歌舞伎のような顔の猫 コワモテなのに超ビビリ、だっこも拒否

 歌舞伎の隈取り(くまどり)のような、すごみの利いた顔で、人気急上昇中の猫がいる。名前はずばり「カブキ」。元捨て猫で、保護猫カフェで一目惚れした家族に引き取られた。だが、このコワモテ猫、実は大変なビビリだった。

(末尾に写真集があります)

 宮崎市内の一軒家で、カブキは暮らしている。雑種で、推定4歳。もとは市内の保護猫カフェ「うたたね」の裏に、捨てられていた成猫6匹のうちの1匹だった。

 飼い主の主婦、海江田さん(37)は、家を新築して、猫を飼いたいと調べていた時に「うたたね」のフェイスブックで、変わった猫を見つけた。

「会いに行くと、衝撃を受けた、というか、一目惚れしました(笑)。夫は“微妙な顔やな”と笑いましたが、娘(7歳)は“なんかカワイイね”と。県外からも会いに来る人がいるほど人気でしたが、会ったら忘れられず、うちに来てほしいと祈るような思いで申し込みました」

 お見合いと審査を経て、念願かなって、カブキを家に迎えた。だが、カブキは思った以上に警戒心が強かった。

 噛んだり引っ掻いたりはしないが、シャーシャーと鳴き続け、抱くはおろか、体にも触れさせなかった。海江田さんは実家で保護犬や保護猫を飼った経験があったが、カブキは群を抜いて“シャイ”だった。

来てすぐの頃は心をなかなか開かなかった
来てすぐの頃は心をなかなか開かなかった

猫専用のカブキ部屋

 家になじまず、しばらくは、そこかしこに排泄したという。いろいろ考えた末、たどりついた対策は、専用の「カブキ部屋」を作って、好きに使わせることだった。猫カフェの方式に合わせることにしたのだ。

「居間にカブキを無理に入れるのでなく、私たちがカブキ部屋に会いにいくスタイルにしてみました」

 カブキ部屋は8畳の洋間。そこに猫柱などグッズも揃えた。それが合ったのか、カブキは環境に少し慣れた。それでも人間との心の距離はかなりあった。

 そこで海江田さんは、猫の仲間がいれば、寂しくないかなと考え、半年後、市内の保護猫譲渡会で最後まで残っていた雄の子猫「文太」(当時生後2か月)を迎えることにした。

我が子のように可愛がった文太(右)
我が子のように可愛がった文太(右)

子猫が仲間入り

 子猫がやって来ると、カブキは興味を抱いたようだ。

「最初は離して、しばらくしたら一緒に、と考えていましたが、ちらっと文太を見たとたんに“あ、かわいい奴がきた”と関心を持っていましたね」

 だが、この文太は家に迎えた直後に受けた検査で、白血病にかかっていることがわかった。

 感染リスクがあるのでカブキとずっと一緒にはさせられない。でも、両方の猫を触れ合わせたい……。そこで、家族がしっかり見守る中で、カブキ部屋で1日10分だけ会わせることにした。

 限られた逢瀬でも、カブキは文太に寄り添い、文太も喜んでカブキを慕った。

「カブキは、コワモテな外見と違い、優しい猫なんですよね。文太を守るようにして、父性も見せてくれました」

 1歳未満で猫白血病が見つかった場合、生存率は約20%と低く、「3歳の壁」(3歳まで生きるのは難しい)ともいわれる。家に迎えて以来、海江田さんは文太を大切に育てたが、今年の春に急変し、5月初旬に息を引き取った。

 カブキは文太がいなくなると、しばらくニャアニャアと大声で夜鳴きをしたという。

病院で健診中、男前を気取るが舌がぺろり
病院で健診中、男前を気取るが舌がぺろり

カブキに起きた変化

 しかし、その後、カブキは大きく変化した。家族を目で追い、自らそばに寄ってきて、身体を撫でさせるまでになったのだという。

「いやいやながらも抱っこができるようになりました。まだ部屋から完全に出るのは難しく、気が向いたらリビングや寝室にふら~っと来る感じ。私たちがちょっとでも反応すると、自分の部屋に猛ダッシュ(笑)。それでも大進歩です」

 文太とお別れした数週間後、海江田さん宅に第二子(長男)が誕生した。同じ月にひとつの命が消え、ひとつの命が生まれた。その激動の中、家族みんなが力を合わせた。その中にカブキもいた。

「今はまだ幼いボーイ(長男)には時々しか会わせていませんが、カブキは興味があるらしく、くんくん匂いを嗅ぎます。きっと文ちゃんの時のように、今後優しい父性を見せてくれると思います」

長女のすーちゃんからごはんをもらっているところ
長女のすーちゃんからごはんをもらっているところ

白黒さんキャラクターに

 カブキは個性的なルックスから、インスタグラムで人気になり、猫グッズ等のキャラクターにも選ばれている。タカラトミーがイラストレーター・さかざきちはるさんとともに運営する白黒の猫の投稿サイト「白黒さんいらっしゃい」でも採用され、イラスト化された。

「白黒さんに選ばれて、すごく嬉しかったです。強運でコワモテのカブキは宮崎の新名物かも(笑)。今は一緒にいるだけで幸せですが、夢はベッドで一緒に寝ることですね」

「白黒さんいらっしゃい」、8月にパネル展
白黒猫だけを集めたWebサイト「白黒さんいらっしゃい」。投稿された写真から選んでさかざきちはるさんが描く、様々な柄の白黒猫キャラクターが「白黒さん」。イラストになると、グッズ化もされる。
8/16~20、東京・新宿の京王百貨店で開かれるsippo企画のイベント「みんなイヌ、みんなネコ」では「白黒さんいらっしゃい」のパネル展を開催。グッズ販売も予定。
藤村かおり
小説など創作活動を経て90年代からペットの取材を手がける。2011年~2017年「週刊朝日」記者。2017年から「sippo」ライター。猫歴約30年。今は19歳の黒猫イヌオと、5歳のキジ猫はっぴー(ふまたん)と暮らす。@megmilk8686

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この連載について
ペットと人のものがたり
ペットはかけがえのない「家族」。飼い主との間には、それぞれにドラマがあります。犬・猫と人の心温まる物語をつづっています。
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