奄美大島からやって来た「ノネコ」 甘えん坊なふつうの猫だった

 奄美大島(鹿児島県)では、希少生物アマミノクロウサギを保護するため、昨年7月から環境省の主導で、森に生息する野生の猫を捕獲する「ノネコ管理計画」が始まった。“クロウサギを捕食する害獣„として捕獲されたノネコは、引き出しがない場合、1週間で殺処分となる。引き出されたノネコの譲渡先家庭を訪ねてみると、ごくふつうの猫がそこにいた。

(末尾に写真特集があります)

不思議キャラ、ゆわんくん

 ちょっと垂れ目がチャームポイントの「ゆわん」くんは、推定1歳。この2月に、神奈川県に住む萬浪(まんなみ)一貴(かずき)・友恵夫妻のもとにやってきたばかりだが、夫妻の愛情を一身に浴びて、家じゅうを飛び跳ねていた。

 初代猫をなくして1年。譲渡先募集中の保護猫の説明に「ノネコ」の文字を見たとき、友恵さんは首をかしげた。「最近はノラ猫のことをノネコっていうのかしら」

 写真を見ると、流し台でくつろいでいて、おもしろそうな子である。

「mocoどうぶつ病院」の流し台でくつろぐ、東京に来たばかりのゆわんくん(斎藤先生提供)
「mocoどうぶつ病院」の流し台でくつろぐ、東京に来たばかりのゆわんくん(斎藤先生提供)

 その子、ゆわんくんは、NPO法人「ゴールゼロ」代表で、「あまみのねこ ひっこし応援団」の団長を務める東京在住の齋藤朋子獣医師が、現地に行って引き出してきたばかりのノネコだった。

 萬浪夫妻が、「ノネコ」とは森や山で自活する野性の猫だと知ったのは、会いにいった時だ。だが、ひと目でゆわんくんの不思議キャラに魅了されていたので、迎えることに躊躇はなかった。

 2月に萬浪家にやってくるなり、ゆわんくんは、夫妻の手や顔、家具までも舐め回した。まるで赤ん坊が舐めることでモノを認識するように。友恵さんが料理をするときは肩に飛び乗って、手先を眺める。

「しょっちゅう跳んでます(笑)。水も大好き。でも、ノネコだったと特に意識はしませんね」「とにかく、天真爛漫の甘えん坊」と、夫妻は目を細める。

 譲渡した斎藤先生はいう。

「森で暮らしていたノネコは、そもそもが、島に持ち込まれ、捨てられたり迷ったりして森に入り込み、自活せざるを得なかった猫の子孫たちなんです。最初から家猫とは別種のノネコという害獣として生まれたわけではありません」

ゆずきくんを抱く桜大くん。「重いんだ」
ゆずきくんを抱く桜大くん。「重いんだ」

やさしい甘えん坊のゆずきくん

 もう1軒、斎藤先生が引き出して譲渡したノネコのいるお宅を訪ねた。

 昨年12月に千葉県に住む加藤家に迎え入れられた「ゆずき」くんは、推定1歳のおっとり猫だ。「ノネコと呼ばれていた子だって、人間とも先住猫ともちゃんと仲良くなれることを知ってもらい、受け入れる家庭が増えることを願って、取材を引き受けました」と、お父さんの達也さんが開口一番に言った。

 小学生の次男、桜大(おうだい)くんが裏庭で保護した麦わら猫あずきちゃんの遊び相手となる2匹目の猫を一家は探していた。譲渡先募集のただし書きに「ノネコ」と書かれた猫に目が留まった。

 お母さんの幹子(まさこ)さんは、「奄美のノネコ」についてネットで調べあげた。思わず野生が出て、幼いあずきちゃんに危害を加えることはないか、という心配もあった。だが、一家で会いに行くと、ノネコはとてもフレンドリーだった。迎え入れることを一家で決めた。

「それでも、ケージ・フリーにした時は、やっぱり怖くって(笑)。ゆずきは、のんびりケージから出てきてくつろぎ、2週間ほどで、あずきともすっかり仲良くなりましたね」

 先日、あずきちゃんが避妊手術で一晩いなかった時、ゆずきくんはご飯も食べないほど、意気消沈した。あずきちゃんが帰ってくると、喜んでいつまでも毛づくろいしてやっていたという。

 長男の凌大(りょうだい)くんは「野性動物と聞いていたのに、甘えん坊のやさしい猫でびっくりした」といい、弟の桜大くんは、「せっかく生まれてきたのに、ある日捕獲されて、引き取り手がなければ、その子の一生はそこで終わっちゃう……。それって、可哀そうすぎる。どんな猫でも、どんな動物でも同じだけど」と涙ぐんだ。

