街に暮らす耳カットの猫たち 愛すべきコミュニティーキャット

 公益社団法人アニマル・ドネーション(アニドネ)代表理事の西平衣里です。連載4回目は地域猫(コミュニティーキャット)について書いてみようと思います。前回は「道で野良の子猫を見かけた… 放っておけない、どうしたらいい?」を書きました。記事掲載の後、実際に子猫レスキューにトライしようとする方からお問い合わせをいただきました。行動に移してくださる方がいてうれしかったです。

 いくら犬や猫が大好きでも、仕事や日々の暮らしを差し置いて保護活動に没頭できる方はなかなかいません。ですが、日常の少しの時間を犬や猫のために割いてくださる方がより増えれば日本の動物福祉はもっと向上するに違いなく、その願いを込めて私は連載を続けていこうと思っております。

コミュニティーキャット(地域猫)とは?

 英語圏での呼ばれ方は「コミュニティーキャット」。日本では「地域猫」と呼ばれています。

 飼い主がおらず、外で暮らしている猫たちのことを言います。野良猫とも呼ばれることもあるでしょう。

 猫は犬と違って、狂犬病予防法に基づく登録義務や飼い方の法規制がありません。もともと野良猫だった子が庭に住み着いて、そのうち家になじみ飼い猫になるという話はよく聞きますよね。また戸建ての家でしたら、家と庭を自由に行き来させる飼い方をしている方もいると思います。

 猫は1回の出産で2〜8頭の子猫を産みます。そして子猫は生後7カ月頃から妊娠可能になります。寒い地域でも年に2回、温かい地域ですと年に3回出産をすることもあるようです。つまり、とても繁殖力の強い生きものなのです。

 動物保護センターなどに持ち込まれる猫の63%は幼齢猫(45,827頭 *平成28年度 環境省 犬・猫の引き取り及び負傷動物の収容状況)です。幼齢猫とは、人間の赤ちゃん同様、数時間おきのミルク、排泄の世話が必要な赤ちゃん猫です。ですが、その世話をする人員も限られており、残念なことに29,654頭が殺処分の憂き目にあっているのです。
アニドネ 日本の動物福祉の課題

 

この子は、ビニール袋に入れられ川岸に捨てられていました。運よく保護され、甘え上手な子猫に成長しています
この子は、ビニール袋に入れられ川岸に捨てられていました。運よく保護され、甘え上手な子猫に成長しています

TNR活動が大事なわけ 耳カットは不妊去勢済みの印

 野良猫として屋外で暮らしてきた猫にとって、急に家の中だけの暮らしになることにストレスを感じる猫もいます。その場合は、不妊去勢をして、もともと住んでいた屋外に返してあげるのがいいであろう、という考えに基づいたTNR(ティーエヌアール)活動。TNRとは「Trap(捕獲する)」「Neuter(不妊去勢手術する)」「Return(元の場所に戻す)」の略語です。

 前述したように、せっかく産まれてきたのに、致し方なくではあるものの処分される子猫はまだまだたくさんいます。不幸な命をこれ以上増やさないために、不妊去勢をすることがとても大事なことになります。

 その目印として、皮膚の薄い耳の端っこを少しだけカットすることで、繁殖することはなく一代限りとして地域で見守るべき猫ということになるのです。

カットの仕方はさまざまです。もっと小さくカットされている地域猫もたくさんいます
カットの仕方はさまざまです。もっと小さくカットされている地域猫もたくさんいます

TNR活動は難しくない 周りを頼って

 明らかに大人の猫で、耳がカットされてない猫がいた場合、まずは飼い主がいるのかいないのか、を探ってみてください。気ままに散歩している飼い猫かもしれません。もしくは、複数から可愛がられている猫かもしれません。

 そして、一歩踏み出してほしいのが、TNRへの行動です。捕獲は経験がないと難しい場合があります。餌付けはどうするのか、捕獲器をどうするのか、逃げられるのではないか、動物は自然な姿がいいと反対する人も出てきてしまった、、などさまざまな問題が出てくる可能性があります。

 しかし、一人だけで頑張らないでください。困ったときに頼るべきところは、実はけっこうあります。エリアで活動するボランティア団体に連絡をしてみるのもいいでしょうし、例えば東京都では「東京都動物愛護推進員」というボランティア制度があり、こちらに所属する方が相談にのってくれる制度があります。都や区市町村の窓口を通じて、都が認定している推進員を紹介してくれるのでアドバイスをもらってみましょう。東京都福祉保健局
*お住まいの地域によって窓口は変わるようです。行政窓口を調べてみてくださいね。

