保護犬や保護猫、引き取りたいけど難しいかも? 譲渡の条件とは

目次
  1. 引き取りたくてもできない?
  2. 家族構成やライフスタイルが問われる
  3. 条件満たして譲渡成約 10組に1組未満
  4. 「犬や猫につらい経験を二度とさせたくない」
  5. 譲渡条件は「犬猫と幸せに暮らすためのチケット」

 公益社団法人アニマル・ドネーション(アニドネ)代表理事の西平衣里です。連載5回目は保護された犬や猫を引き取るときにクリアしなければならない譲渡条件について、お伝えしたいと思います。

(末尾に写真特集があります)

 犬猫と暮らそうと思ったとき、「保護される犬猫が多くいることはなんとなく知っている、だけどどこで出会ったらいいのかわからない」という声はとてもよく聞きます。ですので、連載2回目の記事に譲渡会のことを紹介しました。

 その譲渡会に行った後に聞かれる声が、こちら。

「私は条件が合わなかったの。引き取りたいけど、難しいかも」と。

 保護団体さんがそれぞれに決めている譲渡条件とは、どんな内容なのでしょうか。

 2017年にアニドネと横浜商科大学との協働プロジェクト「HOGO animal future project」が発表したリサーチ資料に、以下のような質問があります。

Q.保護動物の存在を知っていたのに引き取らなかったのはなぜ?

1位は「検討していない」
2位は「条件的に引き取らせてもらえなかったから」
3位は「犬・猫の見た目が好みではなかったから
4位は「保護施設のことがよくわからないから」
5位は「引き取るまでの過程がわからないから」

 そもそも「検討していない」が90%にも上っています。ですから、保護犬猫を引き取ることを検討する人を増やすことはとても大事なことです(私が執筆している、この連載の狙いでもあります!)。けれども、保護動物と暮らす気持ちはあったけれども、あえなく諦めてしまった方が40%近くに上ることも別の局面からの問題だと思うのです。

 アニドネでは、現在支援をしている16の認定団体のうちの9団体が保護活動をされています。その団体さんの譲渡条件をざっとまとめてみました。

1、 家族構成(子供の有無・年齢、シニア、学生、同居、独身 等) 
2、 ライフスタイル(職業、収入、住所、転居の有無、旅行や入院時の対策、緊急時のための後見人必須 等)
3、 エビデンス:身分証明書、名刺、写真撮影、譲渡後の定期報告義務
4、 動物福祉:飼育方法(屋内か屋外か、散歩の回数、留守番時間)、飼育環境(段差か階段について、脱走防止柵について等)、不妊去勢手術の義務、マイクロチップ装着の義務、終生飼養

 すべての団体さんが上記条件を必須としているわけではありません。また上記以外にも独自の条件を設けている団体さんもあります。

 そして、譲渡条件は民間の保護団体だけが設定しているわけではないのです。「動物保護センター」や「愛護センター」「保健所」と呼ばれている行政の施設でも譲渡条件があります。

 一例として横浜市動物愛護センターの条件をご紹介しますと、例えば、万が一継続して飼育できなくなった場合に備え代わって飼育できる方の誓約書が必須、マイクロチップの装着報告、センター長との面談、も必要となっています。

 多くの行政施設が、譲渡前に受けなければならない飼育講習を実施しています。

 アニドネの支援先である「特定非営利活動法人 日本動物生命尊重の会(通称アリスの会)」の代表でおられる金木洋子さんにお伺いしてみました。アリスさんは、引き取りたいと思う方が少ない中型犬やミックスの犬をメインに保護し、飼い主を見つける活動をしています。数ある譲渡条件の中で、まずはなにを重視しているのか、を聞いてみました。

1、お留守番が少ないこと・・・犬の場合せいぜい4、5時間
2、飼育環境が犬猫に負担がないこと・・・例えば犬が暮らす場所は1階
3、手作りご飯であること・・・簡単なメニューで大丈夫

 上記3つが可能なのかを、最初に確認されるそうです。その後、ライフスタイルや家族構成を細かく聞き、直接会ってお宅に伺い、そしてお試し期間を経てやっと譲渡決定という流れになります。

 この流れに沿って譲渡成約となるのは10組に1組もいない、そうです。

手前右側が、アリスの会の代表でおられる金木洋子さん。手前左がアニドネスタッフ岡部有里、真ん中が筆者の西平衣里
手前右側が、アリスの会の代表でおられる金木洋子さん。手前左がアニドネスタッフ岡部有里、真ん中が筆者の西平衣里

「どうしてそこまで?」と聞くと答えはひとつ「二度と同じ経験を犬猫にさせたくないから」。

「保護された犬猫たちは、みなつらい思いをしています。けっして快適とは言えない行政施設に収容され処分間近でレスキューされた命。助けられなかった命もある中で、レスキューされた犬猫たちの第二の犬生猫生はいいもの、いや最高のものにしてあげたい。

