保健所で過ごし訪問活動犬もした愛犬 最期まで気遣いをしながら天国へ旅立った
いつか来るペットとのお別れの日――。経験された飼い主さんたちはどのような心境だったのでしょうか。2023年11月、ツトムくん(享年15歳)は天国へ旅立ちました。6歳で譲渡され、9年間を共に過ごした飼い主の公子さんに、ツトムくんを引き取った経緯から亡くなるまで、また現在のお気持ちを伺いしました。
保健所のふれあい活動犬だった
――愛犬のツトムくんが公子さん宅に引き取られた経緯を教えてください。
私が母と同居することになったとき、母が少しうつっぽく、友人に「そういうときは犬を飼うのよ」と勧められ譲渡会へ行きました。その時に母が「この子がいい」とひとめぼれしたのが当時6歳のツトムでした。
家の中で排泄(はいせつ)をしなかったツトムは散歩が必須だったので、なかなか一人だと外に出る機会がなかった母が、何があっても1日2回は外へ出てツトムと一緒に歩くようになり、症状が改善しました。
――ツトムくんは6歳までどのように過ごしていたのでしょうか?
元の飼い主さんが飼えなくなり、ツトムは兄犬とともに幼い頃、保健所で引き取られました。兄犬は保健所の獣医さんの元へ引き取られ、穏やかな性格のツトムは、ふれあい活動犬として2年ほど保健所で過ごしました。その間、様々な施設を訪問する活動に参加していたそうです。
その後、保護団体が保健所からツトムを引き取り、保護団体の預かりさん宅で1年3カ月過ごし、そして私たち家族が正式に引き取ることになりました。
気遣いができる犬
――ツトムくんはどんな子でしたか?
おとなしく、ほえることもなく、人のひざにも乗らない控えめな子でした。保護団体の方は譲渡の際、「ツトムはとても気遣いができる子だから、お宅に向いていると思う」と言ってくださったのですが、犬を飼ったことがなかった私は「犬の気遣いってなに?」とわからなかったんです。
でも、ある日の散歩中、見知らぬ方から「この子は人の心にすっと寄り添えるタイプだから、訪問活動犬に向いているわよ」と言われて、それをきっかけに日本救助犬協会に登録し、月に1回、近くの老人ホームを訪問するようになりました。ツトムは特別なことをするわけではありませんでしたが、その場にいるだけで周囲の方々に喜んでいただける、そんな魅力のある子でした。
――とてもいいだったのですね。
本当にいい子でした。私にとっては親友みたいな存在で、抱っこされるのが嫌いな子だったので、抱きしめたりはできなかったのですが、ベッドで一緒にくつろいだり、私の話を聞いてくれたり、他人には素直に話せないことでもツトムには話せたんですよね。それもツトムの気遣いだったのだなと。また、ツトムはとても無口な犬で、歳を取ってからもあまりに無口だったので、「犬界の高倉健」と私は呼んでいました。
みとりをする時間を与えてくれた
――ツトムくんはなぜなくなったのでしょうか?
獣医師からは老衰だと言われました。もともと腎臓があまりよくなかったので、サプリメントを与えていて小康状態だったのですが、12歳くらいから調子が悪くなり、週に2回、病院で点滴を受けるようになっていました。
でも15歳のある日、突然ご飯を食べなくなって歩かなくなりました。自分でそう決めたように見えました。病院へ連れて行ったのですが、「できることは何もないからツトムくんがいいようにしてあげて」と言われました。それから10日後に天国へ行きました。
――ご飯を食べなくなって10日間、よく頑張りましたね。
そうなんです。その間にもう一度病院へ行き、点滴などをすれば回復する可能性があるのか相談しました。ずっとツトムを診ていてくれた獣医師は「医者としては治療もできますが、僕が飼い主だったらこれ以上の処置はしない」とおっしゃったので、そのあとは家族でずっと見守ることにしました。床ずれを防ぐために定期的に体勢を変えたり、三連休には、ペットカートに乗せて散歩に出かけたり。散歩先では犬友に会えたりしました。
――みとりの時間を与えてくれたのですね。
亡くなる前は少し認知症があり、散歩の時間も短くなってはいましたが、介護という介護もなく、手がかからず、でも食べなくなってから10日間もみとる時間をくれて、本当に「この子は気遣いの子だったんだなー」と思いました。
亡くなってから気づく存在の大きさと感謝
――ペットロスはありましたか?
犬を散歩させている人を見るのがつらい時期がありました。それまでは、夏の暑い日は朝の涼しい時間に、夕方は日が落ちてからと、すべてのスケジュールをツトムの散歩時間に合わせていたので、いざその時間がなくなると、どうしていいかわからなくなってしまいました。
その後、ひとりで散歩をするようになったのですが、「手にリードがない……」と悲しくなりました。そんな中、新しい子をお迎えすることに決めました。「ワカメ」は女の子で、誰のひざにも飛び乗るような子で、まさに我が家のアイドル的存在です。でも、ワカメはワカメ、ツトムはツトム。それぞれかけがえのない、まったく別の存在です。
――ツトムくんをお見送りして1年ちょっと経ちますが、公子さんにとって「ペットの死に向き合う」とはどういうことでしょうか。
想像したことはあっても実際にその時がきたら、当然受け入れられませんでした。ただ、ひとつだけよく家族と話すのは「ツトムがいてくれて本当に良かったね」ということです。「ペットの死」自体は何なのか、向き合うとはどういうことなのかは、今の私にはまだわかりませんが、いなくなったことで存在の大きさに気付かされました。一緒にいられた時間に感謝し、思い出や存在を再確認できました。
<取材を終えて>
ツトムくんが亡くなってから、しばらくは骨つぼの前で泣いていたという公子さん。ツトムくんの写真を見返すこともできなかったほど、つらい時間を過ごされたそうです。しかしワカメちゃんをお迎えしたことで、家族の中でまたツトムくんの話が出てくるようになったと言います。ワカメちゃんが来てから、ツトムくんの死を受け入れられるようになったとお話してくださいました。これからのワカメちゃんの健やかな成長と、ツトムくんのご冥福を心よりお祈りしております。
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