猫の習性を理解してハッピーに 子猫を飼い始める時の注意点

「こねこ塾」の参加者たち
「こねこ塾」の参加者たち

 当院では月1回ぐらいの頻度で子猫の飼い主さんを対象に猫の飼い方講座(こねこ塾)を行っています。講座の内容は下記の通りで、これらのテーマを4回に分けてお話ししています。今回から、これらのテーマについて順次お話したいと思います。

こねこ塾のテーマ

① 猫のニーズを満たす(室内飼育の猫に必要な環境について)

② 人をかんだり、引っかかないように育てる

③ 社会化(人・猫・病院に慣らす)

④ キャリーケースに慣らす(移動のストレスを減らし、知らない環境でも安心感を与える)

⑤ ハンドリング(体を触る・爪切り・歯磨き・ブラッシング・投薬など)

 最初にまず、現在は猫を安全に外出させることが出来る地域はほとんどないことから、子猫の時期から室内飼育をすることをお勧めします。しかしながら猫は野性味の強い動物なので、室内で刺激不足になると若い猫では攻撃行動やいたずらなどの問題が多くみられ、逆に年をとると運動不足から肥満やそれに伴う健康上の問題を起こすことが多いのです。したがって室内であっても心身に十分な刺激を与えるような環境づくりや接し方が必要です。

 これについては当院で「こねこ塾」に来られた方に配布しているプリントで簡単に説明していますので、以下にご紹介します。詳しくはこれまでの連載第13回~26回の「猫のニーズとは? 室内飼いの猫に必要な環境」を参考にしてください。

室内飼いの猫に必要なものベスト10

 猫ちゃんが健康で長生きするためには室内飼いにするべきですが、室内飼いは猫にとって刺激不足になりやすく、それが原因で問題が起こることもあります。猫は本来捕食動物です。獲物を探したり、捕らえる必要がなくとも野生動物と同じような本能があり、この本能を満たすものが必要です。刺激不足の生活は子猫の正常な行動の発達を妨げ、過剰なグルーミング、飼い主への攻撃行動、肥満などの原因となります。猫ちゃんの習性を理解して室内環境を整え、猫ちゃんも飼い主さんもハッピーに暮らせるように工夫しましょう。

1)適切な食事と水
栄養バランスを考えて、極端な偏食を予防しましょう

 猫は非常に偏食傾向が強く子猫の頃に食べたことがないものを避ける傾向があるため、1種類の食べ物だけで育てるとそれ以外のものを食べなくなることがあります。極端な偏食を予防するために、風味や食感の異なるものも与え、食べるもののレパートリーを広げておきましょう。ただし栄養バランスを考えて猫の年齢や体調に合った総合栄養食を主体に与えましょう。


楽しみながら食事をさせましょう

 自然界では野生動物は起きている時間の約8割を食べることに使っていると言われています。これは獲物を探したり、追いかけたり、捕らえて食べると言うこと全てを含んでいますが、本来であれば食べることにそれだけのエネルギーを使うはずである猫も、食事を食器に入れて与えればわずか3分ほどで食べ終わってしまいます。そして1日の大半を退屈して過ごすことになり、結果的にあまったエネルギーは、飼い主や同居動物へ「じゃれがみ」するなどの原因となります。また逆に高齢になると刺激不足から不活発になり、肥満の原因になってしまいます。食事は毎回食器に入れて与えるよりも、穴をあけたペットボトルなどに入れて与えると遊びながら食べることができます。最初は転がすとフードが出てくることを見せて教えましょう。また食事は毎回同じ場所で与えると猫の室内での動線も決まってしまいます。運動不足解消のためにもさまざまな場所にフードを隠して探させたり、投げて追いかけさせるなど違った与え方をしてみましょう。


水を十分飲ませましょう

 猫は泌尿器の病気が多く、日頃から十分に水を飲む環境を作っておく事が大切です。猫はきれいな水を好みますので、水はこまめに入れ替えましょう。また器の素材や大きさの好みがあり、プラスチックやステンレスのものよりも陶器や磁器を好む傾向があります。猫ちゃんの好みのものを探しましょう。また容器を置く場所も好みを考えて、十分水が飲めるようにしてあげましょう。

2)猫の草を与えましょう

 猫が草を食べる理由は、ビタミン補給とか繊維の補給、毛玉を吐き出すためなどと言われていますが、総合栄養食を食べていれば栄養学的には問題ありません。しかし正常な猫の行動のレパートリーに含まれる行動でもあり、室内飼いの猫ちゃんにとっては数少ない自然との接点でもありますので、ぜひ与えてあげましょう。草を与える事で有害な観葉植物を食べる危険性を減らす効果もあります。

