給餌を嫌がる猫「ぽんた」 少しでも食べて…懇願しながら与えた(37)
ぽんたが慢性腎臓病と診断されて2年と3カ月が経過したころ、血液検査の結果が大幅に上昇し、食事にほとんど口をつけなくなった。そのため、私は家で強制的に給餌を行うことにした。
給餌の方法は看護師さんがぽんた相手にデモンストレーションしてくれた。筒の先端をカットした細いシリンジ(針のない注射器)にペースト状の療法食を詰め、ぽんたの口の端から差し込み、素早くフードを口の中に投入する。
ペーストになったフードは粘り気があるため、一般的なウェットフードより注射器に充填しやすい。また、食欲が減退した猫が少量でも栄養が摂取できるよう、高カロリーに設計されている。
給餌は、猫の口まわりに触れ、口を開かせるのが第一関門だと看護師さんは言った。これに関しては、私は毎日の投薬で慣れている。だからそう難しくないとたかをくくっていたが、実際は違った。
シリンジをぽんたの口の中に差し込んだと同時に押子を押し、さっとシリンジを引き抜く。しかし何度やってもフードは口の中には入らず、棒状になって床にぽたっと落ちる。引き抜くタイミングが早すぎるからだ。かといってフードが確実に入ったのを見届けてから引き抜こうとすると、ぽんたは首を振って抵抗する。その勢いでフードはぽんたの顔や体の上に飛び散った。
ぽんたが動かないように、誰かに押さえていてもらえればスムーズにできそうだが、あいにくツレアイは長期出張で留守だ。
幸い、ぽんたはこのフードが気にいったようで、床に落ちたものをきれいになめた。試しにドライフードとともに食器に盛ると夢中になって平らげ、満足そうに顔さえ洗った。それから数日間は給餌に挑戦する必要もなく、ぽんたは元気を取り戻したのだが、案の定、また口をつけなくなった。
私はシリンジを使うことは諦め、手で直接口の中にフードを入れる方法を試すことにした。
右手の人先し指に少量のフードを取り、左手でゆっくりと頭をつかんで上を向かせ、素早く口を開けてフードを入れて口を閉じ、のどをさすって飲み込ませる。投薬と同じ要領だ。違うのは、ベタベタしたペースト状のフードを舌の奥に落下させるのは物理的に難しいので、口の端にこすりつけるようにしながら行うところだった。
この方法は、最初はうまくいった。ぽんたは嫌がりもせず、素直にフードを飲み込んた。
だが投薬は1度に1回ですむが、給餌は1度に約10回は行わないと必要なカロリーが摂取できない。ぽんたにしてみれば口をこじ開けられて、食べたくもないフードを朝昼晩と日に30回近くも入れられるのだから、たまったものではない。
ぽんたは給餌に抵抗するようになった。1度の給餌で、連続5回まではなんとか受け入れてくれるが、それ以上になると歯を食いしばり、頭を振り、からだをくねらせて逃げ出す。
私はフードの入った容器を手にぽんたを追いかけた。「あと3回だけでいいから」と懇願しながら、再びぽんたの口に手をかける。
これを繰り返すうち、ぽんたは給餌のあとはきまって、クローゼットに引きこもるようになった。
私は1日に3度といわず、5度、7度と、ぽんたの機嫌がよさそうなときを狙って給餌を行うようになった。ノートに給餌をした時間、回数、フードの量を克明に記し、1gでも多くフードを食べさせることで頭がいっぱいになった。
動物病院には2〜3日おきに通院し、そのつど点滴もしていた。それでも、体重は減るいっぽうだった。
摂取カロリーを増やすため、ペースト状のフードの中にドライフードを砕いて混ぜてみたこともあった。これは逆効果で、ペーストが硬くなって飲み込みづらくなるのか、風味が混じって気持ちが悪いのか、ぽんたは吐き出してしまう。
やがてぽんたは、私がフードを持って近づくだけで、気配を察して逃げ出すようになった。
「ちょっとだけ食べて」と言いながら、クローゼットの奥に引っ込んだぽんたに手をのばす。すると「ぎゃああ」と、これまで聞いたことない叫びのような声を発し、目をつり上げた。
まるで、知らない猫のような表情をしていた。
私はクローゼットから離れた。
もし、ぽんたが、私を恨んだまま逝ってしまったらどうしよう。
そんな思いが、心をかすめた。
【前の回】食欲がない腎臓病の猫「ぽんた」 元気な姿が見たい…給餌を決断(36)
【次の回】猫「ぽんた」が寄って来なくなるのがつらい 家での給餌をやめた(38)
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