「はちです。謹んで新年のお慶びを申し上げます」「ハナです。本年もどうぞよろしく」(小林写函撮影)
「はちです。謹んで新年のお慶びを申し上げます」「ハナです。本年もどうぞよろしく」(小林写函撮影)

飼い主の入院が転機に 新ルール「猫を部屋にいれない」ことで得た安眠と負担の軽減

 先住猫「はち」と元保護猫「ハナ」、2匹と暮らして1年半が経った2023年の年明け早々、私は緊急入院をし、約2カ月後に退院した。

 私の入院中、ツレアイは猫たちの世話に関することのほか、キッチンや浴室など家中のあらゆる場所を、自分にとって効率よく快適に過ごせるように改善していた。

 そのなかで、もっとも大きな「プロジェクト」が、家庭内引越し、部屋の移動だった。

(末尾に写真特集があります)

猫たちにストレスとならないか?

 私とツレアイは、家の中で部屋を別にして生活している。

 あるときから「お互いの部屋を交換しよう」という話が出ていた。でも家具や荷物の移動がおっくうなので「そのうち、時間ができたら」と実行を先送りにしていた。

 ほかにも懸念があった。それは、はちとハナが、私の部屋で過ごすことが多いことだった。特に夜は彼らにとっても寝室であり、はちは衣装ケースの上、ハナは、私の足元の布団の上で丸くなって眠る。私は猫たちが自由に出入りできるよう、昼も夜も部屋のドアは開けっぱなしにしていた。

 ツレアイは、猫たちを自室では過ごさせないことにしていた。ちょっと散策するぐらいなら構わないらしいが、ベッドの上でくつろぎはじめると追い出している。「居すわる」状態になるのは嫌らしく、自分のプライベート空間と猫たちの生活圏は分けたいらしい。

 だから夜は、絶対に部屋には入れない。猫たちもわかっているようで、夜、ツレアイの部屋に近づくことはなかった。

「この子ね、もちもち雪ん子っていうのよ」(小林写函撮影)

 だが部屋を交換した場合、彼らはこちらの事情をすぐには理解しないだろう。これまで自由に出入りできた部屋に入れなくなり、とまどうにちがいない。夜中にツレアイの部屋のドアをガリガリ引っかき、ニャーニャー鳴いて「入れて」と懇願するかもしれない。

 ツレアイは安眠が妨害されることを懸念した。私は、「いつもと変わらない暮らし」を好む猫にストレスをかけるのではと、そっちのほうが心配だった。

新しいルール

 そんなとき、私の2カ月間の入院が、計画をすすめる大きな転機となった。猫たちは私が不在になったことで部屋には自然と入らなくなり、夜はリビングで眠るようになったからだ。

 家庭内引っ越しは、私が退院する日の1週間前に電話で話していて急遽決まった。荷物や家具の移動は、数日かけてツレアイが一人で行った。

 退院の日、帰宅して新しく自室となった部屋に入った。家具は同じなのに、その配置と部屋の窓の向きが違うだけで、印象が違って見える。

 気分がリフレッシュし、退院後の新たな生活にふさわしい、とよろこんでいたら、ツレアイが言った。

「今後は、きみも猫を部屋に入れないほうがいいと思う」

 家庭内引越しにあたり私のベッドを動かしたところ、恐ろしい量の猫の毛が床に溜まっていたそうだ。私のベッドの下は引き出しになっており、掃除機のヘッドを差し込んで掃除をすることができない。毛の中には初代猫「ぽんた」のものと思われるものも混じっており、7年間の猫の毛とほこりの蓄積は、筆舌に尽くしがたい状態だったという。

「はちったら、あたしが窓辺にいると、登りたがるんだから」(小林写函撮影)

「あんな部屋に寝ていたら、そりゃ病気にもなるよ」

 それと今回の病気とは関係ないと私は思い、「えーっ!」と意義を唱えた。それで夜一緒に寝るのはやめるとしても、昼間だけなら問題ないのでは、と提案した。私は仕事をしながら、はちとハナが横で昼寝をしたり、毛繕いしたり、甘えてくる姿を見るのが好きだったからだ。

「昼間は入ってくつろいでもいいけど、夜はダメ、なんて、猫たちに理解できると思う?入れないなら入れないと、徹底させないと」

 とツレアイ。

「それに病み上がりで、猫の毛が散らばる部屋で過ごすのは衛生上よくない。掃除の手間も増える。どっちみち、掃除をするのは僕なんだから」

 私はしぶしぶ承諾した。

訪れた安眠

 こうして私は、昼も夜も自室のドアは閉めたままにし、猫たちを入れないようにした。

 はちとハナは、この2カ月間で生活の中心をリビングにすることにすっかり慣れたようだった。私の部屋にもツレアイの部屋にも、執拗に入って居すわろうとすることはなかった。

「おばちゃんが作ったの?上手だね。僕のお菓子は?」(小林写函撮影)

 ときどき私がドアを閉め忘れると、そのすきに入り込むことはあった。心を鬼にし、「だめだめ、ここははちとハナの部屋じゃないの」と言って外に追い出すと「ニャー」と鳴いていちおう抗議はするが、おとなしく去っていった。

 はちは明け方、たまに私の部屋のドアをガリガリやることがあった。でも内側からドアを叩くとすぐに立ち去り、そのうちしなくなった。

 仕事をしているときや、眠るときに猫が近くにいないのはさみしい、と思ったのは最初だけで、10日もすると慣れた。特に夜は、以前よりよく眠れていることに気がついた。

 猫たちがいることで、私はやはり気をつかっていたのだ。寝る姿勢が不自然になったり、猫が夜中に動いたりすることで目が覚めて、眠りが浅かったのだろう。

 当然のことながら部屋に舞う猫の毛の量は激減し、「コロコロ」をかける頻度も減った。

 思い切って環境を変えるのは悪いことではなかった。そうよろこんでいたのだが、部屋を替えたことで、はちとハナの食事に関して困った問題が起こった。

(次回は1月17日公開予定です)

【前の回】元野良猫「はち」と元保護猫「ハナ」 飼い主の入院中に行われた世話のための環境改善

宮脇灯子
フリーランス編集ライター。出版社で料理書の編集に携わったのち、東京とパリの製菓学校でフランス菓子を学ぶ。現在は製菓やテーブルコーディネート、フラワーデザイン、ワインに関する記事の執筆、書籍の編集を手がける。東京都出身。成城大学文芸学部卒。
著書にsippo人気連載「猫はニャーとは鳴かない」を改題・加筆修正して一冊にまとめた『ハチワレ猫ぽんたと過ごした1114日』(河出書房新社)がある。

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この連載について
続・猫はニャーとは鳴かない
2018年から2年にわたり掲載された連載「猫はニャーとは鳴かない」の続編です。人生で初めて一緒に暮らした猫「ぽんた」を見送った著者は、その2カ月後に野良猫を保護し、家族に迎えます。再び始まった猫との日々をつづります。
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