「処分宣告」されたコーギー 試行錯誤の末に見つけた「家族のカタチ」と、少年の夢

「ペットではなく猛獣」と言われ、プロのトレーナーから手放すように言われたウェルシュコーギーのまめくん。UG DOGSアトラスタワー中目黒店(以下UG)での日間の社会化お泊まりで激変したものの、一筋縄ではいかず……。家族がたどり着いた「距離感」、そして「少年の夢」とは? 

 激アツ店長、中目黒の駅前で叫ぶ。

「生きてりゃなんとかなる。生きていてくれてありがとう!」

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まめくんの変化の意味を考え、解決策を見つけた家族

 歳を過ぎたコーギーのまめくんは、ある日突然、長時間のお散歩を嫌がるようになった。同時に、苦手だった足拭きも極端に嫌がるようになり、拭こうとした次男くんの手に噛み付いた。

 お母さんはすぐにLINEで店長に相談。「無理に拭かなくてもいいんじゃないですか? 足を拭かずに床を拭けばいい」というアドバイスに、お母さんは「拭かねばならない、から、拭かなくてもいい方法を考えればいい、と思えるようになりました」。

仰向けでブラッシングされるウェルシュコーギーのまめくん
ヘソ天は信頼の証?(飼い主さん提供)

 UGから帰って来てから、お母さんをはじめ家族の意識は変わっていた。「まめがなぜ噛むのかを考えるように。足を拭かれるとき、私に抱きかかえられているところに夫が手を出したとき、まめは豹変した。そのスイッチを入れないことも大事だと気づきました」

 しかし、まめくんの家は周りに自然が豊かで、お散歩に行くと足は泥だらけになってしまう。1日2回、そのたびに床を拭くのは負担だ。

 まめ家には外から出入りできるウッドデッキがあり、浴室まで直接行ける動線があるという。シャワーで流すのはそこまでイヤがらないので、汚れがひどいときは洗ってしまえばいい。そうすることでまめくんもお母さんもストレスがかからないことに気づいた。

 そして、リビングにあったまめくんの生活スペースを、思い切ってウッドデッキとそこにつながる小さな室内スペースに移動した。

「さみしいんやないかなと心配しましたが、この距離感がまめにはちょうどいいみたいで落ち着いて過ごせるようになりました」とお母さん。

「正直、私の方がさみしかったかも。でも、リビングで四六時中一緒にいると、実はまめのことばかり気にしていたことに気づきました。今は私もこの距離感がちょうどいい」

ウッドデッキで遊ぶウェルシュコーギーのまめくん
まめくんの生活スペースとつながったウッドデッキ。遊びスペースとしても活用できて、まめくんもうれしそう(飼い主さん提供)

 まめくんが一番噛んでいたのが、お父さん。仕事が忙しく触れ合う時間が短かったが、朝の30分のお散歩を引き受け、まめくんとのコミュニケーションに努めた。日々の積み重ねが功を奏し、今では散歩の途中にお父さんが手を出すと、まめくんが鼻でハイタッチしてくれるようになったという。

「夫は『かわいさがどんどん増していくよ』と目尻を下げています」とお母さんも笑顔を見せた。

次男くんが宝物のように大切にしている、店長の言葉

 家族みんなからますます愛されるまめくん。なかでももっとも深く愛情を注ぐのが、今は小学年になった次男くんだ。

 塾やクラブ活動がない日は、夕方のお散歩を担当。今でもときどきまめくんにガウガウ言われたり噛まれそうになったりし、怖くて逃げてしまうこともあるというが、「そんなときでも、今まめはどんな気持ちだったんだろう? どうやったら克服していけるか? と向き合いながら、息子なりにまめとの生活をよりよくしていこうと頑張っています」とお母さん。

 もともと「将来は動物に関わる仕事がしたい」と話していた次男くんだったが、まめくんの社会化お泊まりを経て、「ドッグトレーナーになりたい」という夢を抱くようになった。目標はもちろん、高橋店長だ。次男くんはこう言って瞳を輝かせる。

「店長はバラバラだったまめと僕たちを『家族』に戻してくれた恩人。僕にとってはヒーローです。いつか自分もあんな風になりたい」

 次男くんは、店長がブログで自分に向けてつづったくれた「いつか地元の困っている飼い主と、理解されずに誤解されている犬を救うプロになってもらいたい」という一文を、宝物のように心に留めているという。

男の子と散歩するウェルシュコーギーのまめくん
店長がベタ褒めした、次男くんの力みのないリードさばき。きっといい“犬のプロ”になれるはず。がんばれ!!(飼い主さん提供)

「そんな日がきたらいいな、最高にステキだなと思っています」とお母さんはそっと目頭を押さえた。

「まだまだ大変なことはあるけれど、いいときも悪いときもみんなひっくるめて私たちは『家族』なんだと、やっと思えるようになりました。これからも悩みながら、うちの家族のカタチを見つけていこうと思います」

「家族が笑顔で暮らせれば、それが正解」

 高橋店長は、「やることをやってそれでダメならまだしも、まめくんは何もしないうちに『猛獣』の烙印を押され、処分しろとまで言われた。強い憤りを感じるとともに、UGに来てくれて本当によかったと思っています」と振り返り、こう語る。

「まめくんも変わり、ご家族の意識も変わった。そして、お互いが心地いい距離感、暮らし方を試行錯誤しながら見つけていった。犬を育てることに正解はありません。逆に言えば、犬と家族が穏やかに笑顔で暮らせるならば、その家にとってはそれが正解になる」

 店長にとっても、まめくんとの出会いは「犬と家族を笑顔にする」という自らの仕事を見つめ直すきっかけになったようだ。お母さんから送られてきたまめくんと家族の最近の写真に、こう言って目を細めた。

「生きていればなんとでもなる。まめ、生きていてくれて、出会ってくれてありがとう。だから犬って最高だ!」

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高橋信行店長 プロフィール
物心がつく頃から動物関係の仕事に就きたいと考え、動物系の専門学校を卒業後、ペットショップに就職。いくつかの転職を経て、現在はUG DOGSアトラスタワー中目黒店店長。これまでカウンセリングは1300件以上、お泊まりで預かった犬は1000匹を超える。愛犬は、ジャック・ラッセル・テリア「ロイス」。
UG DOGS アトラスタワー中目黒店
住所:東京都目黒区上目黒1-26-1 中目黒アトラスタワー106
TEL:03-5708-5592
営業時間:11:00~20:00(年中無休)
公式サイト:https://anm.ugpet.jp/
店長ブログ:https://www.ugpet.com/blog/anm/
※カウンセリングは電話、対面とも要予約。HPや高橋さんのブログをチェックした上で問い合わせを。

【前々回のお話】かみ癖がひどいコーギーの子犬 トレーナーはさじを投げ、「処分すべき」と言った
【前回のお話】「処分宣告」されたコーギー、激アツ店長と出会う 「一緒に東京に行こう!」

中津海麻子
フリーライター。「酒とワンコと男と女」をテーマに、ワインや日本酒や食、ペット事情、人物インタビューなど幅広く取材、執筆。JALカード会員誌「AGORA」、同機内誌「SKYWARD」、「ワイン王国」「朝日新聞デジタル &w」「好書好日」などに寄稿。

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この連載について
だから犬って最高だ!
「育犬ノイローゼ」に陥った飼い主が藁をもつかむ思いで全国からやってくる「駆け込み寺」=UG DOGSアトラスタワー中目黒店。ハイパーな子犬たちと悩める飼い主を相手に日々奮闘する店長・高橋信行さんの実録ルポ。
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