情にも厚い最強のボス猫 マグロで大きくなったシマちゃん
「こんなボス顔の猫がまだいるとは!」と評判のシマちゃん( 推定11歳♂)は、コワモテの顔とはうらはらに、とっても懐の深い男。うどん店の大番頭もこなします。
(文・写真 佐竹茉莉子)
(末尾に写真特集があります)
店内では仕事人
シマちゃんは、いまどき珍しい存在感のある、いかにもの「ボス顔」である。実際に、この界隈の猫社会を8年以上仕切っている。
正業は、千葉県鎌ケ谷市にあるうどん店「お多福」の「大番頭」だ。うどん店を営む曽和紀彦さん(
70歳)・悦子さん(70歳)夫妻の敷地内に冬用ハウスと夏用ハウスを作ってもらって9年暮らしている。玄関わきには、なんと2階建ての食堂もある。
毎朝、女将さんの悦子さんと共に店に出勤するのが日課だが、すぐには店内に入らず、まずはカリカリの「出勤手当」を店先の物陰でもらう。「お入り」と言われて店内に入り、自分の席に着く。カウンターの端の椅子二つ分が、シマちゃん、の席と決まっているのだ。
大番頭の仕事は、ひたすら椅子で寝ていて、お客さんを和ませること。けっして店内をうろついたり、座敷や厨房に立ち入ることはしない。飲食業であることをよく分かっているのだ。
細身だった若い頃
きょうも、カウンター席で、なじみ客の大井さんが、隣のシマちゃんを撫でながら、女将さんとこんな会話を。
「シマが来て、何年たったかなあ」
「9年くらいかしらね。面倒を見ていた外猫たちの餌場に、ある日現れて。他のコは食べ終わるとすぐ散っちゃうのに、どこにも行かなかった。きっと捨てられたばかりだったんだと思うの。ひょろっとしてたからメスだと思ってたら、去勢済みだった」
「それが、今じゃこの図体だもんなあ」
ひょろっとしていたシマちゃんが、なぜこの図体と面構えになったかというと、大将が不憫がって、おいしいマグロをせっせと食べさせたからだ。
すっかりなついたシマちゃんを、夫妻は家に入れてやろうと思ったが、当時いた家猫たちへの遠慮もあってか、シマちゃんは自由な外猫生活を選んだ。店の営業時間には招き猫のようにお行儀よく店先に座っていて、よく通行人からタヌキか何かの置き物と間違えられたものだ。
そのうち、お客さんたちが口々に「中に入れてやれば」と言うようになり、シマちゃんには「大番頭」の肩書がついた。
ボスの器
シマちゃんは、やがて界隈のボスとしての器も実力も、着々とつけていった。早朝と夕方の見回りを欠かさず、縄張りに出張ってくるオス猫は、猛然と追い払う。その気迫に、決着はいつもあっという間についた。
「だけど、シマは、ただケンカの強いボス猫じゃないんだ。病気の猫や子連れの母猫なんかが流れてくると、とことんやさしかったね」と、大将は言う。
十数年前、息子さんが子猫を拾ってきたのをきっかけに、夫妻がこれまでご飯や避妊去勢手術などの面倒を見てきた猫は、10匹を超える。「子どもがいるの? なら、連れておいで」と声をかけられ、連日1匹ずつ運んできて、まとめて面倒を見てもらった母子猫もいた。死に際にたどり着き、手のひらで食べさせてもらって、ぽたぽた涙を流した猫もいた。
そんな夫妻の「弱いものに手を差しのべる」姿を、そばでじっと見てきたからこそ、この町の「あるべきボス」の自覚がシマちゃんのからだには染みついているのだろう。ひもじい猫にはご飯を譲る。雨の日にノラ母子に自分の家を使わせ、自分は小屋の外で見張りをしていたこともあるという。
言葉がわかる猫
「シマは、強くてやさしいだけじゃない。私たちの言うことがわかるんです」と、女将さんの、シマちゃん自慢は止まらない。
「そこで待っててね」と言えば、じっとそこで待つ。「面倒見てやって」と言えば、責任を持って新入りを守る。家猫ナナやフクが脱走した時も「探してきて」と頼んだら、ほどなく連れ帰ってきた。いつだったか、角までついてきたシマちゃんに「そこで待ってて」と言ったのをすっかり忘れ、商店で長いことおしゃべりをして戻ってきたら、シマちゃんが同じ場所でじっと待っていたそうな。
「だけどね、『落とし前つけろ』というみたいに怒った顔で目を合わさないの。『ごめんね、ごめんね』と謝ったら、機嫌を直してゴロンと転がったのが石垣の上だったものだから、ドタッと落ちました(笑)」
強くて情があって賢くて、おまけに愛嬌まであるなんて。これは、もう無敵のボスと言うべきだろう。
千葉県鎌ケ谷市鎌ヶ谷4-2-51 TEL 047-444-5641 営業時間:11:00~14:00(月曜休)
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