全身タイツ? ブログで大人気のカッパちゃんは元地域猫

ブログで大人気のカッパちゃん。写真はすべて「NPO法人ねりまねこ」の亀山嘉代さん提供
ブログで大人気のカッパちゃん。写真はすべて「NPO法人ねりまねこ」の亀山嘉代さん提供

「『あれ、黒猫がいるな』と思ったんですよね。でもよく見ると……」


 2014年2月、凍えるような雪の日。「NPO法人ねりまねこ」(本部・東京)で保護猫活動を行う亀山嘉代さん宅の庭に、突如、1匹の猫が現れた。まるで全身タイツをまとったような、風変わりな見た目の猫だった。

 

(末尾に写真特集があります)

 

雪とともに現れたカッパちゃん
雪とともに現れたカッパちゃん

 わずかな白い毛まで黒ずみ、足取りはおぼつかない。しかし、激しい威嚇で、亀山さんは近づくこともできない。ごはんでおびき寄せてTNR(野良猫の繁殖を防ぐため、捕獲し、避妊・去勢手術を施す)をし、「地域猫」として見守ることになった。その3カ月後、亀山さんは「ねりまねこ」としての活動を始めた。

 

去勢手術を受けて、地域猫になったカッパちゃん
去勢手術を受けて、地域猫になったカッパちゃん

◆「変な柄」でも一生懸命!

 授けた名は、「カッパちゃん」。今では個性的な毛柄で知られ、ファンも多い人気猫だ。頭の模様がおかっぱ頭みたいだからカッパちゃん? それとも白猫が真っ黒の合羽(かっぱ)をはおっているようだから?


 答えは「上から見ると、頭の黒いギザギザが河童(かっぱ)のお皿みたいだから」


 そもそも亀山さんは、カッパちゃんに出会う前から、夫の知弘さんとともに保護猫活動をしていた。出発点は、東京都練馬区が公募を行う「地域猫推進ボランティア」への登録。野良猫が多いこの地で、ボランティアと行政との連携をスムーズにする制度だ。


「実は、あとからわかったことですが、庭に現れる2年前に、私は小さいカッパちゃんと出会っていたんです。地域猫の個体記録のために撮っている写真を見返していたら、幼い姿のカッパちゃんが写っていました。母猫たちとともに、すでにボランティアさんにごはんをもらい、手術の予定もあった。でも、その前にメスを求めて旅に出てしまい、餌場を求めるうちに、うちの庭に迷い込んだようです」

 

実は幼いころに一度、亀山さんと出会っていた。右の猫はどう見てもカッパちゃん
実は幼いころに一度、亀山さんと出会っていた。右の猫はどう見てもカッパちゃん

 ごはんをあげてもまったく慣れない。触るどころか、相変わらず近寄ることができない。しかし、そんな“シャーシャー猫”も、「ねりまねこ」のブログで餌やりの様子をリポートするうちに、たちまち人気者に。アクセス数は1日に1万を超えるようになった。


「反響は意外でした。かわいい飼い猫ならともかく、カッパちゃんは外で暮らす猫。薄汚れて、人を威嚇し、さらに変な柄(笑)。そんな猫でさえ1日1日を懸命に生きていると、読者が受け止めてくれたんです。多くの方が見ているからこそ、応援してくれるからこそ、私も応えていきたい、と励みになりました」

 

ごはんをあげても、シャー!
ごはんをあげても、シャー!

◆死の淵から救い、ついに「家猫」に

 しかし、餌やりを続けて2年になろうとしていた2015年の冬。カッパちゃんは衰弱していった。ひどい猫カゼを発症したのか、大好物のウェットフードに見向きもしない。ただ温もりだけを求めて、陽だまりにうずくまっていた。


 ———このままでは命を落としてしまう。


 亀山さん夫妻は決心し、二人がかりで捕獲。抵抗されながらも室内へ迎え入れることができた。地域猫から、「家猫」になったカッパちゃん。ブログのコメント欄は、容体を心配していたファンからの安堵と称賛の声であふれた。


「最初の3カ月間はケージ生活。次第に威嚇はしなくなりました。ほかの保護猫たちともケンカしません。ある日、交通事故にあって保護していた猫、ヤマトくんを抱っこしていたら、カッパちゃんがじっと見ていたんです。抱っこしてほしい? まさかね……。試してみると、嫌がらない。でもなぜか目をつぶって、足はだら〜ん。抱っこをしてもらったことがないから、され方がよくわからなかったんでしょうね」


 そして、今。少しずつ心を開いていった “シャーシャー猫”は、亀山さんの布団でいっしょに寝るまでに変わった。


「安心できる室内で、おだやかに暮らしています。それでも、外での暮らしが長かったので、長生きは難しいでしょう。推定6歳。野良猫なら寿命を迎えてもおかしくない年齢です。老化の兆候も出ています。だからこそ、生きている今を幸せに過ごさせてあげたい」

 

今では亀山さんと、この距離感
今では亀山さんと、この距離感

 取材の最後、亀山さんの案内でカッパちゃんと対面した。視線を合わせないようにそっと近づくと、カッパちゃんは少し緊張しながらも、体に触れさせてくれた。なでると、体のこわばりが落ちついていく。飼い主以外に初めてなでられた瞬間だと亀山さんは驚く。そして、目を細めながら一言。


「人との触れ合いの中で、猫って変わっていくんです」


(本木文恵)

 

NPO法人ねりまねこ
練馬区と協働の地域猫活動に加え、登録ボランティアのアドバイザーとして後進の育成、ネットや講演活動による地域猫活動の普及・啓発、保護・譲渡活動などを行っている。
公式HP:https://nerimaneko.jimdo.com
ブログ:『ねりまねこ・地域猫』https://ameblo.jp/nerimaneko/
本木文恵
編集者・ライター。1級愛玩動物飼養管理士。猫に関連する雑誌・書籍の編集や執筆を行う。2020年より猫の本専門の出版社「ねこねっこ」を運営。担当著書に『猫からのおねがい 〜猫も人も幸せになれる迎え方&暮らし』(監修・服部幸先生)など。愛猫はキジ白と茶白の2匹。https://neco-necco.net

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この連載について
幸せになった保護犬、保護猫
愛護団体などに保護された飼い主のいない犬や猫たち。出会いに恵まれ、今では幸せに暮らす元保護犬や元保護猫を取材しました。
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