「この子はもともと猫好きだったけど、2匹と暮らすようになって、猫を助けたいという思いが強まったみたいです」と、幹子さんは言葉を添えた。

仲良し兄妹となったゆずきくん(右)とあずきちゃん(加藤達也さん提供)
仲良し兄妹となったゆずきくん(右)とあずきちゃん(加藤達也さん提供)

ノネコ計画の問題点

 ノネコたちは、森の中で母猫から愛情深く育てられたのだろう。生き延びるためには、さまざまな生き物を捕食したことだろう。それは、ノネコだけの罪なのだろうか。殺処分されなければいけない罪なのだろうか。

 斎藤先生はいう。

「ノネコ、ノラ猫、家猫、みんな同じ種なんです。ノネコは、人間を知らないで生きてきた分、虐められたこともないから、無邪気に懐きます。都会のノラ猫のほうが、人馴れによっぽど苦労しますね。同じ猫なのに、動物愛護法で保護されることなく、「ノネコ」と区分けすることで、鳥獣保護法でスピーディーに殺処分できるような方向性の先には、とても危険を感じます」

 奄美の豊かな生態系を守るための希少種保全は大切なことだが、クロウサギの減少はすべてノネコにありとして、捕獲後の引き出しがなければ1週間後に殺処分という計画には、いくつもの疑問や問題点が指摘されている。

(1)クロウサギの死因は、交通事故死が最多だ。犬や猫による捕食が死因と思われるのはおよそ1割だが、すでに死んでいたクロウサギを食べるケースも多いのではないか。

(2)激減したとされるクロウサギの頭数は、2003年の調査によるもの。朝日新聞の情報公開請求に応じて初めて環境省が出した2015年の調査資料によると、クロウサギは何倍にも増えている。これは、ハブ駆除のために森に放されたマングースが増えてクロウサギの天敵となったが、今度はマングースが駆除されたためと推測される。ノネコを捕獲しなくても、この10年来、クロウサギは増え続けていたことになる。

(3)莫大な予算を投入し、10年間で毎年300頭のノネコ捕獲をめざす計画だが、18年度の捕獲数は43頭。今のところ、登録引受人のフル稼働で全頭が引き出されている。実際のノネコはそう多くないのではないか。

(4)クロウサギの増加によって、農被害の声が出始めた。クロウサギが増えていったら、次はどんな対策があるのか。

  さらに、飼い猫や外猫が森の入り口に仕掛けられた捕獲器にかかってしまうケースがあっても、捕獲された猫はみな「ノネコ」とみなされる。捕獲を通知されるのは、登録引受人のみ。引受人の認定審査はかなりハードルが高く、現時点で、沖縄や東京の10人弱である。

mocoどうぶつ病院で。抱きぐるみで馴化開始のせっこちゃん
mocoどうぶつ病院で。抱きぐるみで馴化開始のせっこちゃん

命の重さはみな同じ

「せっかく生まれてきたのに」という桜大くんの言葉を斎藤先生に伝えた。

「ああ、泣けちゃうなあ。その通りなんだなあ。その気持ちを、どうして大人たちが持てないんだろう。世界遺産登録をめざすクロウサギも、森でひっそり生きるノネコも、命の重さはみんな同じ。どちらも守る方法の議論がもっとされるべき。『1週間で殺処分』では、大人が子どもに説明ができません。環境省がまだ見直しに動かない現状でのノネコを救う唯一の道は、引き出したノネコを迎えてくださる方が一人でも増えることです」

「あまみのねこ ひっこし応援団」が引き受けたノネコは、引き出して馴化(じゅんか)を始めたばかりの黒猫「せっこ」ちゃんで8匹めだ。せっこちゃんは、不妊手術済みの耳先をカットされた猫だったが、捕獲されてしまったために「ノネコ」とされた。もうすぐ9匹目もやって来る。

 これまで引き出された「ゆずき」くんや「ゆわん」くんたち7匹は、それぞれに温かい家族の一員となり、穏やかに暮らしている。ふつうの家猫として。

佐竹 茉莉子
人物ドキュメントを得意とするフリーランスのライター。幼児期から猫はいつもそばに。2007年より、町々で出会った猫を、寄り添う人々や町の情景と共に自己流で撮り始める。著書に「里山の子、さっちゃん」「猫だって……。」など。Webサイト「フェリシモ猫部」での「道ばた猫日記」連載は8年目。
この特集について
猫のいる風景
猫の物語を描き続ける佐竹茉莉子さんの書き下ろし連載です。各地で出会った猫と、寄り添って生きる人々の情景をつづります。
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