 だから『そこまで厳しくしなくても』と言われても譲渡条件にはこだわりがあります。これまで25年間保護活動をしてきて、必要だと考えることが条件に入っています。」

「あとは、子犬や子猫なら新しい環境にすぐなじみますが、成犬成猫となるとそうはいかないんです。過去の暮らしもあるし、その子それぞれの個性や好みもある。例えば、過去の経験からか、男性がダメな犬、トイレを失敗したら失神してしまう犬、色々とあります。次に暮らすならば、その子たちそれぞれのストレスを取り除き、安心して暮らせるご家庭を探してあげたいのです。

 そのためでしたら、すぐに譲渡が決まらなくてもいいと思っています。ですので、アリスの子たちは1年以上、一時預かりさんの家で過ごしている子もいます。きっといつかいい出会いがある、と信じ焦らずに待ちます。実際、たくさんの病気を持っていて、年齢が高い子も引き取ってくださる方もいます。過去に一緒に暮らしていた子に似ている、という理由が一番多いですね」

 手作りご飯はなぜでしょうか?と聞いてみました。

「はい。こちらもこだわりたいんです。やはりおいしくて身体にいいものを食べさせてあげたいじゃないですか。そんなに難しいことではないですよ。レシピはお教えします。旅行のときなどはドッグフード持参でもいいと思っています。

 だけど日々の生活では犬猫に食事の面でも愛情をかけてあげられる気持ち的にも時間的にも余裕のある方に譲渡したいと思っているんです。毎回の食事を楽しみにする犬猫の顔はとてもかわいらしいものですよ!」

 どうでしょうか、みなさん。「2頭目は保護犬を!」と思っていたけど、諦めますか?「いやいや、私は大丈夫!」でしょうか?

 もし、今あなたが犬猫と暮らしたい!と思っているならばペットショップに行けば、その日から犬猫との暮らしが実現します。ペットショップで衝動的に出会い、その後幸せに暮らしている飼い主さんやペットも多くいるので、否定するつもりはありません。

 かたや、保護動物との暮らしを選ぶ際には、数々の書類や面談、現地確認、トライアル期間を経て、ということになりますから、手間や労力という部分では比較にならないでしょう。それでも、保護犬猫を選びますか?

 私は思います。譲渡条件というのは、犬猫と幸せに暮らすためのチケットみたいなもの、と。

 今は元気かもしれないけれど、歳を重ねた犬が病気になったら(ちなみに犬猫には国民保険はありません。民間の保険のみ)高額となるかもしれない医療費が払えるのか?数年後、海外転勤もあるかもしれないがそのとき連れていけるのか?現在、お子さんがいらっしゃるご家庭で子供のためにも犬を引き取りたい、だけど来年には兄弟が産まれる、そのときに毎日のお散歩は誰が行けるのか?

 アリス代表の金木さんにぜひ書いてほしい、と言われたことがあります。保護犬を迎えたご家族のエピソードです。先代のイヌは庭で飼育していたそうです。今回保護犬を迎えるにあたり、アリスさんの要望で室内飼いにして手作りご飯にしたところ、犬のかわいさが全く違うと。

 近くにいると犬の気持ちもよく分かり、犬も落ち着いているから迷惑行動(ほえなど)がほとんどない、何よりご自身の愛情のかけ方が変わり「前の子にはかわいそうなことをした」ともおっしゃっていたそうです。

 私は、保護犬猫を引き取るための過程ということは、まず私たちの意識を変えること、そしてひとつの命を引き取る覚悟が試されているのだな、と考えます。いろいろな条件に対して自分はどうなのか、をひとつひとつ深く考える機会になると思います。

 そして、その過程を経て訪れるペットとの幸せな暮らし、これは何物にも代えがたいあたたかく素晴らしいものです。あなたが考え抜いて選んだ暮らしは、犬猫を幸せにするだけではなく自分にも幸せがもたらされるのですから。

【前の回】街に暮らす耳カットの猫たち 愛すべきコミュニティーキャット
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西平衣里
(株)リクルートの結婚情報誌「ゼクシィ」の創刊メンバー、クリエイティブディレクターとして携わる。14年の勤務後、ヘアサロン経営を経て、アニマル・ドネーションを設立。寄付サイト運営を自身の生きた証としての社会貢献と位置づけ、日本が動物にとって真に優しい国になるよう活動中。「犬と」ワタシの生活がもっと楽しくなるセレクトショップ「INUTO」プロデユーサー。アニマル・ドネーション:http://www.animaldonation.org。INUTO:http://inuto.jp

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この連載について
犬や猫のために出来ること
動物福祉の団体を支援する寄付サイト「アニマル・ドネーション」の代表・西平衣里さんが、犬や猫の保護活動について紹介します。
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