東京都杉並区、小中学校での解剖実習の廃止を決定!

1年で807匹のコイ、687匹のカエルが解剖の犠牲に


 東京都杉並区では、区の教育センターの理科指導員が区立の小中学校に出張し、さまざまな理科授業を行う「理科出前授業」を実施していました。そのなかで全ての小学校でコイの解剖(小6対象)、全ての中学校でカエルの解剖(中2対象)が行われているという問題が2015年9月に発覚しました。平成27年度(2015年度)には、807匹のコイ、687匹のカエルが解剖され、殺されました。

 

 

2回の質問状では廃止の意向なし

 JAVAは、2015年12月と2016年3月の2回にわたり、杉並区に対して公開質問状を提出し、解剖実習の内容(使用動物の種類と数、入手方法、手順等)や目的などを確認しました。なんと解剖の目的は「命の大切さを考える」「人体の構造の理解を深める」というのです。生き物の命を奪って命の大切さを学ぶことはできません。人の体の構造とコイやカエルのような他の脊椎動物の体の構造を比較して違いを学ぶことは大切なのですが、だからといって解剖する必要はありません。人の体の構造を学ぶために小中学生が人体を解剖することはありえず、模型や解剖図、コンピューターソフトなどを使って学ぶわけですから、コイやカエルの体の構造も同様の教材を用いて比較すればいいのです。


 質問状では、「“解剖実習に参加したくないけれど言えない”“参加させられて辛かった”と多くの子どもたちが傷つき、苦しんでいる」「動物虐待と凶悪犯罪には、深い関連性がある」「解剖体験が子どもたちの精神面に悪影響を与える」「小~高校生の生体解剖を禁止している国がいくつもある。また、生きた動物を実習に用いない医学部・獣医学部も多数あるなど、海外では動物の犠牲のない教育が主流になってきている」「さまざまな優れた代替教材があり、代替教材を利用したほうが知識が身につく」といった解剖実習を廃止すべき点を指摘しました(解剖実習を廃止すべき点の詳細はhttp://www.java-animal.org/campaign-kaibou/reason/をご覧ください)。その上で、動物を犠牲にしない代替法に切り替え、解剖実習を廃止するよう要望しました。しかし、杉並区は「現在の実験と同等以上の学習効果が得られる代替教材を活用することも含め、総合的に調査・研究していく」という見解に留め、廃止を決断しようとしなかったのです。

 

 

8月16日 署名活動を開始

 そこでこの問題を広め、廃止をより強く働きかけるため、オンライン署名プラットフォームchange.org(チェンジ・ドット・オーグ)での署名集めを開始しました。また、署名だけでなく、皆さんから田中良杉並区長へ直接要望をしてくださいと呼びかけました。


 署名活動では、多くの方が「解剖はなくすべき!」という熱い思いを込めたメッセージも書いてくださいました。中には杉並区の小学校に通っていた時にカエルの解剖を体験し、トラウマになってしまっているという方をはじめ、学校で行われた動物を使った実習についての辛い思い出をつづってくださる方たちもいらっしゃいました。

 

 

10月7日 区議会で取り上げられる

 JAVAは区議会議員の協力は不可欠と考え、教育に関する事項を担当する区議会の文教委員会副委員長を務め、動物愛護を政策に掲げている市来(いちき)とも子議員に相談をしました。市来議員は熱心にJAVAの訴えに耳を傾けてくださり、10月7日の杉並区議会で質問に立ち、この解剖実習の問題を追及してくださいました。

 

 

10月18日 署名を提出

 杉並区に1,021名分の署名を提出しました。たった2か月でこれだけ沢山の署名が集まったのです。提出には市来とも子議員も立ち会ってくださいました。


 面会した教育委員会事務局庶務課長と、解剖実習を含むカリキュラムを担当する済美教育センター統括指導主事に、私たちは、杉並区の子どもたちからも「解剖をやりたくない」「動物が好きで、動物を殺す勉強はしたくない」といった悲痛な訴えが届いていることを伝えました。また杉並区民の皆さん、保護者や現役の理科の先生からも「子どもに解剖をさせたくない」との声が届いていることも伝えました。


 さらに、杉並区の学校でも深刻な問題となっている「イジメ」は、他者を思いやる心を育てることなくしては解決できない問題で、解剖は思いやりや優しさとは真逆の行為であり、解剖することによって、「生命を尊ぶ態度」や道徳心が育つということはない、ということも訴えました。そして、動物の犠牲をなくすためにも、解剖実習で苦痛を味わったり、心に傷を負う子どもたちをこれ以上増やさないようにするためにも、解剖実習を廃止してもらいたいと強く要望しました。


 庶務課長と統括指導主事は、優れた代替教材があることを認識していて、「子どもたちの学力向上にとって、よりよいカリキュラムを毎年考えるので、解剖ありきではない」として、タブレットを利用した学習方法など、解剖以外の方法も検討している、との説明がありました。


 しかしこの時は、長年続けてきた解剖の授業に対してかなりの自信と誇りを持っていると感じる頑なな姿勢は崩しておらず、予断を許さない状況と感じました。

 

 

2017年1月11日 廃止が確定!

 杉並区に提出した署名と要望書に対して10月下旬には区から回答が届いていましたが、不明な点があり、廃止したと判断するにいたらなかったため質問状にて確認をしていたところ、2017年1月11日、杉並区より、「全ての区立小中学校で行っていた解剖実習を廃止する」という回答が届き、杉並区における小中学校での解剖実習の廃止が確定したのです!


 JAVAが確認した杉並区の決定事項は次の通りです。

 

・区の教育センターの理科指導員が、区立小中学校に出張して行う「理科出前授業」において実施している、「コイの解剖実験」(小学6年生対象)と「カエルの解剖実験」(中学2年生対象)は、平成29年度(2017年度)以降、行わない。

・理科出前授業において、平成29年度以降、コイとカエルの解剖以外の新たな動物(死体・臓器を含む)の解剖実験を行うことはない。

・理科出前授業において、平成29年度以降、解剖以外の動物(死体・臓器を含む)を用いた実験を行うことはない。

・解剖実験に替えて、グラフィック画像や動画などのデジタル教材のほか、人体解剖模型や臓器エプロン、動物の骨格標本などの立体模型を活用した授業を行う。


 さらに、学校の授業以外の場での解剖や動物を用いた実験についても確認をとり、次の回答がありました。

 

・区立の施設において、小・中・高校生を対象にした「動物(死体・臓器を含む)の解剖」や「動物(死体・臓器を含む)を用いた実験」は行っていないし、今後も行わない。

・区が主催や運営する科学教室等のイベントで、小・中・高校生を対象にした「動物(死体・臓器を含む)の解剖」や「動物(死体・臓器を含む)を用いた実験」は行っていないし、今後も行わない。


 これまで数十年という長きにわたり、杉並区が小中学生にさせてきた解剖実習を廃止したことは大きな成果です。しかも、解剖以外の動物を用いた実験も行わないという決定も引き出すことができたのです。


 平成27年度には、807匹のコイ、687匹のカエルが解剖され、殺されましたが、もうこの犠牲はありません。そして、「解剖をやりたくない」という子どもたちの訴えにも応えることができるのです。

JAVA
NPO法人動物実験の廃止を求める会(JAVA)。1986年設立。動物実験の廃止を求める活動を中心に動物の権利擁護を訴え、世界各国の動物保護団体と連携しながら活動している市民団体。
この連載について
from 動物愛護団体
提携した動物愛護団体(JAVA、PEACE、日本動物福祉協会、ALIVE)からの寄稿を紹介する連載です。
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