腎臓病の猫「ぽんた」の通院 待合室のおしゃべりが楽しみに

 慢性腎臓病のぽんたは、血圧を下げる薬を飲ませるようになってからは調子がよく、腎臓の数値も少しずつ下がっていた。

(末尾に写真特集があります)

 しかし、投薬開始から8カ月が経ったころに食欲が落ち、数値は再び上昇した。

 腎臓病の進行を防ぐために先生から追加で提案された薬は、血管を広げて血行をよくするためのものだった。血行が悪くなると腎臓は老廃物をうまく濾過できなくなり、食欲不振や脱水を引き起こす。それを改善するため、腎臓病の猫に処方されることの多い錠剤、とのことだった。

 この薬は、毎日朝晩2回与える必要があるという。

「1日2回の投薬は、ちょっと負担が大きいかもしれませんが」と心配する先生に、「大丈夫です。ぽんたは薬を飲むのが得意なので」と私は胸を張った。

 そしてこれまで2カ月に1度だった血液検査は1カ月に1度になり、通院のたびに点滴治療を行うことになった。

「悠然として南山を見る。陶淵明の気分だな」(小林写函撮影)
「悠然として南山を見る。陶淵明の気分だな」(小林写函撮影)

 動物を飼ったことのない人に「点滴治療のために病院に通っている」と話すと「猫が点滴中にじっとしていられるの?」と驚かれる。

 猫にも、直接血管に針を刺して液体を入れる静脈点滴を行うことはあるらしい。だが腎臓病の治療で脱水改善のために行う点滴は皮下点滴、または皮下輸液といい、その名の通り、皮膚の下に液体を入れる方法だ。

 猫の背中の皮を引っ張るとわかるように、人間と違って猫の皮膚は伸びる。そのため、皮膚と筋肉の間にある程度の量の液体を入れることができるのだそうだ。

 皮下にたまった液体が体内に吸収されていく速度は、静脈点滴に比べてゆっくりではあるものの、点滴そのものは数分で終わる。猫にストレスを与えることも比較的少ないという。

 先生はぽんたの首根っこ、肩甲骨あたりの皮膚をつまみ、伸びたところにチューブにつないだ注射針を刺す。そしてチューブの反対側に取り付けたシリンジ(針のない注射器)で液体を押し込んでいく。

 点滴中は、看護師さんではなく私が保定を行う。ぽんたは居心地が悪いらしく、体を左右に振ったり立ち上がろうとするが、なんとかそれをぎこちない動作で押さえ込む。

 先生は「最初に液体が入るときは、違和感があって、猫ちゃんはむずむずするみたいですよ」と言う。針が刺さり、液体が流れ出してしばらくすると観念するのか、ぽんたはうずくまるような姿勢でじっとしている。

 点滴の時間は5分程度。その間私は、透明な液体がチューブを流れてぽんたの体に入っていくのをながめながら、先生に病状について質問をしたり、世間話をする。

「な〜んか嫌な予感」(小林写函撮影)
「な〜んか嫌な予感」(小林写函撮影)

 ぽんたが通っているのは地域でわりと人気の病院らしい。診察前に待合室に座っている時間が長くなることもある。

 診察を待つ動物の多くは犬だ。犬は必要な予防接種の数が多く、病気の場合でも、散歩のついでに連れていくことができる。一方、猫は警戒心が強くて外に連れ出しにくいなどの理由から、病院への通院率は犬のほうが高いそうだ。

 だから、猫を連れている飼い主が隣同士に座ると、自然と仲間意識のようなものが生まれる。お互いのキャリーバッグをのぞきこみ、「かわいい猫ちゃんですね」とどちらからともなく声をかけ、それぞれの猫の年齢、性別を聞く。そして来院理由や、病気や治療についてたずねるうち、猫と出会ったいきさつや性格にも話は及ぶ。病気や生活習慣について同じ悩みを持っていると会話はさらに弾む。診察室に呼ばれてしまうと残念に思うほど、意気投合してしまうこともある。

「ちょっと!ちょっと!先生何すんの」(小林写函撮影)
「ちょっと!ちょっと!先生何すんの」(小林写函撮影)

 庶民的な商店街にある病院のためか、集まる飼い主も気さくで話し好きな女性が多い。多頭飼いをしていたりと、猫飼い経験も豊富だ。

「白黒ハチワレちゃんは、性格が穏やかでおとなしいわよ。今まで飼った家のハチワレ猫は全員そうだったから。活発なのは茶トラ、野性的で気が強いのはキジやサバトラね」

と、キャリーバッグの中でじっと香箱を組んでいるぽんたを見て、話しかけてくる人もいる。

 犬は散歩中に飼い主同士が交流することができるが、猫の場合はそれがない。私にとって、待合室でほかの飼い主と話をするのが、病院通いの楽しみとなった。

 新しい薬の効果もあってか、その後ぽんたは順調に食欲と元気を取り戻していった。

【関連記事】
腎臓病の猫「ぽんた」との暮らし 動物病院はお守りみたいなもの

(次回は8月2日に公開予定です)

宮脇灯子
フリーランス編集ライター。出版社で料理書の編集に携わったのち、東京とパリの製菓学校でフランス菓子を学ぶ。現在は製菓やテーブルコーディネート、フラワーデザイン、ワインに関する記事の執筆、書籍の編集を手がける。東京都出身。成城大学文芸学部卒。

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猫はニャーとは鳴かない
ペットは大の苦手。そんな筆者が、ひょんなことから中年のハチワレ猫と出会った。飼い主になるまでと、なってからの奮闘記。
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