食欲がない腎臓病の猫「ぽんた」 元気な姿が見たい…給餌を決断(36)
ぽんたが慢性腎臓病と診断されてから2年と2カ月、家に来て2度目の新緑の季節がめぐってきた。晴れた日の午前中、ぽんたは家の中のパトロールを終えるとベランダに出て、ひだまりで丸くなるのが日課となっていた。
まぶしい光を受け、ゆっくりと上下するぽんたの黒い背中を眺めながら、私の心は重かった。先日の血液検査の結果、腎臓の数値が大きく上昇していたからだ。
点滴治療を行い、血流をよくする薬の1日の投薬量も増やした。それでも、食の進みは安定しない。
療法食のドライフードは、いろいろ試したが、結局、もともと食べていた国産のものがもっとも口に合うらしい。とはいえ、食べる量は数カ月前に比べると大幅に減っている。
療法食のウェットフードをトッピングすると、多少進みはよくなった。しかし、だんだんと、トッピングだけ平らげて、肝心のドライフードは半分も食べない状態になっていった。
缶詰のウェットフードはシチューに似た形状で、野菜のような具がゴロゴロ入っている。開けたては、人間でもちょっと口にしたい、と思わせるようなおいしそうな匂いがする。
欠点は水分が多く、重量に対してカロリーが少ないこと。ぽんたの体重だと、1日に必要なカロリーを摂取するためには、約80g入りの缶を1日に3缶近く食べさせなければならない。食欲が減退している今のぽんたには、明らかに無理だった。
動物病院の院長先生には「食欲が出ないようなら、様子を見て点滴治療に来てください」と言われていた。私は、4〜5日に1回の頻度で、ぽんたを病院に連れて行くようになった。
点滴中に騒ぐようになったため、病院行きにも抵抗を示すのではと危惧したが、それはなかった。ぽんたはいつでも、こちらの都合に合わせてつかまえることができ、素直にキャリーバッグにも入る。病院の待合室にいる間もおとなしく、診察を待つ犬たちにちょっかいを出されても動じない。
豹変するのは、診察台で看護師さんに保定され、エリザベスカラーが装着され、先生がアルコール綿に消毒液を染み込ませた瞬間だ。「うー」とうなり出し、点滴液が流れはじめると、体を浮かしながら「あーー」という叫びに似た声を発し、そのまま叫び続ける。輸液が終わり、注射針が抜かれ、消毒が終わると、「シャーーー!」と先生に向かって牙をむく。
すべて終了し、キャリーバッグに戻ると、何事もなかったかのように静かになる。毎回同じタイミングで繰り返されるこの「うー」「あー」「シャー」は、ぽんたの点滴治療の一連の儀式、というように先生たちも私も捉えるようになった。先生は「今日もぽんちゃんに怒られちゃったね」などと言いながら頭をなでてくれる。
しかし、食欲は改善されない。これまで一定を保っていたぽんたの体重は、じわじわと減ってきている。
変化は体重だけではなかった。チェストや見晴らし台にのぼって外をながめたり、毎日のパトロールは欠かさないぽんただが、真夜中に廊下を疾走することがなくなった。お気に入りのスポンジボールや、ブラッシングで抜けた毛を丸めて作った毛玉ボールで遊ぶこともなくなった。
翌月の定期血液検査では、腎臓の数値はまた大幅に上昇していた。尿素窒素(BUN)、クレアチニンともに正常値の3倍近い数字になっている。
1カ月前に4.7kgあった体重は、4.2kgに落ちていた。検査の日の朝、ぽんたはウェットフードを数口食べたたけで、ドライフードにはほとんど口をつけなかった。
このまま食欲が回復しなければ、さらに腎臓病は悪化する。
「食欲を増進させる薬を出すこともできますが……それか、おうちで給餌をしてみますか」と先生は聞いた。
自発的に食事をしなくなった猫に、強制的に栄養を摂取させる行為だ。食欲のなくなった腎臓病の猫に行う飼い主が多いことは知っていた。
動物の口を無理にこじ開けて食べ物を入れるなど拷問のようだと、以前は感じていた。
しかし今は、希望の光に思えた。強制的にでも食事を与えていれば食欲が戻るかもしれない。元気になって、夢中でスポンジボールを追いかける姿が、また見られるかもしれない。
私は「やります」と答えた。
【前の回】こんなに元気なのに 腎臓病の猫「ぽんた」の検査結果に目を疑う(35)
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