後ろ足が不自由な子猫 保護宅で犬と遊ぶうちに、奇跡の快復

 国道脇で保護された子猫は、後ろ足に障がいがあり、歩くことができなかった。行き場のないその子猫を引き受けた夫婦は、先住犬2匹と隔離して飼うことにした。だが、気づくと、子猫と犬たちは仲良しに。そして、不自由だった足が奇跡的に動くようになった。

(末尾に写真特集があります)

国道脇に小さな子猫

「モップ」と名づけられた黒猫は、推定7か月。琥珀色の賢そうな瞳をもつ、シャイな男の子だ。埼玉県に住む勇斗(ゆうと)さん・千博(ちひろ)さん夫婦のもとにやって来て、5か月になる。

 そもそもは、勇斗さんのお母さんが国道脇で保護した子猫だった。

 昨年10月のある日。ひっきりなしに車が行き交う国道脇に、その子猫はいた。生後2か月ほどのやせた黒猫。縁石に両方の前足をかけて、道路に飛び出しそうな気配だった。

やってきた当時。後ろ足を引きずって這っていた(千博さん提供)
やってきた当時。後ろ足を引きずって這っていた(千博さん提供)

「危ない!」と、勇斗さんのお母さんが思わず抱え上げると、子猫はシャアシャアと威嚇して、手を引っかくやら噛みつくやら。生粋のノラの子のようだった。

 お母さんは慌てて保護したものの、家には尋常ならぬ「猫恐怖症」の愛犬がいることを思い出した。そこで近所に住む息子夫婦の家に子猫を連れて行ったのだった。

 保護してから気づいたのだが、子猫は両方の後ろ足がだらんとしていた。床に下ろすと、床にお腹を擦りながら前足だけで這って歩いた。

後ろ足に先天的な障がい

 突然母が連れてきた子猫を目の前に、千博さんは途方に暮れた。

「動物は夫も私も大好き。でも、うちには、ルルとポンというやんちゃ盛りのオスのポメラニアン2匹がいます。犬たちに追い回される日々は、逃げきれないこの子には可哀そうすぎると思ったんです」

 頭に浮かんだのが、懇意にしている自動車販売店だった。保護猫の「ヤマト」と「ナデシコ」の2匹が店の看板猫になっている。奥さんの美佐さんは、近隣のノラの子の譲渡先探しなども続けている快活な人だ。

 相談を受けた美佐さんは言った。

「うーん、うちは2匹でもう手いっぱい。ナデシコはとても神経質だし。迎えてあげられなくて、ごめんね。まずは病院で診てもらい、そのあと、いい状況で飼ってくれる人を一緒に探しましょう!」

 病院でレントゲン検査を受けた結果、子猫の後ろ足が不自由なのは、骨折など後天的な原因ではなく、先天的な骨の未発達であることが判った。後ろ足の影は薄くて真っ白なので、歩けるようにはならないだろう、とのことだった。

 栄養失調で生まれ育ったせいだろうか。保護当時も、道路を渡った母猫についていけず、取り残されたのかもしれなかった。

 動き回るときにお腹をこするので床には柔らかいマットなどを敷くこと、犬がいないことが、譲渡先の条件となる。もらい手が見つかるまで、千博さん宅で預かることになった。

「一緒に遊ぼうよ」。ポン(左)とルル
「一緒に遊ぼうよ」。ポン(左)とルル

「うちの子にしよう」

 前足だけで懸命に動き回る小さな命を預かって1週間。勇斗さんと千博さんのどちらからともなく出た言葉は、「うちの子にしようか」だった。

 子猫には「モップ」という名が付けられた。モップの住む和室には、厚いマットが敷かれ、犬が飛び越えられない高さの柵が取り付けられた。

 先住犬のルルとポンは、1歳と2歳のやんちゃ盛りだが、気のいい仲良しコンビである。やって来た子猫に興味津々。いつも柵のこっちから、「遊ぼうよ」と熱視線を送るのだが、千博さんとしては近づけるわけにはいかない。2匹に襲いかかられておもちゃにされても、モップは逃げることもできず、おびえ固まってしまうだろう。それは、どれほどのストレスだろうか。

 そんな隔離生活がひと月たった頃だった。千博さんがふと気づくと、なんとモップが犬たちと一緒にいた。

 前足で柵を乗り越えたらしい。怖がるでもなく、大歓迎の犬たちに羽交い絞めにされ、舐め回されている。3匹とも、なんともうれしそうだった。

「それで、モップが自分で個室から飛び出してきたときは、マットの上でそのまま遊ばせることにしたんです」と千博さんは説明する。

人見知りのハリネズミ「タワシ」とモップは、友好な関係。(千博さん提供)
人見知りのハリネズミ「タワシ」とモップは、友好な関係。(千博さん提供)

4本足で歩いた!

 そのうち、信じられないことが起きた。

 犬たちに追い回されて遊ぶうち、モップの後ろ足が機能してきたのだ。やがて、4本足で立てるようになった。

 ネズミのおもちゃを放ってやったり、爪とぎを少し高い位置に打ちつけてやったりと、千博さんもあれこれリハビリになることを工夫してやった。

 そして、ついに、モップは4本足で歩くようになった!

 もう、モップの日常は、普通の猫とさして変わらない。放られたおもちゃを取ってきたり、台に乗ってハリネズミのタワシくんが住むケージハウスを観察したり。

 モップの後ろ足が使えるようになるとは、動物病院の先生も、美佐さんも驚いた。

 実は美佐さんにも、犬と猫の愛情が引き起こす奇跡を目のあたりにした経験がある。

 最初の保護猫ヤマトを迎えたとき、家には余命1か月と言われた、寝たきりの老犬がいた。子猫がやって来たことを老犬はとても喜び、食欲も復活。起き上がることさえできなかったのに、ヤマトの姿が見えないと、探して歩き回るほどになった。その後、寿命を1年半も延ばし、大往生したのだった。

「犬や猫って、人間の常識や医学さえ軽々と超える力を持っているわね」

「無理だとか、仲良くなれるはずがない、なんて思い込んでしまうのは人間たちね」

 千博さんと美佐さんはそう言い合う。

千博さんのお腹には、新しいいのちが宿っている
千博さんのお腹には、新しいいのちが宿っている

また新しい家族

 9月には、この家にまた新しい家族がやってくる。

 千博さんが子どもを授かったのだ。以前、千博さんは流産をし、悲しみを胸の奥に抱え込んでいた。そんなとき、モップがやって来て、その3か月後におめでたが判明した。今はもう安定期だ。

「モップは福猫なんです。だけど、これ以上家族が増えたら、どのくらい大変になるのか、ちょっと想像がつかなくて」

 そう言って笑う千博さんを、ルルとポンとモップが見上げた。「大丈夫だよ。新入りがやってきたら、ボクたちが遊んであげるから」というかのように。

佐竹 茉莉子
人物ドキュメントを得意とするフリーランスのライター。幼児期から猫はいつもそばに。2007年より、町々で出会った猫を、寄り添う人々や町の情景と共に自己流で撮り始める。著書に「里山の子、さっちゃん」「猫だって……。」など。Webサイト「フェリシモ猫部」での「道ばた猫日記」連載は8年目。
この特集について
猫のいる風景
猫の物語を描き続ける佐竹茉莉子さんの書き下ろし連載です。各地で出会った猫と、寄り添って生きる人々の情景をつづります。
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