東京都の悪質業者「放置」くみ取るべき教訓とは

 5月30日付の朝日新聞本紙で、東京都が悪質なペットショップを10年以上も実質的に放置してきた問題を報じた。改めて触れておきたい。

 

 まず、動物愛護法という法律を行政機関が適切に運用しなかった、という根本的な問題がある。ペット法学会副理事長の吉田真澄・弁護士は「法律を読めば、あのような業者が営業を続けられることは想像もできない。条文があるのになぜ東京都は対応しなかったのか」と指摘する。


 動愛法は1973年に議員立法で成立し、3度の改正を経ている。この間、動物取扱業者への規制が強化されてきた。今回、東京都がこの法律を適切に運用しなかったことは、行政機関自ら法律を軽視する行為である。そして業者に対して「行政は厳密に法律を運用するつもりはない」というメッセージを送ったに等しく、法改正の成果を台無しにしてしまった。もっと言えば、法改正に携わった国会議員をはじめとする関係者の思いを踏みにじる行為であった。


 東京都は2013年度以前に27度もの「指導」を行っていながら、さらにはこの業者が狂犬病予防注射の接種なども怠っていながら、「その都度、改善があった」「(動物取扱業の)登録基準に適合していたから登録を更新した」(原口直美・環境衛生事業推進担当課長)と釈明。取材の過程で、27度の「指導内容」と「その都度の改善内容」について説明を繰り返し求めたが、「お答えできない」の一点張りだった。


 だがここに、行政の重い腰を上げさせるヒントがある。 

 

 少なくとも今年4月に今回の業者を業務停止処分にした際に都が問題にしたのは、販売用の犬や猫を入れておく飼養施設やケージの大きさ、構造が適切かどうか、だった。この際、法律または省令を改正し、飼養施設の大きさなどにも具体的な数値規制をしてはどうか。指導すべき内容も、改善しているか否かも、誰が見ても一目瞭然。どんな行政機関でも、適切に法律を運用できるようになるはずだ。


 もう一つの教訓が、動物愛護団体の悪質業者との「距離」の取り方だ。一般的に、悪質業者から犬猫を引き出す団体はたくさんある。それは動物福祉を考えれば当然の行為と言える。だが一方で、悪質業者の営業継続を手助けしているという側面も持つ。 

 

 今回の事例では、業者の飼育頭数が「指導」および「改善」の焦点になっており、団体が引き出してしまえば営業継続の直接的要因になる可能性が高かった。そして、引き出しを強行しようとする団体が実際にあった。 

 

 もちろん、東京都の「放置」がなければ、このようなトラブルもなかっただろう。だがそれでも、動物愛護団体が悪質業者と向き合うときは、何が根本的な解決につながるのか、冷静に見極める目が求められていることは間違いない。

 

太田匡彦
1976年東京都生まれ。98年、東京大学文学部卒。読売新聞東京本社を経て2001年、朝日新聞社入社。経済部記者として流通業界などの取材を担当した後、AERA編集部在籍中の08年に犬の殺処分問題の取材を始めた。15年、朝日新聞のペット面「ペットとともに」(朝刊に毎月掲載)およびペット情報発信サイト「sippo」の立ち上げに携わった。著書に『犬を殺すのは誰か ペット流通の闇』『「奴隷」になった犬、そして猫』(いずれも朝日新聞出版)などがある。

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この連載について
いのちへの想像力 「家族」のことを考えよう
動物福祉や流通、法制度などペットに関する取材を続ける朝日新聞の太田匡彦記者が、ペットをめぐる問題を解説するコラムです。
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