行き倒れのおじいちゃん猫は保護犬たちをリラックスさせる天才

 穏やかなペースで、しかし堂々とした立ち居振る舞い。人で言うなら100歳近いとされる20歳前後の猫、「もめん」くん。人が苦手な保護犬やビビリ犬専門のドッグトレーナーとして活動する山崎あこさん(43)が飼っている。

(末尾に写真特集があります)

 山崎さんは横浜市内で保護団体から引き取った犬や、自ら保護した3匹の猫たちと暮らす愛犬・愛猫家でもある。猫は飼い始めた順に、きなこくん、しじみちゃん、そして最後の1匹が、長毛猫「もめん」くんだった。

「じつは、もめさん(愛称)の本当の年齢はわからないんですよね。保護時の診断では、全身の状態から推定15歳くらいと。それから5年以上たっているから20歳くらいかなって……」

 そう語る山崎さんのそばで、ソファからテーブルの上に、軽やかに飛び乗るもめんくん。今度はテーブルの上からのそりと降りて、筆者の膝でくつろぎ始める。

「でも、どんどん若返っていったんですよね。獣医さんも『あれ、当時10歳くらいだったのかなぁ〜』って」と、山崎さんは笑う。

「当時、推定15歳とされたのも納得でした。こんな状態でしたから」

 そう言って見せてくれた写真のもめんくんは、「ボロボロ」としか形容できない状態だった。

保護した日のもめんくん。動物病院にて(提供:山崎あこさん)
保護した日のもめんくん。動物病院にて(提供:山崎あこさん)

保護から5年たった現在のもめんくん
保護から5年たった現在のもめんくん

傷だらけでボロボロ 看取る覚悟で動物病院へ 

 もめんくんとの出会いは、2013年の春。山崎さんが愛犬といつもの散歩コースを歩いていると、数人が道路のすみに落ちている“何か”を囲んでいた。覗いてみると、横たわったまま動かない猫だったという。

「ほかのオスに縄張りを追われたのか、捨てられたのか。具合が悪いならもっとうずくまるだろうし、きっと亡くなっているんだろうなって。『犬を近づけないで』と1人にお願いされたので、きっと保健所か動物病院かに連れて行ってくれるものと思ってその場を離れたんです。でも……」

 散歩コースを回って元の場所にたどり着くと、人影はなく、猫だけが残されていたという。離れたときと変わらぬ横たわった姿で。あわてて近づくと、かろうじて息をしているのが確認できた。急いで愛犬を連れて帰り、猫を保護するためのクレート、ゴム手袋、タオル、フードを持って、猫のもとへ戻った。

 触っても抵抗する様子はなく、抱き上げるとふわっと軽い。後ほど計った体重は、2.5kg。生後半年ほどの子猫と変わらない重さだった。

「このまま息を引きとってしまうだろうと思ったんです。だったら道ばたじゃなくて、せめてあったかいお布団で最期を迎えてほしい。看取る覚悟で動物病院へ連れていきました」

 目鼻はぐちゅぐちゅ、毛はもつれ、背骨に沿うようにハゲていた。ケンカ傷だらけで、とくにしっぽは付け根部分の負傷が激しく、垂れたまま動かない。極度の脱水状態で皮膚は垂れ、顔のむくみで開けにくそうにしている目は、白濁していた。初期の腎臓病でもあった。

 しかし、診察台の上でフードを見せると、ガツガツと勢いよく食べ始めたという。「もって3日くらいかな……」という山崎さんの予想に反して、その後、傷は回復し、みるみる元気になっていく。毛はまた生えそろい、丁寧なブラッシングの甲斐もあり、見た目にもきれいになった。

 猫の近況を投稿していたSNSでは、見守っていたフォロワーたちが、その生命力に驚き、喜んだ。

「外で暮らしていた期間も長いだろうから、去勢手術後は外に戻して地域猫として見守ることも考えたのですが、猫自身は家を出て行きたそうな様子はなし。外の世界はもうこりごりみたいで」

 こうして、晴れて飼い猫となったのだ。しばらく過ごしてもらった保護部屋では、ちょこんと礼儀正しいポーズで待ってくれていた。その姿はまるで旅館の女将さん。名前は和風にしようと友人と話し、響きのよい「もめん」に決めた。

山崎さんになでられて、リラックス全開のもめんくん
山崎さんになでられて、リラックス全開のもめんくん

預かり犬によりそって寝てくれる猫

 山崎さんは、ドッグトレーナーの活動と並行して、個人で預かりボランティアを行っている。動物愛護センターと連携し、人馴れしていない保護犬や保護猫を預かり、譲渡へとつなげる。取材時には、5代目の預かり犬「みりん」ちゃんがいた。

「保護犬たちは、人への恐怖心や経験不足から、怯えてやってくるんです。散歩用のリードをつけようとするだけでもガタガタ震えてしまったり。みりんもそんな1匹でした」

 やって来て、8カ月たつみりんちゃんは、すっかりソファでくつろいでいた。そっとなでてみても嫌がらない。もめんくんも横に並んで眠る。

「もめさんが、預かり犬たちのそばによりそって寝てくれるんです。まるで、『こうやってくつろげばいいんだよ。自分はそうしたら幸せになったよ』って教えるみたいに。犬たちもそんなリラックスの天才の姿を見て、安心していくんです」

 もともとあまり仲がよくなかった先住猫のきなこくん、しじみちゃんも、もめんくんが来てからは、ケンカをしなくなったという。もめんくんを中心に、3匹で並んで眠る姿も見せてくれるように。

「うちの猫たちはみんな、私が猫を飼いたくて『猫神様〜! お願いします〜!』と祈ったときに、目の前に現れてくれたんです。3匹目のもめさんは、もしかしたら猫神様ご自身なのかも。風貌も神様のようですし。たまに拝みたくなる不思議な存在です」

「もめさんを超える猫にはなかなか出会えないぞ。ありがたや〜」と、拝む山崎さん。“猫神様”は、ケガでもう動かないとも言われていたしっぽをゆらゆらと揺らして、その声に応えていた。

(文/本木文恵)

山崎あこさん公式HP
https://refcy-ako.jimdo.com/
Instagramアカウント:@0oako0

本木文恵
1983年生まれ。フリーランスの編集者・ライター。1級愛玩動物飼養管理士。猫雑誌の編集部に約8年在籍し、猫に関する取材、書籍やムック制作を行う。2017年に独立。編集を担当した近著に『保護ねこのきもち(ベネッセ・ムック)』など。愛猫はキジ白と茶白の2匹。
この特集について
幸せになった保護犬、保護猫
愛護団体などに保護された飼い主のいない犬や猫たち。出会いに恵まれ、今では幸せに暮らす元保護犬や元保護猫を取材しました。
Follow Us!
sippo編集部おすすめの記事をメールでお届け!
会員登録すると、獣医師への相談など会員限定の
サービスも受けられます。