猫にやさしい診察のために 獣医師が飼い主さんに伝えたいこと
猫は縄張りを持つ臆病な動物です。犬と異なり、たとえ大好きな飼い主さんと一緒でも、知らない場所に行くこと(すなわち縄張りから出ること)は苦手です。そのうえ子猫の時から外出する機会もなく、家族のみと接触するといった極端に社会化不足の状況で成長することがほとんどです。
そのため動物病院での出来事がトラウマになりやすく、恐怖から攻撃的になり治療が十分にできないばかりか、病院に連れて来ることも難しくなることがあります。
まだ警戒心が十分に発達していない子猫期から診察時にはおもちゃを見せたり、好物を与えるなど、できるだけ不安を与えないように工夫する必要があります。
緊張している場合は隠れているという安心感を持たせるためにバスタオルなどで覆ってから診察を行います。その際、知らない匂いのする病院のタオルよりも自分の家の匂いのついたタオルを使うことでより安心感を与えることができます。
猫は言葉の意味はわかりませんがその場の雰囲気や人の声のトーンを読み取るため、おだやかに会話し、大きな声や音、素早い動きは控えましょう。
病院を怖がらない猫にするための5つの工夫
当院では診察室や入院室には猫がリラックスするようにフェロモン剤を使用し、飼い主さんには以下のことをお願いしています。
(1)安全でストレスの少ない通院のためにキャリーに慣らしましょう
猫ちゃんは不慣れな場所が苦手で、特に成猫になると警戒心が強くなります。予防注射や不妊去勢手術など嫌なことをする時だけにキャリーに入れると、キャリーケースと嫌な出来事を関連づけてしまいます。そうするとキャリーを見ただけで逃げてしまうようになり、動物病院に連れて来ることが難しくなります。
また、入院やペットホテルで緊張して食事も食べられないという猫ちゃんもいます。まずはキャリーに慣らす練習をし、安心できる場所にしましょう。
ペットホテルや入院時に慣れたキャリーを持ってきていただき、入院ケージの中に入れてあげると、猫ちゃんがリラックスすることができます。
(2)慣れた匂いのついたタオルを持参しましょう
猫ちゃんは知らない匂いや人に触られるのが苦手です。あらかじめ、猫ちゃんのよく寝る場所にタオルを置き、タオルの上で食事を与えるなどしてタオルに慣れた匂いをつけておきます。診察時に猫ちゃんを安心させるためにこの慣れた匂いのついたタオルを持って来てください。
待合などでキャリーの上からかけてあげることでワンちゃんや知らない人がいても隠れている気分で過ごすことができます。また体重を計る際に診察台に敷いたり、採血時の保定の時に猫ちゃんにかけてもらうと、ストレスを軽減することができます。
ただしタオルをかけられることに慣れていないと、逆にびっくりすることもあるので、自宅でタオルにやさしくくるむ練習をしておきましょう。タオルで包んだ後には褒めて好物をあげるようにしましょう。
(3)病院に来るときはお腹を空かせて好物と慣れた食器を持参しましょう
当院では病院の印象を良くするため、診察室で好物を与えます。猫ちゃんは食べ慣れていない物を食べないことがあるため、お家から好物を持ってきてください。半日ぐらい食事を抜いて、お腹を空かせておくとより効果的です。
また、不慣れな匂いを警戒するので、自宅で使っている食器を持参していただくのもお勧めです。緊張して食べられない子もいるので、まずお家でキャリーの中で食べることに慣らしておいてください。ペットホテルや入院時などにも慣れた食器や好物を持参しましょう。
(4)日頃から猫ちゃんの全身を触ってチェックする習慣を作りましょう
ブラッシングや歯磨き、爪切りなどのケアを快く受け入れてくれるように練習しましょう。また投薬が必要になった時に備えて、子猫期からフードを使って投薬の練習をしておきましょう。
(5)同居の猫ちゃんがいる場合には、帰宅後しばらく分けておきましょう
病院に来た猫ちゃんが病院の匂いをつけて帰ると、家の猫ちゃんがびっくりしてケンカになる場合があります。特に病院で怖い経験をしたことがある猫ちゃんの場合、それを思い出して攻撃することがあります。
匂いが消えるのを待つために、家に帰ってしばらくは別々の部屋で過ごさせましょう。念のため、会わせる前に一匹の猫ちゃんのおでこや尻尾の付け根などにこすり付けたタオルで、もう一匹の猫ちゃんをなでてあげるなどして、匂いの交換をしておくと良いでしょう。
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