モヒカン刈り、反骨のロッカー? 女に媚びないパンクな老猫
白地に黒。頭に鶴のような模様があった子猫は、縁あってカメの飼い主に引き取られた。かわいらしかった子猫は、成長すると、“モヒカン刈りの反骨の猫”として、注目を浴びるようになった。
強烈なインパクトを放つ、“モヒカン刈り”の猫「つるきち」(15歳、オス)は、東京都新宿区にあるグラフィックデザイン事務所「フロゥト」に住んでいる。
扉を開けると、やはりロックな印象がある白黒のチェック模様の床が目に入る。そこに座っていた猫が、こちちをキッとにらんだ。
事務所オーナーで、飼い主の梶谷正人さんが迎えてくれた。なんと、その頭もモヒカン刈りだ。
「床も頭も合わせたみたいでしょう。でも、つるきちが来る前からなんです」と妻の裕子さんが笑う。
手を伸ばして、撫でようとすると、つるきちは“なでんじゃねえよ”と言うかのように身をひるがえし、奥に歩いていった。
梶谷さんが説明してくれた。
「女嫌いでね(笑)。たまに宅配のお兄さんにはよい対応をするけど、基本はビビリ」
カメのために行った病院で出会う
梶谷さん夫妻がつるきちに会ったのは、15年前、2004年5月のこと。当時から飼っていたギリシャリクガメの「かめきち」(23歳)を検査のため連れて行った動物病院で、獣医さんから「猫を飼いませんか?」と声をかけられたのだという。きょうだい3匹で拾われた子猫だった。
「3匹のうち、こいつだけ強烈な模様で(笑)。ちょうど事務所がペット可物件に引っ越したばかりだったので、迎えることにしました。その時、ドクターに『模様が際立っているから、成長記録を撮るといですよ』と言われて」
飼い始めた時は、生後3週、わずか数百グラムだった。丹頂鶴のような頭をしていたので「つるきち」と名付けた。
梶谷さんは手に乗るほど小さな子猫に、注射器でミルクを与え、日々の様子をブログ「つるきち」に載せ始めた。事務所を歩き回ったり、物陰で眠ったり、壁をよじ登ったり……。
「若い頃は忙しくて、カメ以外を飼うという発想がなかったけど、猫を暮らすと面白くて。よく動いて刺激的。とにかく存在感があった」
ただ、成長するにつれ、チャームポイントだった“鶴の頭”は、次第に“モヒカン刈り”のように変わっていった。その頭を見て、梶谷さんは「自分に似てる」とつくづく思ったそうだ。
「俺は音楽(レゲエバンド)もしていて、昔は長髪だったんだけど、だんだん短くして、ツンツンと立たせるようになった。その後でつるきちと会ったので、運命を感じたよね」
モヒカン人気が再燃
梶谷さんは、毎日休まずブログにつるきちの写真を載せ続けた。スニーカーに入ったり、コスプレをしたり、旅行に行ったり、古いPCモニターをくり抜いたベッドで寝たり……。超個性的な見た目は人気を呼び、全国にファンができた。
「つるきちの絵を描いて送ってくれたり、おみやげを送ってくれたり。仕事の時も、メールで済むような用事なのに、『猫に会いたいので』とわざわざ事務所に足を運ぶ人もいたなあ。もっとも、つるきちは、そっけなかったけど」
そんなつるきちが、今年また注目を浴びた。テレビの動物番組で取り上げられたのだ。まるで往年のスターの再ブレークのように。
番組の中、つるきちは、パンクロッカーのように「シャーシャー」とがなりたてていた。
「つるきちは掃除機が嫌いでシャーをするんだけど、ほかにも大の天敵がいる。仕事仲間で、猫好きのとても優しい女性なんだけど、つるきちはソリが合わない。いつ来ても怒る。ドアを鳴らさず、そっと来ても怒る。番組収録の時、彼女が家にやって来たら、やっぱり大興奮だった」
いつまでも見守りたい
子猫だったつるきちも15歳。さいわい大きな病気や事故に合うこともなく、これまで過ごしてきた。
裕子さんが「つるきちは、たまに吐くけど、歯はとてもいいのよね」と言うと、梶谷さんがうなづいて「年に一度、病院に検査に行くと、『元野良猫にしてはよくがんばってる』と言われるよな」と返す。
それでも高齢になったつるきちは、近ごろでは梶谷さんの仕事中、パソコンの横でずっと昼寝をしている。時々マウスが動かなくなるので、ひっくり返してみると、つるきちの毛が詰まっているという。
これからも夫妻で、つるきちをおおらかに見守り、サイトを更新しつづけるのが夢だ。
「赤ちゃんの頃から見続けてくださる方もいるので、ずっとアップしたい。ただ、このごろ寝ている時間が多くて、今日も寝てる、また寝てるって、ネタが同じ(笑)。元気でいるってことが最大の話題だけどね」
そう言って梶谷さんは、同じ髪形の“相棒”を見つめた。
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