室内で暴れる子猫は異常? いいえ、しっかり遊べる環境を
猫の困った行動について、最近、次のような相談を受けました。
困っていること:飼い主にかみついたり、引っかいたりする。異常に活発で部屋中を走り回り、全く落ち着きがない。
飼い主の山田さん(仮名)は70代の一人暮らしの女性です。子猫を保護した知人に頼まれて生後2カ月のころにコタロウを引き取りました。山田さんは昔から猫は好きで、これまでにも数頭の猫を飼った経験がありました。
しかし、「こんなに暴れん坊で攻撃的な猫は初めてです。頭がどこかおかしいのではないでしょうか? もう一緒に生活する自信がありません」と深刻な表情。確かに、手には痛々しい無数の引っかき傷とかみ傷がありました。
事情を聞くと、これまでの猫は家と屋外を自由に行き来させて生活させていたそうです。しかし、以前に飼っていた猫が交通事故で死んでしまったので、今回は完全室内飼育にすることにしたとのこと。ところがコタロウは、家中を走り回ってテーブルに飛び乗ったり、棚の上のものを落としたり、カーテンを駆け上るなど落ち着く暇がありません。
そこで山田さんは、ケージに入れて飼うことにしました。そして運動のために時々ケージから出していましたが、出している間中とにかく走り回ってじっとすることはない上に、物陰に隠れて狙いを定めて山田さんに飛びかかり、激しくかむとのことでした。またこれまでの猫と違って、かわいがろうとしてなでようとしてもすぐにかみついたり引っ搔いたりして、おだやかに触れ合えるような時間が全くないというのです。
診察室でのコタロウはキャリーに入ってちょっと緊張しながら、こちらの様子をうかがっています。話を聞きながら様子を見ると少しずつ落ち着いて、外に興味を示し始めたので、ドアを少し開けました。ドアを鼻で押して自分から出てきたので、おもちゃを動かして見せました。するとまもなくおもちゃの動きに反応して子猫らしく元気に遊び始めました。
この月齢の子猫は活発なのが普通です。猫は根っからのハンターで、動くものを追いかけ捕まえるという習性が強い動物です。本来であればこの時期に独り立ちするために、狩りの技術を磨かなくてはいけません。自然界では将来ほかの猫から自分の縄張りを守るために、兄弟猫と遊びながら猫同士のコミュニケーション技術を学んだり、小鳥や昆虫などを相手に狩りの練習に勤しんだりするのです。
動くものに反応し、狙いを定め、素早く飛びついてかむことは、ごく自然な子猫の遊び行動です。ところが室内で1頭だけで飼われている猫にとって、動く対象は飼い主だけです。そのためコタロウが山田さんを狙うのは、ある意味し方のないことです。
猫が屋外と家を行き来し、自由に外で走り回ったり、虫や小鳥を追いかけたりすることができた時代には、このような問題はありませんでした。しかし現代の日本では、猫を安全に屋外に出せる地域はほとんどなく、交通事故や野良猫との闘争による外傷、伝染病などを考えれば、外に出すのはリスクが大きすぎます。また近隣とのトラブルの原因にもなります。
したがって安全な室内で飼育し、飼い主がかまれないようにするためには、室内でも外に出た時に得られるような刺激を与える必要があります。コタロウがやんちゃすぎるからとケージに入れっぱなしではますますエネルギーがたまる一方で、外に出した時により興奮しやすくなります。
エネルギーが余って起きる問題は、抑え込むばかりではどこかで爆発してしまいます。適切な発散の機会を与えなければ根本的な解決にはなりません。このコラムでも、「猫のニーズとは?」の各回でお話ししたように、猫にとって必要な上下運動をするスペースや爪とぎ、猫草、安全に外界を感じることができる場所や隠れることが出来る場所などを提供し、おもちゃでしっかりと遊んであげる必要があります。
山田さんにはこれらのことをお話しし、一緒にコタロウとの一日の日課を決めました。家事などで家の中を動き回り、コタロウの攻撃を避けることができない時間帯はケージに入れ、そのほかの時間には十分に発散の機会を与えてもらうことにしました。このような猫の遊びによる攻撃行動の対処法は、次回詳しくお話しします。
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