愛犬のために入院を拒み自宅で酸素ボンベ 人と動物双方を救うカギは多機関連携
「公益社団法人アニマル・ドネーション」(アニドネ)代表理事の西平衣里です。
「緊急性が高く、保護団体だけでは対処できない保護のケースが増えている」と聞き、長野県上田市を拠点に活動をしている「特定非営利活動法人 一匹でも犬・ねこを救う会」に取材をしました。
立ち行かなくなる喫緊状態の保護、どうすれば解決するのか。「多機関連携」がキーワードです。
病院とケアマネージャーからのヘルプ要請
最初に「一匹でも犬・ねこを救う会」へ連絡が入ったのは今年の8月。上田市内の病院の、事務長さんからのメールだったそう。
「呼吸器系の患者さんで、犬の飼育と医療費の2点で入院を拒んでいる方がいる。生活保護申請をしようにも犬が4匹いる状態なので通らない可能性がある。まずは犬の飼育相談をしたい」
飼い主さんは一人暮らしの高齢女性。地域包括支援センターのケアマネージャーさんと「一匹でも犬・ねこを救う会」が一緒に飼い主さんを説得するも、「自分以外に犬たちの面倒を見る人がいないから入院はしたくない」と拒否。自宅に酸素ボンベを準備してもらいがんばってはいたが限界がきて、犬の保護に至ったケースです。
自宅はゴミが散乱し、畳やじゅうたんはシミだらけで衛生状態は悪く、犬たちのケージはさびついたネットフェンスをつなぎ合わせた状態。糞尿が飛び散っているなかで4匹たちは暮らしていました。
12歳のオスのトイ・プードルと9歳のメスのミックス犬の間に生まれた2匹の6歳のこども、計4匹の犬のファミリーです。全匹、避妊去勢はされておらず、散歩は行かず、多くの時間をケージ内で暮らしてきたとのこと。
超高齢化社会や社会的孤独など、複雑に絡む問題
なぜこのような事態におちいるのか、を会で活動する松井副代表と横山さんにお伺いしました。
「5年ほど前から飼い主さんの生活が立ち行かず、そして飼育している動物の健康状態が悪く、ひどい場合は数十匹にもなる多頭飼育崩壊案件が増えてきました。行政も問題視をし、2~3年前から人の福祉と動物の行政、そして民間で活動する私たちのような保護団体が一緒になって研修や会議を繰り返しています。原因のほとんどは飼い主さんが高齢で飼育がままならなくなっており、そこに病気や貧困が重ります。ご本人はどうすることもできず、抜け出すことが出来なくなっている状態です。人間の福祉を優先するのか、はたまたまずは動物なのか。私たちもキャパシティや資金に限りがあります。すぐに助けたくても非常に難しい場合が多いのです」
こうした話は、アニドネが支援している多くの団体さんが問題点としてあげています。ケースによっては、飼い主さんに食事を届けたり、ゴミ屋敷状態の家の掃除まで保護団体が行ったりしていることも。現在「一匹でも犬・ねこを救う会」でも、命の危険に直面する猫の飼育者3名と犬の飼育名2名に、定期的にフードを届けているのだそう。
他機関連携に期待を
このように犬猫を抱え立ち行かなくなった場合、多くの機関がかかわることになります。
例えば、困窮者を発見するのは、地域の民生委員やソーシャルワーカーかもしれません。また本人が市町村に相談したことから発覚することもあるでしょう。そして動物面では、保護団体や愛護センター職員などがかかわることになります。
しかしながら、それらの機関は日々一緒に仕事をしているわけではなく、特に保護団体は民間活動です。また該当者自身がヘルプを出してない場合は、説得するのにも誰がどう動くのか、ということも多く、そうしているうちにどんどんと状況は悪化していきます。
「ただ、私たちが活動する上田市は行政が主動をし、こういったケースの情報共有や勉強会などを年に数回は行っています。そういった意味では私たち保護団体へ犬猫を丸投げするわけではなく、一緒に問題解決をするスキームはあると感じています。直近の会議では、リスクの高い案件をキャッチした機関がどこに連絡をするのか、その案件は緊急度が高いのかなどがわかるフローチャート活用の案が出て、実行へと動いています。多くの機関がかかわるからこそ、わかりやすく情報が流れる工夫も必須ですね」(松井さん)
「私はペットを迎える人の精査が必要な段階にきていると考えています。ヨーロッパでは講習会を受けないと犬を飼育してはいけない、とする行政もあります。それに比べ、日本では特に知識はなく、また月々数千円のローンで犬猫を買うことができます。これは大きな問題だと思います」 (横山さん)
日本は犬の頭数が減っています(猫は平行線)。ペット業界の方は問題視をしています。しかしながら、日本の現状はあまりに犬猫に不都合にできていて、真摯に向き合う姿勢を人間側が問われているタイミングなのでは、と私は感じています。
犬猫と暮らすことはすばらしいことです。それは誰しも異論はないはず。しかしながら、一緒に暮らす知識や覚悟、そして飼い主の人生設計を見越したうえで、共に暮らす選択をすべきだと思います。一方で、人の人生はいつ何時、何が起こるかわかりません。そのときに多機関連携で人も犬猫も同じ気持ちと手厚さで救えるセーフティネットの構築は、今後多くの地方行政で必要となるに違いありません。
社会的弱者へ手を差し伸べる非営利活動への支援
行政でも手が及ばないケースで、動物保護団体のような民間の非営利団体の活動は大変貴重で、活動意義が高いと私は思っています。
保護団体は犬猫が好きだから、そして人も助けたいから、とボランティアが集まって活動をしています。どうしても犬猫はたらいまわされたり、後回しにされたりしがち。「一匹でも犬・ねこを救う会」でも、できるならすぐにでも全匹の保護をしたいが、シェルターに余裕があるわけではないと悔しそうにおっしゃいます。
「人的パワーにも資金面にも限りがあります。今回の犬4匹も全匹避妊去勢が必要です。その手術代だけでも15万円以上はかかります。飼い主さんには、私たちの活動は国からの助成はなく寄付で行っているので、気持ちだけでもいいから、と月に数千円は振り込んでもらうことにしました。飼い主であったことの最後の責任だと思います。また保護時、飼い主さんは少しほっとしたようでした。高齢なので、保護団体の存在を知らず、殺処分されると勘違いをしていたようです。私達は、4匹の健康チェックをし、幸せになれる新たな環境を見つけます。12歳の子は脚に懸念があり、もしかしたら、この子は終生飼養になるかもしれないです」
動物愛護管理法には、動物の飼い主は、その動物が命を終えるまで 適切に飼養する「終生飼養」の責任があることが法律上明記されています(平成25年9月改正時)。もちろん一人の飼い主さんが責任を持って共に暮らし、看取る義務があるのは大前提ですが、長ければ20年以上生きてくれる犬猫たちの終生を、一人の飼い主さんだけではなく、命を守りたい人々の連携で成り立たせる寛容な社会の仕組みを作りたい、と個人的には感じています。
アニドネは「一匹でも犬・ねこを救う会」のように地域で活動する団体に寄付を届けることができる中間支援組織です。このような案件は全国で頻発しています。どうかお気持ちを寄付につなげてください。
(次回は2025年1月5日公開予定です)
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