念願だったパピヨンとの暮らしは混乱を極めた 苦悩と罪悪感にさいなまれることに

おうちに来たころ。かわいいけど目ヂカラがハンパない!(お母さん提供)

 幼い娘たちの「一緒に遊びたい!」という願いをかなえ、子犬との夢のような暮らしを思い描いていた家族。お迎えしたパピヨンの子犬は、しかし、手に負えないほど暴れん坊で……。

 UG DOGSアトラスタワー中目黒店(以下UG)の激アツ店長こと高橋信行さん、叫ぶ。

「『人間がリーダーにならなければ』と思い詰めないで」

(末尾に写真特集があります)

ワンちゃんと一緒に遊びたい

「さみしくなるから、ワンちゃんお迎えしようか?」

 コロナ禍真っただ中の2021年、春からお父さんが単身赴任することが決まった。週末には帰ってくるものの、平日はお母さんと7歳の長女と3歳の次女だけに。長女がずっと犬をほしがっていたこともあり、女子チームは大盛り上がり。「夫は『大変になるからやめた方がいいのでは?』と心配していましたが、黒一点ではかなわないと思ったみたい。最終的には賛成してくれました」とお母さんは笑う。

 お姉ちゃんがほしかったのは、ふわふわモコモコのトイプードル。近所のペットショップをのぞきに行くと、しかし、パピヨンの子犬のかわいさに心を撃ち抜かれてしまった。トイプードルほどの人気犬種ではないこともあり、ショップでの扱いは少ない。お父さんが北関東にあるパピヨンのブリーダーを見つけ、家族で会いに行くことに。

 出迎えてくれたのは、生まれてまだ1カ月も経っていないパピーたち。「体の小さい子と、その子たちよりも月齢は下だけど体格は大きい子犬とがいました。小さい子犬の方が人気があるということでしたが、娘は『一緒に遊びたたいからこの子がいい!』と、体が大きくとびきり元気な男の子を選びました」とお母さん。

 それから約1カ月。いろんな準備をしながら、家族は指折り数えながらその日を待ちわびた。「娘たちは『ワンちゃんと一緒に遊ぶんだ!』と、小さくてふわふわのぬいぐるみなどのおもちゃをたくさん用意して、子犬との暮らしを夢見ていました」

 お迎えの日。子犬の中でも大きかった男の子は、さらにがっしりとした体格に成長していた。「夫は『別犬!?』と驚いていましたね(笑)」とお母さん。パピヨンの子犬は「みんなで幸せに」の思いを込め「ハッピー」と名付けられた。

出会ったときのハッピーくん。まだお耳が垂れてて赤ちゃんのかわいさ(お母さん提供)

平和だったのはつかの間

 家に到着したが、ブリーダーから「3日間はケージから出さないように」と言われていたので、そーっと様子見。夜鳴きはなく、ぐっすり眠るハッピーくんの姿に家族は安堵(あんど)した。お母さんは少し困惑したようにこう続けた。

「早くケージから出したいね、と娘たちはワクワク。でも今思うと、平和な時間はこの3日間だけだったのです」

 3日目の夜、ついに部屋の中に出すことに。扉を開けると、ハッピーくんはものすごい勢いで飛び出し、爆走。興奮しながらお母さんと姉妹に飛びつき、かみついた。「娘たちはパジャマを着ていたのですが、その裾が一瞬でビリビリに……」とお母さん。その夜から怒濤の日々が始まった。

 ケージから出すと、家族に飛びつき、手足にかみつくハッピーくん。最初はソファに上れなかったので姉妹はそこに避難したが、わずか1週間ほどで飛び乗れるように。姉妹はハッピーくんと一緒に遊びたいが、かまれるのは痛いし怖い。「下の子は『痛い』と泣き出してしまいました。上の子も傷だらけの腕を学校で『どうしたの?』と心配されたようです」。週末にお父さんが帰ってくると足に飛びつき、爪を立てて激しいマウンティング。

「家族みんな傷だらけになりました」

お姉ちゃんの髪もガブガブ!(お母さん提供)

リーダーにならないといけない?

