でできるヘルスケアを徹底的に教えるようにしているんです。投薬の仕方、爪切り、肛門腺の絞り方、耳掃除、目薬のさし方、歯磨きまで。
それを1歳ぐらいまでの間に慣らしておかないと、シニアになったとき投薬ができない子になってしまう。触れない子に育ってしまったら、先々、その子が不幸になるんです。
――腎臓病のリスクは早くからチェックしたいですね。
木村:腎臓病は末期にならないと、目に見える症状が出にくいですから。
田中:最近は昔よくあったストルバイト結石が減って、逆にシュウ酸カルシウムによる結石が多い。これは尿検査をしっかりしないと、なかなか突き止められないんですね。最近は尿管結石が増えていて、気が付いたときには1本が結石で詰まって完全に機能不全、腎臓もダメになっているケースもある。
木村:それでいて猫は普通に生きているケースも多いですからね。
平林:「普通にご飯食べているし、まあいいか」とか「もう15歳だから、こんなもんだよね」っていう。
田中:腎疾患ですっかり痩せて、脱水症状でカピカピになった猫を連れてきて「いつからですか?」って聞くと「うーん。おとといぐらいから?」。嘘だー!って(笑) いや、嘘をついてるんじゃないんです。気が付かないだけ。
平林:エコーで見れば、腎臓も尿管も判別できる。石がありそうかも…っていう段階で見つけて、あとはひたすら1年ぐらい点滴で輸液、脱水症状の改善につとめます。ごく初期ならいずれ石もなくなります。
腎臓の寿命が、猫の寿命
木村:基本的にはダメージを受けた腎臓は二度と復活しないから、腎臓の寿命が猫の寿命になります。長期にわたって付き合うことになるから、治療費もそれなりにかかります。
平林:獣医療費はかなり上がっています。昔15万円ぐらいだった手術が、今は40万円ぐらいになっていますね。
木村:15年ぶりに病院来ましたって言う人は値段が高くてびっくりすると思う。それだけ医学も進歩して、医療機器も進化して、やれることが多くなったんですよ。
田中:だからこそ、いかに症状が軽いうちに手を打つか、というのが大事ですね。その点で、オシッコだけの受診・検査はとても有効なんです。とにかく早期発見の手がかりになる。
――早期発見のために自宅でできることはなんですか?
田中:飲水量の増減のチェックですね。あとは食欲。そしてオシッコを観察すること。
木村:尿の色、におい。量がわかればいいんですけど、固まる猫砂だけじゃ観察にも限界がありますよね。
平林:オシッコを見るのは、システムトイレは便利そうですね。
田中:砂でオシッコを吸わず、全部下に落ちる方式だと、自宅で採尿しやすいんですよ。
木村:砂を使う場合は、砂の量をほんの少しに減らしてもらって、吸いきれなかった分をスポイトでとるとか。あと、ペットシーツを裏返しにしてビニールの上でさせる、という方法もありますね。うちでは試験紙を渡してオシッコをしたら色の変化を写真に撮って見せてください、ってお願いすることもあります。
3カ月に1度はしたいオシッコチェック
木村:猫の健康診断って、先生方されていますか?
平林:これも飼い始めから病院に来てくださる方はいいんですが、具合が悪くなって初めて連れてきたっていう人にはなかなか難しいですね。長時間の検査で猫にもストレスだし。
木村:「できるところまでやる」感じですね。血液検査、レントゲン、エコー、尿検査。耳、目、口の中、心音チェック、全身の状態確認…やれることをやって、やりきれなかったらその分お会計は割引します。
――とすると、オシッコのチェックは有益ですね。
田中:高齢にならなくても腎疾患のリスクはあります。尿路結石は2~3歳の若い猫にもよく見られるし、腎疾患は5歳ぐらいから急激に悪化することも。若いころから尿チェックの習慣をつけるのがよいですね。
木村:オシッコチェックはできれば3カ月に1度。猫の加齢のスピードからしたら、3カ月に1度は、人間でいう年に1度ですから。
動物病院は病気になってから行くところではなく、病気にならないために行くところと考えた方がいいと思います。
田中:「オシッコ検査」は早期発見につながりますし、動物病院にアクセスしてくれるきっかけになるから、獣医師はみな歓迎だと思いますよ。
木村:この記事を見て尿チェックしてほしいです、って言っていただけたら嬉しいですね。あ、でも、初診なのにいきなりポストにオシッコを入れて行くのはやめてくださいね(笑)
- 田中綾
- 東京農工大獣医学科教授。大学の動物病院での診療のほか、埼玉県の保護猫団体に協力し、年間1000匹ほどの犬猫の治療も。
- 平林雅和
- 日本獣医畜産大卒。オールペットクリニック(東京都港区)院長。
- 木村勇介
- 東京農工大卒。東京動物医療センター(東京都杉並区)に勤務。
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