元野良猫「ぽんた」久しぶりの血液検査 ぬぐえないモヤモヤ感(21)
ぽんたが腎臓病と診断され、治療を開始してから4カ月がたった。2週間に1〜2回程度の通院による点滴治療の経過は良好で、その後食欲が落ちることもなく、体重も安定していた。
(末尾に写真特集があります)
ぽんたは、ツレアイのベッドや本棚の上で昼寝をしたり、洗面所のタオル用の棚にもぐり込んで香箱座りをしたりと、お気に入りの場所をどんどん開拓していた。家に来てまだ7カ月だが、もう何年も前から家猫であるかのような顔をし、外を通る野良猫を威嚇したりしていた。
梅雨が明ける頃、久しぶりに血液検査をした。数値が下がっていることを期待したが、腎臓病の進行を判断する血液中のBUN(尿素窒素)とクレアチニンの数値は、ともに少し上昇していた。
元気で食欲もあるのになぜ、という疑問が湧いたが、先生はこの結果を特に問題視する様子はなかった。ただ、これまで与えていたリン吸着剤を、さらに効果が高いものに変えることになった。
リンは骨や歯をつくる重要なミネラルだが、腎機能が低下すると、余分なリンが尿と一緒に排出できずに体内にたまり、病気が悪化する。そのため、リン吸着剤をフードに混ぜて、リンを体外に出やすくする必要があった。
新しく購入した吸着剤1瓶を手に帰宅。リンだけでなく、ほかの老廃物も吸着するものらしい。しかしツレアイも私も、なんとなく腑に落ちない気持ちだった。家でゆっくり血液検査結果表を見ると、リンの数値は前回よりかなり下がっているからだ。
「腎臓に悪いものを取り込まなければ、数値は下がるだろうけど」とツレアイ。腎臓病は、対症療法が中心であることはわかっているが、何かもう少し直接的な治療法はないのだろうか、というのが彼の考えだった。
人の医療ではこういう場合、「セカンドオピニオンを受けに行く」という方法がある。ネットで調べると、動物の場合でも、最近は増えているという。
家の近くには、ほかにも動物病院はいくつかある。しかし、どこに相談に行けばよいのか、ピンとこないまま、数日が過ぎた日のことだった。
その日、私は外で1日仕事をし、疲れて帰宅した。自宅マンションのドアを開けると、土間には男物のスニーカーと女物のサンダルが二足並んでいた。奥からは、英語と日本語が混じった笑い声が聞こえてくる。
リビングに入ると、西洋人と日本人の若いカップルが恐縮した様子で立ち上がり、「お留守にすみません」と頭を下げた。聞けば、最近、近所で偶然知り合った夫婦だという。今日の夕方、たまたま近くのスーパーマーケットで再会し、「よかったら、うちに寄って一杯飲みませんか」と誘ったのだと、ツレアイは説明した。
ご主人はスコットランド人で職業はホテルの料理人。ローテーブルの上には、今晩のおかず用に私が作り置きした、いかにも家庭料理といった武骨な総菜が勝手に並べてある。ツレアイの無神経さにぶぜんとしつつも、「こちらこそ、強引にお誘いしちゃったみたいで」と笑顔をつくり、席に加わった。
すると、
「 A子さん、いい病院を知ってるんだって」とツレアイが言う。
今、我が家で病院といえば、人間用でなく動物用をさす。なんでもA子さん夫妻は猫を4匹飼っており、病院には世話になることが多いのだそうだ。
ただ、場所は隣町で、今通っている病院と比べ、少し遠い。
「ぽんたちゃん、可愛いですね」とA子さん。
「ぽんたは、もうだいぶ遊んでもらったんだよね」とツレアイ。
すると、私の部屋で寝ていたらしいぽんたが起き出して、リビングにやって来た。
「なー」と鳴いて、ソファに飛び乗り、夫妻の間に割って入るとゴロゴロとのどを鳴らす。次は床に飛び降りて、ローテーブルの周りを歩き回り、伸び上がって皿の中をのぞいたり、床に転がったり、ご主人のひざに顔をこすりつけたり。私よりも場になじみ、初対面の来客と打ち解けている。
夫妻が猫好きというのも大きいのだろう。すっかり懐いた様子のぽんたを見ながら、近いうちにその病院に行ってみようと思った。
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