薬を飲むのが得意な猫「ぽんた」 いつも素直に口をあけてゴクリ(31)
慢性腎臓病のぽんたは、3種類の錠剤を飲んでいる。
(末尾に写真特集があります)
血圧を下げる薬と血流をよくする薬、尿路結石を防ぐサプリメントだ。サプリメントは直径7ミリ程度の円形をしており、ほかの2種類の薬は小さくカットされている。
投薬は、私がぽんたの口の中に直接入れる方法で行っている。
狙いどきは、ぽんたが朝と夕方の食事のあと、毛づくろいを終え、リビングや見晴台の上で香箱を組んでいる時間だ。
「ぽんたちゃん、今日もかわいいなー、ご機嫌いいねー」と猫なで声で近づき、背中と頭をなでながら「さあ、お薬ですよー」と声をかける。ゆっくりと頭をつかんで上を向かせ、素早く口を開けて舌の奥に薬を落とし、のどをさすって飲み込ませる。
最初の頃は、ベッドやソファの角など、私のからだとの間にぽんたを挟み、固定できる場所まで移動させて行っていた。慣れてくると、香箱の状態なら動くことはないので、その必要もなくなった。
こちらは、くつろいだ様子を装いながらも、投薬に神経を集中させることが重要だ。気持ちが少しでもよそに向いていると失敗する。薬を的確な位置に落とすことができず、舌の裏などに入ってしまうと、ぽんたが気持ち悪がって吐き出してしまうからだ。
それでも気をとりなおして再度試みれば、うまくいく。「猫への投薬って、別に難しくないな」と考えていたのだが、実際はそうではないことを、病院の待合室で、ほかの飼い主たちと話をしていて知った。
たいていの猫は、投薬の際に暴れたり、気配を察すると逃げるなど、なんらかの抵抗を見せるという。だから、錠剤は砕いてウェットフードやおやつに混ぜて与えたり、カプセルを活用したり、投薬器などの便利グッズを利用するなど、皆、さまざまな工夫をしていた。
家族の誰かに押さえてもらってやっと、いう人や、投薬のために毎日通院している人もいた。ぽんたのようにいつも素直に口を開け、おとなしく薬を飲む猫はまれなようで、「錠剤を直接指でつまみ、口の中に入れる」というやり方を1人で行っている飼い主は、今のところ私の周りにはいない。
ぽんたは、薬を飲むのが得意な猫だった。しかし、苦手なこともある。
ひとつは、爪切りだ。
室内飼いの猫は、飼い主が爪を定期的に切ったほうがよい、と聞いた。爪をカーテンに引っかけたり、家具を傷つけたり、人にけがをさせる危険があるからだそうだ。それで、ぽんたを引き取ると同時に猫用の爪切りを購入し、飼育書やインターネットで手本を見て、挑戦した。
しかしぽんたは、脚先にちょっと触るだけで嫌がって、腕からすり抜けてしまう。無理やり押さえようとしてもダメで、暴れてこちらがけがをしそうだし、誤って血管を切って出血させるのも怖い。
「投薬よりも爪切りのほうがずっと簡単」という人は多いが、私は早々に諦めた。どっちみち、月に1度は動物病院に通うことなったため、無理はせずプロの手に委ねることにした。
そしてもうひとつの苦手なのは、抱っこである。
飼育書には、「猫が十分に慣れ、信頼関係を築いた相手であれば抱っこは簡単」というようなことが書いてある。自由を奪われている状態なので、信頼している人にしか許さない行為らしい。
しかし、家にきて1年以上たっても抱っこはできない。子供時代に猫と暮らした経験があり、猫の扱いは私よりずっと慣れているツレアイでも拒絶されてしまう。
ツレアイが抱き上げると、しばらくはキョトンと目を丸くして「何がおこったのか」という顔をしている。しかし10秒もすると脚をバタつかせ、体をくねらせて降りたがる。ひざの上には乗ってくるのに、自分の意思とは関係なく、人と接触させられるのは嫌らしい。
ツレアイですらこの有り様なので、猫を抱っこした経験のない私は言わずもがなだ。しかし、抱えて移動させたり、キャリーバッグに入れることはできるから、日常生活に支障はない。愛猫を抱いてにっこりする飼い主の姿に憧れていたが、我が家では諦めることにした。
こうして穏やかに日々が過ぎ、ぽんたが家に来てから2度目の正月を迎え、また春がめぐってきた。腎臓病と診断されてから2年、宣告された命の期限を超えようとしていた。
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