給餌を嫌がる猫「ぽんた」 少しでも食べて…懇願しながら与えた

 ぽんたが慢性腎臓病と診断されて2年と3カ月が経過したころ、血液検査の結果が大幅に上昇し、食事にほとんど口をつけなくなった。そのため、私は家で強制的に給餌を行うことにした。

(末尾に写真特集があります)

 給餌の方法は看護師さんがぽんた相手にデモンストレーションしてくれた。筒の先端をカットした細いシリンジ(針のない注射器)にペースト状の療法食を詰め、ぽんたの口の端から差し込み、素早くフードを口の中に投入する。

 ペーストになったフードは粘り気があるため、一般的なウェットフードより注射器に充填しやすい。また、食欲が減退した猫が少量でも栄養が摂取できるよう、高カロリーに設計されている。

 給餌は、猫の口まわりに触れ、口を開かせるのが第一関門だと看護師さんは言った。これに関しては、私は毎日の投薬で慣れている。だからそう難しくないとたかをくくっていたが、実際は違った。

「窓際のぽんたちゃんです」(小林写函撮影)
「窓際のぽんたちゃんです」(小林写函撮影)

 シリンジをぽんたの口の中に差し込んだと同時に押子を押し、さっとシリンジを引き抜く。しかし何度やってもフードは口の中には入らず、棒状になって床にぽたっと落ちる。引き抜くタイミングが早すぎるからだ。かといってフードが確実に入ったのを見届けてから引き抜こうとすると、ぽんたは首を振って抵抗する。その勢いでフードはぽんたの顔や体の上に飛び散った。

 ぽんたが動かないように、誰かに押さえていてもらえればスムーズにできそうだが、あいにくツレアイは長期出張で留守だ。

 幸い、ぽんたはこのフードが気にいったようで、床に落ちたものをきれいになめた。試しにドライフードとともに食器に盛ると夢中になって平らげ、満足そうに顔さえ洗った。それから数日間は給餌に挑戦する必要もなく、ぽんたは元気を取り戻したのだが、案の定、また口をつけなくなった。

 私はシリンジを使うことは諦め、手で直接口の中にフードを入れる方法を試すことにした。

 右手の人先し指に少量のフードを取り、左手でゆっくりと頭をつかんで上を向かせ、素早く口を開けてフードを入れて口を閉じ、のどをさすって飲み込ませる。投薬と同じ要領だ。違うのは、ベタベタしたペースト状のフードを舌の奥に落下させるのは物理的に難しいので、口の端にこすりつけるようにしながら行うところだった。

「おじちゃんのベッドは清潔だし温かい」(小林写函撮影)
「おじちゃんのベッドは清潔だし温かい」(小林写函撮影)

 この方法は、最初はうまくいった。ぽんたは嫌がりもせず、素直にフードを飲み込んた。

 だが投薬は1度に1回ですむが、給餌は1度に約10回は行わないと必要なカロリーが摂取できない。ぽんたにしてみれば口をこじ開けられて、食べたくもないフードを朝昼晩と日に30回近くも入れられるのだから、たまったものではない。

 ぽんたは給餌に抵抗するようになった。1度の給餌で、連続5回まではなんとか受け入れてくれるが、それ以上になると歯を食いしばり、頭を振り、からだをくねらせて逃げ出す。

 私はフードの入った容器を手にぽんたを追いかけた。「あと3回だけでいいから」と懇願しながら、再びぽんたの口に手をかける。

 これを繰り返すうち、ぽんたは給餌のあとはきまって、クローゼットに引きこもるようになった。

 私は1日に3度といわず、5度、7度と、ぽんたの機嫌がよさそうなときを狙って給餌を行うようになった。ノートに給餌をした時間、回数、フードの量を克明に記し、1gでも多くフードを食べさせることで頭がいっぱいになった。

 動物病院には2〜3日おきに通院し、そのつど点滴もしていた。それでも、体重は減るいっぽうだった。

 摂取カロリーを増やすため、ペースト状のフードの中にドライフードを砕いて混ぜてみたこともあった。これは逆効果で、ペーストが硬くなって飲み込みづらくなるのか、風味が混じって気持ちが悪いのか、ぽんたは吐き出してしまう。

「僕の心配をしてアドバイスやメッセージをくれたみんな、ありがとう」(小林写函撮影)
「僕の心配をしてアドバイスやメッセージをくれたみんな、ありがとう」(小林写函撮影)

 やがてぽんたは、私がフードを持って近づくだけで、気配を察して逃げ出すようになった。

「ちょっとだけ食べて」と言いながら、クローゼットの奥に引っ込んだぽんたに手をのばす。すると「ぎゃああ」と、これまで聞いたことない叫びのような声を発し、目をつり上げた。

 まるで、知らない猫のような表情をしていた。

 私はクローゼットから離れた。

 もし、ぽんたが、私を恨んだまま逝ってしまったらどうしよう。

 そんな思いが、心をかすめた。

【関連記事】 食欲がない腎臓病の猫「ぽんた」 元気な姿が見たい…給餌を決断

(次回は11月22日に公開予定です)

宮脇灯子
フリーランス編集ライター。出版社で料理書の編集に携わったのち、東京とパリの製菓学校でフランス菓子を学ぶ。現在は製菓やテーブルコーディネート、フラワーデザイン、ワインに関する記事の執筆、書籍の編集を手がける。東京都出身。成城大学文芸学部卒。

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猫はニャーとは鳴かない
ペットは大の苦手。そんな筆者が、ひょんなことから中年のハチワレ猫と出会った。飼い主になるまでと、なってからの奮闘記。
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