この白い粒が元野良猫「ぽんた」の寿命を左右する 責任と希望と(25)
暴風雨の中、徒歩と電車で隣町の病院に着く。院長先生が受付におり、薬を用意して待っていてくれた。待合室はガランとしている。さすがにこの天候では来院する人もいないのだろう。
(末尾に写真特集があります)
先日行った尿比重(尿の濃さ)測定の結果によると、ぽんたの数値は標準よりも低く、尿が薄いことが判明した。
本来、猫の尿は非常に濃く臭いもきつく、細菌が繁殖しにくい。だが腎臓病の猫の尿は薄いため、細菌が増殖しやすく、膀胱炎にかかりやすいのだと先生は説明した。ぽんたの膀胱炎は「細菌性膀胱炎」との診断だった。
膀胱の炎症と出血を抑えるための抗生剤と消炎止血剤を処方してもらい、帰路についた。
薬をぽんたに与えるのは数カ月ぶりだ。クローゼットの中で丸くなっているぽんたを抱え出し、ベッドの角と私のからだで挟んで固定する。こちらの緊張ができるだけぽんたに伝わらないようにと呼吸を整え、頭を持って上を向かせて口を開き、錠剤を素早く落として口を閉じた。飲み込んだことが確認できたので手を離すと、ぽんたはブルブルっと頭を振り、なにごともなかったかのように、クローゼットに再び潜り込んだ。
私は安堵し、何度もぽんたの頭をなでてから、仕事へ出かけた。
その日の夜、ぽんたは少し出血をしたが、その後数日間はトイレに行く回数は多いものの、夜中に鳴いてうろうろしたり、トイレを出たり入ったりすることはなかった。
膀胱炎は再発しやすい。症状が見られなくなってもまだ細菌が残っている場合があり、途中で薬を止めてしまうと再び菌が繁殖する危険がある。落ち着いたと思っても投薬はしばらく続けるようにと先生から言われていた。
それから1週間後、再びトイレで血尿を発見、その後、私のベッド、続いてリビングのソファに粗相の跡を見つけた。
病院に連れて行き、点滴(皮下輸液)に続いて、超音波検査をした。すると膀胱には、もやもやとした白い煙のようなものと、小さな塊が映った。
「まだ膀胱が炎症をおこしていますね。この塊は腫瘍とは考えにくいので、炎症を起こした物質か血の塊だろうと思います。しばらく薬を続けて様子を見ましょう」
と先生。
それでも粗相や血尿がおさまらず、塊が消えなければ別の検査が必要かもしれないとのこと。腎臓病に加えてさらに重い病気だったらと考えると気が動転しそうだった。しかし、点滴のおかげで体調がよくなり、積極的にフードを食べるぽんたを見ていると、その不安は薄らいでいった。
膀胱炎に効果があるというサプリメントも加え、投薬を続けてさらに約10日。その間、1度粗相はあったものの、トイレに行く回数はしだいに正常に戻り、出血もなくなった。
超音波検査をすると、もやもやと塊はきれいに消えていた。
さらに約10日間薬を与え、今回の膀胱炎は治ったと診断された頃、血液検査を実施した。約1カ月にわたる膀胱炎さわぎのせいか、案の定、腎臓の数値は少し上昇していた。
「血圧を下げる薬をあげてみましょうか。ぽんちゃんの体に負担のない量を数日分出しますから、様子を見て調子がよいようなら少し増やしましょう」
と先生。
腎臓病の治療では、血圧を下げて腎臓への負担を軽くするため、降圧剤を処方することがある。それは以前先生から聞いていた。
「お願いします」
と私は言った。
降圧剤は、与え始めたら途中でやめることはできない。しかも1日1回、決めた時間に投薬しなければならない。投薬を忘れて時間が経つと再び血圧が上昇し、腎臓に負担がかかる。気がついた時点で与えれば血圧はまた下がるが、上がったり下がったりは体に負担がかかり、病状が悪化する。常に、血圧を下げた状態を維持することが望ましい、とのことだった。
床に落としたら、あっけなくゴミとして処分されてしまいそうな小さな白い粒。これが、ぽんたの寿命を左右する。
そう思うと責任の重大さを感じたが、私の心のもやもやは、きれいになったぽんたの膀胱と同じように晴れていた。
信頼できる病院と、おとなしく治療を受けてくれるぽんたの性格が、これからの闘病生活に希望を与えてくれた。
【前の回】元野良猫「ぽんた」が残した小さな赤い染み あの日の判断を後悔(24)
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