沖縄で救われた猫 トライアル中に発病、それでも「家族」

「ねこかつ」デビューしたときの「しげ」。ちょっと緊張している
「ねこかつ」デビューしたときの「しげ」。ちょっと緊張している

 保護猫カフェ「ねこかつ」では、猫を譲渡する前に、必ずトライアル(お試し飼い)期間を設けている。先住猫や先住犬と仲良くなれない、ご家族にアレルギーが出たなど、譲渡をしない方が良いと思われる例外的なケースを見極めるためだ。そのトライアル期間中にも、いろいろなことが起きる。

「『しげ』にお声がかかりました!」

 その日、「ねこかつ」のお店に戻ると、スタッフが嬉しそうに報告をしてきた。

「どんな感じの人?」

 実際に対応したスタッフに確認をとる。

「ご家族全員でみえて、とても仲のよさそうな優しそうなご家族でした」

「話をすすめて、大丈夫そう?」

「はい!」

沖縄の愛護センターから救出

「しげ」は、沖縄のセンターに収容され、殺処分されかねないところをレスキューされた子だ。

 センターから引き出して一時ケアをしてくれるボランティア。那覇から羽田まで空輸してくれる「パケボラ」と呼ばれるボランティア。羽田から「ねこかつ」のある川越まで運んでくれる搬送ボランティア。「ねこかつ」のシェルターで世話をするボランティア。そしてお店のスタッフ。助けたいという、たくさんの人の思いがつまった子の譲渡は、いつもより余計に慎重になる。

 車で一時間ほどのご自宅まで「しげ」をお届けして、トライアルは順調に始まった。

トライアルで「しげ」を迎えた家族
トライアルで「しげ」を迎えた家族

風邪? 体調を崩した「しげ」

 しばらくして、トライアル中のお宅から電話があった。

「風邪をひいたみたいなので、病院へ連れて行ってもいいでしょうか?」

「すみません。お願いします。トライアル期間中なので、医療費はこちらで負担させていただきます。領収書をとっておいてください」

 トライアル期間中の猫の所有権は「ねこかつ」にある。そのためトライアル中にかかった医療費は、原則「ねこかつ」の負担としている。

 それからまたしばらく経ったある日、その家から電話があった。

「急に具合が悪くなって病院へ連れて行ったのですが、今はもう立ち上がることもできない状態です。かかりつけの獣医さんも、うちではこれ以上は無理だから、他の大きな病院で診てもらった方がよいと……」

 そう説明する声は緊迫していた。

「『ねこかつ』で普段お世話になっている病院で診てもらいます。これから引き取りにうかがってもよいですか」

病院で診察を受ける「しげ」
病院で診察を受ける「しげ」

深刻な病気を発病

 車を急いで走らせて「しげ」を迎えに行くと、ご家族で待っていてくれていた。

 リビングの真ん中に置かれた猫ベッドに横たわって動くこともできない「しげ」。その周りをご家族が囲んで心配そうに見守っていた。

「僕は獣医ではないので素人判断になりますが、今までの経験だとFIPか脳炎の可能性が高いと思います」

「これが血液検査などの結果ですが、獣医さんもFIPか脳炎ではなないかと疑っていました」

 そう言って検査結果を差し出された。たくさんの検査がしてあった。

「これだけ検査していただいたら、費用もかなりかかっていると思います。今、清算させてください」

「『しげ』を迎え入れたときから、『しげ』はうちの子なんです。これはうちの子に出した医療費ですから、うちで負担します。主人もそう話していましたから」

 奥さんはきっぱりと言った。

「わかりました。お金の話はまた後日にします。『しげ』を病院に連れていきます」

 かかりつけの獣医の診断もFIPか脳炎だった。FIPだったら助からない。脳炎だったら助かる見込みがある。両にらみの治療となった。

治療後に家族のもとへ戻った「しげ」。みんな嬉しそうだった
治療後に家族のもとへ戻った「しげ」。みんな嬉しそうだった

「うちの子だと決めていました」

「ねこかつ」での隔離治療がしばらく続いた。隔離治療中も、ご家族から「しげ」の容体を心配する電話が入り、何回も会いに来られた。

 脳炎だった「しげ」は次第に持ち直し、自分でご飯を食べられるまでに回復した。しかし、脳炎の後遺症で頭や足のふら付きが強く残りそうだった。

 ご家族に電話をかけた。トライアル中の発病。申し訳ない気持ちでいっぱいだった。

「『しげ』のことでご相談があります。脳炎の後遺症が残りそうです。今後、後遺症が消えることもあるかも知れませんが、今のところは残りそうな感じがしています。お家に戻すことももちろんできますが、トライアル中でしたし、お話を白紙に戻していただいてもよいかと思います」

「えっ、戻って来られるんですか! 息子たちもみんな待ちわびていたんです! 『しげ』を最初に希望したときから、もううちの子と決めていましたから」

 こちらは申し訳ない気持ちから低いトーンの声だっただろう。それとは正反対に、ご家族の声ははずみ嬉しそうだった。

 沖縄で収容され、殺処分される寸前だった猫。その「しげ」に、本当の家族ができた瞬間だった。

保護犬・保護猫譲渡会in小江戸蔵里
日時:9/29、10/6、10/27、11/10、11/17、12/1、12/15(いずれも12時~15時)
会場:小江戸蔵里広場(埼玉県川越市新冨町1-10-1)
主催:保護猫カフェ「ねこかつ」(tel 070-5029-8392)

【前の回】老夫婦が保護し、大事に世話した野良猫たち 飼育崩壊の危機に
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梅田達也
保護猫カフェ「ねこかつ」代表。保護したり行政施設から引き出したりした保護猫の飼い主を募集する場として、保護猫カフェを運営しながら、ほぼ毎週末、各地で譲渡会を開催している。TNR活動にも力を入れており、講習会も開いている。

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この連載について
猫模様~保護活動の現場から~
飼い主のいない猫を保護、譲渡する活動を続ける保護猫カフェ「ねこかつ」代表の梅田達也さんが、保護活動の現実について語ります。
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