ナイト気取りの猫「アーサー」、納豆を食べる旦那にあわれみの目

アーサーは甘いものも結構好き。ミルク味のキャンディもこの通り!ひげがチリチリなのは、ヒーターに近づきすぎたせい。
アーサーは甘いものも結構好き。ミルク味のキャンディもこの通り!ひげがチリチリなのは、ヒーターに近づきすぎたせい。

 てんやわんやでいきなり大家族(人間2、猫4、犬1)になった私たち。結婚から半年もたたない「新婚さん」のはずなのに…。旦那は一気に増えた小姑たちに翻弄される日々が始まりました。

(末尾に写真特集があります)

猫「アーサー」にとって、旦那は新入り!?

 ワンニャンハウスで2カ月ほど過ごしたあと、なんとか動物たちと一緒に暮らせる家(賃貸)をみつけました。おかげで仕事も順調、多忙な日々でしたが最低でも週に一度は静岡の父の病院へ。合間には母の法事。名古屋の家も空き家とはいえ、たまには様子を見に行かないと…と目まぐるしく日々が過ぎてゆきました。

 本格的に一緒に暮らすようになって、ますます人と動物、動物同士の関係がはっきりしてきました。

 何と言ってもおかしかったのはアーサーです。彼は私がまだ大学生だったときに、ブリーダーでもショップでもなく個人の方から譲っていただいた猫でした。独立して家を出るまで、ずっと私の弟だったアーサー。家族の間でも、私はアーサーの「お姉」でした。

 母にべったりの甘えん坊だったため、独立するときは連れて出るのを断念したほど。そんなアーサーですが、私たちと暮らすようになって、今度は私にべったりになりました。すると、どうやら彼にとって面白くないのは旦那の存在だったようです。

 以前本で「猫は高い位置にいるほうが優位。だからけんかのときも高いところにいるほうがたいてい勝つ」と読んだことがありますが、アーサーがまさにそれを実践していました。例えば、ソファの角でアーサーが爪を研ぎます。私が叱ると「やべ…」という顔をしておとなしくなります。同じことを旦那がするとどうなるでしょう。

「うなっ…うにゃにゃ…」

 口の中でなにやらぶつぶつ言いながら、旦那をにらみつけます。それでも彼が「アーサー!ダメでしょ!」なんて言おうもんなら…

 ぶつぶつ言い続けながら、旦那の机に飛び乗ります。次にパソコンの上へ(当時はブラウン管ディスプレーでした)。そこまで上がれば、目の高さは旦那よりアーサーが上になります。

冬はヒーターの風が来るポジションを奪い合うクリスとアーサー。「仲良くてくっついてるわけじゃねーよ!おい、重いよ!」
冬はヒーターの風が来るポジションを奪い合うクリスとアーサー。「仲良くてくっついてるわけじゃねーよ!おい、重いよ!」

「な、何だよアーサー…」

 大きく息を吸ったかと思うと、たじろぐ旦那めがけて

「んぎゃーぉぅ!!」

 まさに一喝。

 どうやら、アーサーにとって旦那は「新入り」だったようなのです。

お姉はおいらが守る!猫アーサーの脳内序列

 アーサーはとにかく表情豊か、感情豊かな猫でした。彼の中では、どうやら我が家のヒエラルキーは、

1位  お姉(私ですね)
2位  おいら(アーサー)
3位  ほかの猫ども
4位  黒い犬(ネネちゃん)
5位  最近お姉がどっかで拾ってきた、ずうたいのでかいやつ(旦那)

 ということになったようです。

 私には爪も切らせますし、シャンプーもOK。でも同じことを旦那がすると、猛然と怒ります。そして旦那の顔と私の顔を交互に見ては目で訴えるのです。旦那とけんかしても(猫と人間がけんかするっていうのもどうかと思いますが)、すぐ私に言いつけに来ます。

「にゃぐにゃぐにゃぐ…(無限ループ)」

(お姉!ねえ、お姉ったら!あいつ何とかしてくれよ!ほんとに腹立つ!)

(いいよ、どっかで拾っちゃったんでしょ? 責任もって飼うのはいいよ。でもさ、ちゃんとしつけしてよね!あいつデカいずうたいして生意気なんだよ!)

 何よりアーサーは、私のナイトを気取っていました。徹夜で原稿を書いていると、必ずそばで見守ります。夜が明けるころやっと寝室へ行くと、黙ってついてきます。彼が寝るのは決まって私と旦那の間。どんなことがあっても割り込んできます。

 そして朝。目覚ましが鳴って私がぐずぐずしていると、アーサーも目を覚まします。が、彼が起こすのは旦那なのです。

「うなーう!」

 前脚でぺしぺしと旦那の顔をたたいて、かなり手荒な起こし方をします。

(起きろってば。腹減ったよ!)

 旦那も決して寝起きのよいほうではありません。私と一緒に徹夜することも多いのでなおさらです。そうこうするうち私が本格的に起きだすと、あわてて私にすり寄ってきます。

(ごめんねごめんね。お姉、起こしちゃってごめんね)

 そして旦那のほうを向き直って一声。

「んがぅっ!!」

(お前がぐずぐずしてるからお姉が起きちゃったじゃねーか!)

アーサーのキッチンでの定位置はミニ冷蔵庫の上。「ごちそうも見逃さないし、お姉も見守れるからね」
アーサーのキッチンでの定位置はミニ冷蔵庫の上。「ごちそうも見逃さないし、お姉も見守れるからね」

 そんなアーサーでも旦那には一目置いていたところがあります。人間がお刺し身を食べるときは必ず一口ご相伴、というのがアーサー的ルールだったので、食卓チェックは日課でした。ですが、どうにもアーサーが承認できなかった食べ物があります。旦那の好物、納豆です。

「おう、食べるか?身体にいいんだぞ」

 納豆の小鉢をアーサーに差し向けると、フレーメン反応して露骨に嫌な顔をします。

「え?いらない?うまいんだぞー」

 旦那はケラケラと上機嫌。猫相手に何やってんだか…。アーサーはというと、私に目で訴えかけてきます。それは「こんな臭いもん差し向けやがって!」という怒りではないのです。むしろあわれむような目で旦那を見つめ、悲しそうに「なーう」と一声。

(お姉、あいつなんか腐ったもん食べてるよ。さすがにかわいそうだから、なんか出してやってよ)

 そんな時のアーサーの情けなさそうな顔が、たまらなく好きでした。

「大丈夫だよ。信じられないかもしれないけど、あの人あれ(納豆)が好きなんだってさ」(実は私も苦手なのです)。

 苦笑いでアーサーの頭をなでてやります。通じているやらいないやら。

 (へえ…そうなの?)

 気が知れないっていう顔をして、ふたりで納豆をほおばる旦那を眺めるのでした。

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浅野裕見子
フリーライター・編集者。大手情報出版社から専門雑誌副編集長などを経て、フリーランスに。インタビュー記事やノンフィクションを得意とする。子供のころからの大の猫好き。現在は保護猫ばかり6匹とヒト科の夫と暮らしている。AERAや週刊朝日、NyAERAなどに執筆中。

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猫と暮らし始めて、気が付けば40年! 保護猫ばかり6匹と暮らすライターの、まさに「カオス」な日々。猫たちとの思い出などをご紹介します!
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