助成金をうまく使って

 そして、このTNR活動は実は国や各都道府県の行政からも後押しされている活動なのです。なぜなら、行政によっては、不妊去勢手術費用を補助してくれるからです。

 例えば、東京都渋谷区では、去勢手術(オス猫) 5,000円、不妊手術(メス猫) 7,000円の助成をしています。新宿区では、飼い猫 オス2,500円  メス4,000円、野良猫 オス5,000円 メス9,000円となっています。  

  那覇市のHPには、不妊去勢手術実施事業のページにお耳カットの説明もありますね。

 ご自身がお住まいのエリアで、どういった補助があるのかは調べておくとよいですね。エリアによっては、不妊去勢手術に協力してくれる獣医さんの情報もアップされています。

現代的な共生スタイル マナーも大事

 動物が大好きな方がいる一方、嫌い・苦手という方もいます。

 そんな方々もいることを理解しつつ、人も動物もなるべくストレスのないスタイルを作るのが、現代的な共生だと思っています。例えば、餌をあげるのなら置きっぱなしにはしない、とか、食べられる量だけ置く(食べ残しがネズミなどの数を増やすことも、、)、複数人があげすぎないように餌の場所・時間を決める、トイレの場所を作ってあげて(猫はとても覚えがいいです)常にきれいに保つことにする、などです。

 地域のみなにかわいがられた猫はきっと精神的にも落ち着いていることでしょう。ペットと暮らしていない子供にとって動物園だけが動物と接する場所になるのも悲しいことです。

 人は大昔から、動物と共に生きてきました。その時代において、関係性は変化しつつも多種多様な社会を築いてきました。残念ですが、地域猫がトラブルになりテレビのニュースになることもあります。一方、野良猫だったのに地域の有名猫となり全国からファンが押し寄せ観光地として活性化することもあります。学校で辛いことがあった子をいやしたり、猫を通じて仲間ができ新しい人間関係が生まれ、生活がより豊かになることもあるでしょう。

 地域猫を愛でることは、猫だけを助けるわけではなく、自分の住む街をより良くすることだと思うのです。地域猫の存在は、人も猫も共に暮らしやすい地域社会を作るためにある潤滑油であり、現代的な知恵だと考えています。

 遠い将来、不妊去勢が進み街から野良猫は消えさり「昔は地域猫っていうのがいてね、、」となるかもしれません。しかし、今はまだ、健康な猫が殺処分になり、かわいらしい子猫が短い命を閉じなければならないことが多々起きているのです。TNR活動は猫好きの特別な人がすること、と思っていた方もぜひ、一歩踏み出してみてください。

企業から保護猫のために寄付も

 私共の法人で運営している寄付サイト「アニマル・ドネーション」は個人様からだけでなく企業様からも寄付をいただいております。

 この度、雑誌「ねこのきもち」を発行している(株)ベネッセコーポレーションさまから、保護猫のための寄付が届けられることになりました。企業としてご寄付を行う理由は、2018年12月号の付録が「保護猫ジッパーバッグ」だから、だそうです。とてもかわいいこのバッグ。よーく見ると、猫の耳は小さくカットされていますね。

ジッパーバッグは、カリカリフードを小分けに入れたり、おやつや薬などを持ち歩くのにもちょうど良いサイズ
ジッパーバッグは、カリカリフードを小分けに入れたり、おやつや薬などを持ち歩くのにもちょうど良いサイズ

 かわいい付録を付けるならば、幸せな保護猫たちを増やすための社会貢献も併せて行いたい、という優しい気持ちからご寄付を決定してくださったそうです。すてきですね。ご寄付はアニドネの支援先にお届けする予定です。

【前の回】道で野良の子猫を見かけた… 放っておけない、どうしたらいい?
【次の回】保護犬や保護猫、引き取りたいけど難しいかも? 譲渡の条件とは

西平衣里
(株)リクルートの結婚情報誌「ゼクシィ」の創刊メンバー、クリエイティブディレクターとして携わる。14年の勤務後、ヘアサロン経営を経て、アニマル・ドネーションを設立。寄付サイト運営を自身の生きた証としての社会貢献と位置づけ、日本が動物にとって真に優しい国になるよう活動中。「犬と」ワタシの生活がもっと楽しくなるセレクトショップ「INUTO」プロデユーサー。アニマル・ドネーション:http://www.animaldonation.org。INUTO:http://inuto.jp

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この連載について
犬や猫のために出来ること
動物福祉の団体を支援する寄付サイト「アニマル・ドネーション」の代表・西平衣里さんが、犬や猫の保護活動について紹介します。
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