シニア猫の幸せのために日々のケアを イギリスの専門医に聞く

ペットの寿命は延びている
ペットの寿命は延びている

 「高齢猫の早期疾病発見のために診るべきポイント」と題したセミナーのために来日したサラ・カーネイ先生。臨床医師として、研究者として活躍中のサラ先生に、シニア猫のケアについてお話をうかがいました。猫にも認知症がある! 猫はストレスに弱い…愛猫が若いうちから備えておけることがこんなにあるなんて!猫と一緒に幸せになる、日々のケアのお話です。

サラ・カーネイ先生 (撮影:岡田晃奈)
サラ・カーネイ先生 (撮影:岡田晃奈)

猫にも認知症はある

 猫に限らず、獣医療の進歩によってあらゆるペットの寿命が延びています。そして人間同様の生活習慣病や認知症に悩まされる動物も増えているのです。

 猫についても、認知症を発症することが確認されています。高齢期(11歳~14歳)の猫の1/4以上が、超高齢期(15歳以上)の猫は半分以上が発症するというデータもあります。その症状は犬の場合ともよく似ていて、遠吠えが止まらない、徘徊する、排せつを失敗する…などの問題行動があることが知られています。認知症になった猫は混乱し、行動が乱れ、周囲(同居している人間やほかの動物たち)へのかかわり方にも変化が見られます。

 そうした猫の認知症に対応するには、どうしたらいいのか。まずは、動物病院に行って、専門家のアドバイスを受けることが大切です。

 自宅で簡単にできることをご紹介すると、まずはなんといっても住環境を整えてあげることでしょう。猫がいつの日か、そのような状態になっても安心して生活できる環境に、あらかじめしておいてあげることです。

 具体的にご説明しましょう。認知症になっても、運動や日々の習慣はとても大切なものです。また、脳の認知障害を少しでも遅らせるためには、適切な刺激も必要です。

 つまり、階段を上り下りしたり、走ったりという運動をするとき、年老いた猫の関節に大きな負担がかからないようにしてあげること。混乱した頭でも、すぐにトイレにアクセスできるように、必要数以上の数を、わかりやすい場所に設置してあげること。そして、脳への刺激としては、窓から外が見られるようにするとか、パズルのように、あちこち探っていると中からフードが出てくるような知育玩具のようなものを使って遊ぶ習慣をつけておく、などです。

 変わったおもちゃを用意しなくても、市販の猫じゃらしを利用したり、飼い主さんの腰からリボンをぶら下げて、後について追わせたりするだけでも十分な刺激に、また、飼い主とのコミュニケーションにもなります。

 そして大事なことは、認知症をわずらってからこうした環境を整備するのではなく、若いうちから整えておいてあげるということ。認知症になってから、脳に刺激を与えようと急に遊ばせようとしても、猫はついて来られません。むしろストレスになるでしょう。猫は急な環境の変化を嫌います。いずれ歳をとることはわかっているのですから、まだ若いうちから、環境を整え、習慣にしてあげることが大切です。

猫のストレスに注意
猫のストレスに注意

病院にかかる習慣づけを

 猫には特発性膀胱炎など、ストレス誘発性疾患というものもあります。ただでさえ、認知症によって混乱した猫は、強い不安感に襲われています。大きな声で鳴いたり、周囲に対して攻撃的になったりするのはそのためです。

 そうした不安な気持ちを和らげる、認知症に一定の効果があるといわれているサプリメントやフェロモン製剤などもいくつかあります。愛猫が強いストレスを感じていそうだなと思ったら、かかりつけの先生に相談してみましょう。

 また、猫の健康管理のためには、こまめに獣医師と連携をとることが大切ですが、認知症を発症してから、急にこまめに受診するようになると、猫にとってはそれも大きなストレスになります。若いうちから、定期的に病院にかかることを習慣づけておくなどして、通院のストレスを少しでも軽減するようにしましょう。

 また、動物病院にはなるべく予約をすること。どの時間帯なら比較的空いているか、他の犬や猫と待合室でかち合わずに診療が受けられるか。待ち時間が短くて済むか。病院で過ごす時間をなるべく短くしてあげる配慮も必要です。