3)トイレ

 猫ちゃんはもともと砂状の場所で排泄する習性がありますので、食後や寝起きなど排泄しそうな時にタイミングよく少し匂いのついた専用のトイレに入れてやればスムーズに覚えてくれます。トイレをきちんと認識するまでは、トイレと間違いやすい土の入った植木鉢などはアプローチできない場所に置いておきましょう。また多頭飼いの場合は他の猫の排泄した後に排泄するのを嫌がる場合がありますので、トイレは複数個必要です。不適切な排泄の問題をおこさないようにするためにはトイレの数は猫の数+1つ以上必要と言われています。

4)爪とぎ

 爪とぎも子猫の間に慣らしておくと、不適切な場所での爪とぎを予防できます。他の場所で爪とぎをし始めてからあわてて用意しても使ってくれないことがありますので、できるだけ早い時期に慣らしておきましょう。お気に入りの素材で十分な大きさの爪とぎを複数個、用意しましょう。

5)外が見られる場所

 室内飼育では刺激不足になりやすいため、刺激を与える工夫が必要です。窓から外を見ることができると、動くものを見たり、いろんな音や風にのって来る匂いなどの刺激を得ることができます。ただしベランダからの転落には注意しましょう。

6)上下運動ができるスペース

 猫は上下運動をする動物で、高い場所で眠ったり、周りを見たりすることを好みます。キャットタワーを置いたり、家具などの配置を考えてできるだけ猫が上下運動しやすい環境を作ってあげましょう。また猫が登らないようであれば、動機付けとして食べ物を置いておくなどしても良いでしょう。

7)隠れることができるスペース

 猫は驚いたり、恐怖を感じたときにまず身を隠します。たとえば訪問者があったとき、飼い主にとって知人であっても猫にとっては見知らぬ侵入者であるため、とてもストレスを感じます。安心して隠れる場所があることで精神的に安定しますので、隠れるスペースはとても大切です。特に小さい子供や活発な犬がいるような家庭などでは猫が邪魔されずに眠れるスペースを確保してあげましょう。また多頭飼育の場合にもそれぞれの猫が気持ちよく休める場所を確保してあげましょう。

8)おもちゃ

 おもちゃは与えっぱなしにするのではなく、生きた小動物のように動かして一緒に遊んであげてください。また、よく出し入れする引き出し、冷蔵庫、イス、飼い主や猫自身などよく動く場所に付けておくようにしても良いでしょう。ただし、飲み込んだり身体に巻きついたりという事故がないように注意しましょう。なお飼い主自身の手足を使って遊ばせると飼い主への攻撃性の問題が起こりやすくなりますので、必ずおもちゃを使って遊ばせるようにし、人の手足にかみついてきた時には動きを止める、立ち去るなどして相手にしないようにしましょう。

9)社会的刺激

 猫は単独行動を好み社会性が乏しいと言われますが、子猫の時期から適切なふれあいの機会を持てば人はもちろん、犬や猫などの同居動物とも仲良く暮らすことができます。特に室内で生活する猫は他の動物や人に会う機会が限られているため、同居動物との関係がとても大切です。いわゆる社会化期にさまざまな人や犬、猫などと楽しいふれあいの機会を持ち、社会化期を過ぎた後も継続しましょう。飼い主とのふれあいの中では健康管理のためにも子猫のときから全身を触られることやグルーミングなどにも慣らしておくことが大切です。

10)メディカルケア

 外出しない猫ちゃんも飼い主さんが外からウイルスを持ち込む危険性があることや、ペットホテルや動物病院に行くことなども考えてワクチン接種は必要です。また性成熟を迎えると雄では尿スプレー、雌では発情期の過剰な鳴き声などの問題が起こる場合がありますので、6か月頃までに不妊去勢手術をしましょう。その際にマイクロチップを入れると良いでしょう。さらに定期的な健康診断、デンタルケアで、健康で幸せなキャットライフをプレゼントしましょう。

猫に必要なものが整っているかチェックしてみましょう!

☐適切な食事と水
☐草
☐快適なトイレ
☐お気に入りの爪とぎ
☐安全に外が見られる場所
☐上下運動ができるスペース
☐安心して眠れる場所、隠れることができるスペース
☐捕食本能を満たす刺激(おもちゃなど)
☐社会的刺激(同居動物や飼い主との楽しいふれあいなど)
☐メディカルケア

-もみの木動物病院 こねこ塾-



「こねこ塾」は愛猫を連れて参加できる
「こねこ塾」は愛猫を連れて参加できる
村田香織
獣医師、もみの木動物病院(神戸市)副院長。イン・クローバー代表取締役。日本動物病院協会(JAHA)の「こいぬこねこの教育アドバイザー養成講座」メイン講師でもある。「パピークラス」や「こねこ塾」などを主催、獣医学と動物行動学に基づいて人とペットが幸せに暮らすための知識を広めている。

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この連載について
ペットのこころクリニック
犬や猫の問題行動に詳しい獣医師の村田香織先生が、ペットと幸せに暮すためのしつけや飼い方のコツをていねいに解説します。
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