元野良猫「ぽんた」今日も元気に器の前へ 完食するのがうれしい(20)
飼っている猫が腎臓病になり、食事療法をしていることを友人や知人に話すと「どうやってやるの?動物にそんなことできるの?」と不思議がられる。
(末尾に写真特集があります)
そこで私は、病気の治療を目的に成分を調整した猫用の療法食が市販されていると話す。腎臓に負担がかからないよう、たんぱく質やナトリウム、リンの含有量が低く設定されていること、食欲が落ちても栄養が取れるように高カロリーであることなどを説明する。
こういう質問は、動物を飼った経験がないか、飼育経験はあっても病気とは縁のない犬や猫と暮らしていた人々から受ける。
前者だった私も、かつては動物用の療法食が存在するなど、考えてみたこともなかった。それ以前に、キャットフードがこれほど多種多様とは知らず、はじめてペットグッズショップを訪れたときには驚いた。
子猫用、成猫用、シニア猫用のほか、肥満や毛玉ケア、尿路疾患対策に有効なもの、人間用と同グレードの材料にこだわった自然食系、穀物を使わず、動物性たんぱく質の割合を高めたグレインフリーフードなど……。
療法食に関しては、ペットフードメーカーは猫の好みをリサーチし、「おいしい療法食作り」に力を入れているのだそうだ。低たんぱくで塩分控えめの食事は、猫にとってあまり魅力的な味わいではない。食が細くなりがちな腎臓病の猫が飽きないよう、さまざまな工夫をこらしているという。
腎臓病になるまでは、特に食のえり好みはなかったぽんた。最初に動物病院ですすめられた療法食を夢中で食べていたので安心していたものの、1カ月もすると食べる勢いが衰えた。空腹ではあるようで、適当な時間になると台所へとことことやってきて、食器の前に前脚をそろえて座る。
フードを器に入れると、ふんふんと匂いを嗅いで口をつけるが、少し食べると「もういいや」という態度で立ち去ってしまう。ときには「もっとほかのはないの」というような目線を送ってきたり、台所をうろうろして「ほかの」を探すそぶりを見せる。
食べないと体重が減り、体力や免疫力が落ちて病気が悪化する。その心配以上に、食べたい気持ちがあるのに、好きなものを食べられないぽんたがふびんだった。ダイエットのごほうびに刺し身を与えることも、病気になってしまった今ではできない。
「こんなことなら、好きなものをいろいろ食べさせてやればよかったね。前は食べすぎると言われて低カロリー食、今度はもっと食べろと高カロリー食。ぽんたも大変だ」
とツレアイは言う。猫には自分が太り気味であるとか、腎臓が悪いという意識はないだろう。確かにぽんたの立場からしたら、飼い主の都合でころころ食事を変えられているわけで、いい迷惑かもしれない。
かといって、病気を進行させるような食事を与えるわけにはいかない。
私は、同じく腎臓病を患っている叔母の猫がよく食べるというメーカーのフードを取り寄せたり、病院から療法食の試供品を何種類かもらうなどし、ぽんたの好みに合う療法食探しに努めた。ウェットタイプの療法食も試した。インターネットで紹介されていた、療法食を食べてもらうための工夫についても実行。食器選びも重要だとあったので、それまで使っていた安価なプラスチック製は処分し、猫が食べやすい高さの台座つきの陶器に買い替えもした。
試行錯誤の結果、国産メーカーの2種類を混ぜたものがぽんたの口に合うことがわかった。この「配合」を見つけてからは、食べ方が安定した。
ぽんたが今日も元気に食器の前にやってくる。「あーら、ぽんちゃん、おなががすいたの、えらいねー」と声をかけ、フードを器に入れる。ぽんたが口を動かしはじめ、チャリンチャリンとフードが器にあたる音を聞くと安心する。空になった器を見るとうれしい。
人間が食事をしているあいだは、食卓やひざの上にのぼることは禁止されていたぽんただったが、「食べ物に興味があって元気なのはよいこと」という理由から、許されるようになった。
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