愛猫2匹をつれ別居 「多頭飼いって寂しい!」と初めて気付いた

いつも2匹、一緒に寝ていたクリス(左)とココ(右)
いつも2匹、一緒に寝ていたクリス(左)とココ(右)

 ハードだった出版社勤務から逃げるように結婚して田舎暮らし。フリーライターになったものの思うように仕事が来ず、焦りばかりが募って…。クリスとココを迎えたのは、ちょうどそんな時期でした。

(末尾に写真特集があります)

孤独を癒やしてくれた愛猫「クリス」「ココ」

「せめてもう少し、東京に近いところで暮らしたい」

 住んでいたのは夫の会社の社宅。家賃も安いし職住接近。どんなにお願いしても、彼はうんとは言ってくれませんでした。決定的だったのが、「どうせ子どもができるまでの数年でしょ?」という一言。

 子どもができても仕事を続けたいから、フリーランスの道を選んだのに。わかってもらいたくて、毎晩のように話し合いました。しかし彼はどんどん気難しくなるばかり。ついには「その話は聞きたくない!」と自室にこもって出て来ません。新婚だというのに、会話はほぼゼロ。クリスとココだけが、冷え切った私の心を温めてくれました。

 そんなある日。近所の奥さんが野菜のおすそ分けを持って来てくださいました。玄関で応対する私の足元には、いつものようにクリスとココ。

「可愛い猫ちゃんたちね。でもね、猫ばっかり可愛がってると、子宝に恵まれないっていうわよ。ほどほどにね」

 悪気のない一言だったと思います。しかし、ちょうどその前の晩、夫から「そんなに仕事したいならパートでも探したら? それより早く子どもをつくろう」。そういわれてギョッとしたばかりだったのです。

「人生観が違い過ぎる」

 私は結婚のことも、仕事のことも、何より自分のことが理解できていなかった。夫には申し訳ない気持ちでいっぱいですが、もうクタクタでした。

「クリス、ココ。お母さん、この家を出ようと思うの。一緒に来てくれる?」

猫はいったい、誰のもの?

 それから離婚を前提とした別居をすることになりました。夫は当然、怒り心頭です。「結婚してから買ったものはすべて半分に。だから猫も一匹、置いて行ってくれ」。それは残酷な宣告でした。

 初めて見たとき、片時も離れようとしなかった2匹。だからこそ、1匹の予定が2匹とも引き取ったのに…。私のせいでこの子たちを引き離していいのか。そもそも、私にどちらかを選ぶことなんてできるのか?

 一晩、クリスとココを抱いて泣きました。悩みました。そして翌朝。出勤してゆく夫の背中に向かって涙声を振り絞って言いました。

とにかく傑作だったのがクリスの寝ぼけ顔。ただでさえおとぼけキャラなのに、寝起きの無防備さったら…
とにかく傑作だったのがクリスの寝ぼけ顔。ただでさえおとぼけキャラなのに、寝起きの無防備さったら…

「2匹を引き離すなんて、私にはできない。そして、どちらかを選ぶのも、やっぱり私にはできない。だからどうしてもというなら、2匹ともあなたにお願いします」

 夫は驚いたように私の顔を見ていましたが、「わかった」とだけ言って、会社へと出かけてゆきました。

 結論から言うと、2匹とも私が引き取ることになりました。夫は会社から帰ると言ったのです。「猫は2匹とも君が連れて行ってくれ。僕には彼らを幸せにする自信がない」

愛猫2匹とアパート暮らし

 なんとか都内で猫2匹連れて暮らせるアパートをみつけ、フリーランスとして正式に旗揚げしてがむしゃらに働きました。いろんなことが、私の想像のナナメ上でした。今のようにセクハラ、モラハラ、パワハラなんていう言葉のないころです。

・広告の仕事で知り合った代理店の営業マンが、深夜に突然、家を訪ねてくる
 →なんとか24時間営業のファミレスに追いやり、1時間だけコーヒーに付き合う

・クライアントの社長から食事に誘われ、ホテルのレストランでルームキーを渡される  →もちろん丁重にお断りしました!!

 そんなことがあるたびにしみじみ感じたのは「会社の名刺」のありがたみでした。フリーランスは初対面の相手でも自分の住所と電話番号を書いた名刺を渡さなきゃならないのです。悔しい思いも、ずいぶんしました。

「バカにしないでよ!私を誰だと思ってるのよ!」

 そしてふと思うのです。「私は誰?」

 大手出版社の浅野さんでもありません。誰かの奥さんでも、どこかのお嬢様でもありません。ただの、何の後ろ盾もない一個人です。だったら、バカにされない人間になろう。仕事で認められて、バカにできないところまで登ってやろう。そう誓ったのです。

なぜだかカバンが大好きだったココ。「まさかあたくしのお気に入りを持って出かけようっていうんじゃないでしょうね?」
なぜだかカバンが大好きだったココ。「まさかあたくしのお気に入りを持って出かけようっていうんじゃないでしょうね?」

 結婚していたころとちがって、家にじっとしている日はほとんどなくなりました。打ち合わせ、取材、撮影と駆けずり回り、重い足を引きずるように帰宅します。クリスとココが待ってくれている。あのモフモフに癒やされたい、サバ柄のおなかに顔をうずめたい…!

「ただいま!」

 …シーン…。あれ?どうした?どこ行った?

 二間しかない狭いアパート。奥の和室にたたんで押しやってあった布団に、2匹丸まっていました。クリスが面倒くさそうにこちらをちらっと見ます。ココはあくびをして、また目をつむってしまいました。

 そうです。昔私が飼っていた子たちは1匹飼いでした。帰宅すると決まって玄関で待ち受けてくれていたのですが、彼らは常に2匹。飼い主を待ちわびるほど寂しくないのです。私はずっと彼らと一緒に家にいたので、そのことに気づかなかったのでした。

「ねえ、クリスってば!」

 おざなりにしっぽの先をちょいちょい。

(はいはい、わかったわかった)

 返事してるつもりなのです。

 ああ。多頭飼育って、寂しい! 

【前の回】お嬢さま猫「ココ」に寄生虫 のんきな飼い主だった自分を反省
【次の回】鐘つき堂で生まれた子犬「ネネ」 リハビリ中の父に笑顔をくれた

浅野裕見子
フリーライター・編集者。大手情報出版社から専門雑誌副編集長などを経て、フリーランスに。インタビュー記事やノンフィクションを得意とする。子供のころからの大の猫好き。現在は保護猫ばかり6匹とヒト科の夫と暮らしている。AERAや週刊朝日、NyAERAなどに執筆中。

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この連載について
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猫と暮らし始めて、気が付けば40年! 保護猫ばかり6匹と暮らすライターの、まさに「カオス」な日々。猫たちとの思い出などをご紹介します!
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