 なんとかしないとと考えたものの、あまりにも激しすぎるハッピーくんに、何をどうしたらいいのかわからない。お里のブリーダーに相談すると、「かまれたら反応せずに、みんなその場から離れるように」とアドバイスされた。楽しい遊びが中断される、大好きな家族が目の前からいなくなるという、「かむ」=「いやなことが起きる」とひも付けて理解させるしつけ方だ。

 しかし、高橋店長によれば「UGに来る強い子犬には通用しないケースが多い」。実際、少し時間を置いてハッピーくんのもとに戻ると、落ち込んだ様子も反省したそぶりもなく、「戻ってきた、やったー!」とばかりに喜び、またピョンピョン、ガブガブの繰り返し……と、まるで効果がなかった。

 とにかくケージから出すと手がつけられない。姉妹の学校の準備などやらなければならないことがある時間帯や、家族がゆっくり過ごしたいときは、ハッピーくんはケージの中で過ごさせた。「ケージから出すときは、今からハッピーと遊ぶんだと、心も体も覚悟を決めて臨んでいました」とお母さん。とはいえ次女は当時まだ3歳。ケガをする危険もあり、お母さんの目が届かないところで遊ばせることはできなかった。

「家の中がどんどんまわらなくなってしまい、ケージに入れっぱなしにするように。仕方がないという思いと、それ以上にハッピーに対する罪悪感とで、どんどん苦しくなっていきました」

お姉ちゃんの巾着袋もハッピーくんには獲物!?(お母さん提供)

 悩むお母さんをさらに追い詰めたのが、周りの声。「犬は序列を作るから人間がリーダーにならないと」「人間の方が上だと理解させなきゃダメ」と、困っている様子を見かねてかけてくれた言葉が「苦しかった」と振り返る。

「どうすればリーダーになれるのか、やり方もわからないし、そもそも私の性格的にできるとは思えなかった。でも、このままでは家族が体だけでなく心まで傷だらけになってしまう……。途方に暮れてしまいました」

 わらをもつかむ思いでネットを検索。「飛びつく」「かみつく」「興奮する」「止まらない」――。あらゆる検索ワードにヒットしたのが、sippoのこの連載と高橋店長のブログだった。お母さんは迷ったものの、思い切ってUGに電話をかける。

後編につづく(1月29日公開予定) 

(この連載の他の記事を読む)

高橋信行店長 プロフィール
物心がつく頃から動物関係の仕事に就きたいと考え、動物系の専門学校を卒業後、ペットショップに就職。いくつかの転職を経て、現在はUG DOGSアトラスタワー中目黒店店長。これまでカウンセリングは1300件以上、お泊まりで預かった犬は1000匹を超える。愛犬は、ジャック・ラッセル・テリア「ロイス」。
UG DOGS アトラスタワー中目黒店
住所:東京都目黒区上目黒1-26-1 中目黒アトラスタワー106
TEL:03-5708-5592
営業時間:11:00~20:00(年中無休)
公式サイト:https://anm.ugpet.jp/
店長ブログ:https://www.ugpet.com/blog/anm/
※カウンセリングは電話、対面とも要予約。HPや高橋さんのブログをチェックした上で問い合わせを。UGでは基本的に保護犬を預かる活動はしていません。

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中津海麻子
フリーライター。「酒とワンコと男と女」をテーマに、ワインや日本酒や食、ペット事情、人物インタビューなど幅広く取材、執筆。JALカード会員誌「AGORA」、同機内誌「SKYWARD」、「ワイン王国」「朝日新聞デジタル &w」「好書好日」などに寄稿。

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この連載について
だから犬って最高だ!
「育犬ノイローゼ」に陥った飼い主が藁をもつかむ思いで全国からやってくる「駆け込み寺」=UG DOGSアトラスタワー中目黒店。ハイパーな子犬たちと悩める飼い主を相手に日々奮闘する店長・高橋信行さんの実録ルポ。
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