 どうしても動物病院に行きにくい、飼い主自身が、どう付き合ってよいかわからない、というときには、まずは猫を連れずに飼い主だけで訪問して相談するだけでもいいでしょう。

 そのようなケースはイギリスでも一般的ではありませんが、まずは電話で事情を説明してみてください。私たちの病院でも、電話で相談して簡単な解決策をアドバイスしたり、場合によってはスカイプでテレビ電話を通して診察したりすることさえあります。

 また、訪問医療も少しではありますが、増えているようです。病院とちがって設備に限りがありますから、できることは限られます。具体的には、問診、体重測定、聴診(心音や呼吸音)、お腹を触っての触診…という基本的な診察です。

異常はなくとも健康診断
異常はなくとも健康診断

愛猫の「老い」に備えるには

 人も動物も、必ず歳を取ります。そして動物は確実に、人間より短い寿命を生きています。まだ子猫だと思っていても、10年もすれば立派に高齢期に差し掛かります。人間にはあっという間の時間でも、彼らには壮大な時間なのです。

 若いうちから「老い」に備えるといっても、ピンとくる人は少ないでしょう。そして何度もいいますが、目に見えて「歳をとったなぁ」とわかるころには、かなり老化は進んでいる。それが猫という生き物です。

 備えるといっても、特別なことは必要ありません。前述のように、高齢になっても無理なく運動できて、同居している猫たちとストレスなくシェアできるトイレがあって、適度に脳に刺激のある遊びがあること。そして、若いうちから動物病院に通う習慣をつけることです。

 そのためには、異常はなくとも健康診断を受ける習慣を飼い主が持つことが大切です。

 その頻度についてですが、11歳未満であれば一年に1回。そのときに行う基本的な検査は体重測定などの身体検査と問診。その中でも7歳から10歳に該当する子は、身体検査にプラスして、血圧測定、血液検査、尿検査を実施しましょう。

 11歳から14歳なら一年に2回検診を。うち1回は血圧、血液、尿検査を行います。15歳以上なら1年に4回の健康診断を。血圧、血液、尿検査は一年に2回、1回おきに行うのが理想です。

 ワクチンも同様です。感染症にかかるリスクは、猫の飼育環境によって違うわけですが、抵抗力の衰えた高齢期の猫は、若い猫なら発症しないレベルの感染でも、重篤になる危険性があります。若い時からワクチン接種を欠かさないことも大切です。

 高齢期の猫のケアはとても大切です。それは、猫自身はもちろん、飼い主さんの生活の質(QOL)にも大きく影響します。また、高齢の猫は腎臓病、高血圧、甲状腺疾患、糖尿病などにかかるリスクが非常に高いのですが、深刻な疾患にかかってからでは、医療費だって大きな負担になります。そのためにも予防が大切で、こまめなチェックによる「病気の早期発見」は大きな予防になります。早期に発見できれば、進行を遅らせたり、発症を防いだり、場合によっては完治させることだってできるのです。

 そのためにも、飼い主さんと動物病院がチームになって、愛猫の健康をモニタリングしつづけること。よい関係を築ける動物病院をみつけることが大切ですね。

(通訳・久保田朋子)

サラ・カーネイ
ブリストル大学院卒。獣医学博士。20年以上、猫専門の獣医療に携わり、特に高齢期の猫のケア、猫医学のスペシャリスト。イギリス猫医学界でも代表的なひとりとして国際的にも知られ、世界の猫医療従事者に向けた多くの専門書を執筆している。イギリスの猫のための慈善団体・インターナショナルキャットケア(ICC)と、国際猫医学協会(International Society of Feline Medicine)にも長年貢献している。

飼い主が認知症になったら?「なかまぁる」で読む >>

浅野裕見子
フリーライター・編集者。大手情報出版社から専門雑誌副編集長などを経て、フリーランスに。インタビュー記事やノンフィクションを得意とする。子供のころからの大の猫好き。現在は保護猫ばかり6匹とヒト科の夫と暮らしている。AERAや週刊朝日、NyAERAなどに執筆中。

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