保護猫の譲渡先を決める時、保護団体がチェックすることは? ミスマッチを防ぐために
7回にわたって「保護猫の迎え方」を紹介する当連載。第4回は、保護団体がチェックする譲渡希望者の情報や必要な手続きについて取り上げます。保護猫に出会っても、すぐに迎えられるわけではありません。多くの保護団体が家庭の生活環境を確認したり譲渡希望者に合う保護猫を探したりするために、「譲渡申込書」の提出や家族との面談を必須にしています。
譲渡を受けるために審査が必要な理由
保護猫は少なくとも一度は人から見放されてしまった経緯があるため、二度三度と悲しい目に遭わないように、保護団体ではマッチングの精度を高めるために譲渡希望者の情報を申込書や面談で確認します。保護猫を迎えるという選択肢が身近になった分、ペットショップにはない保護団体の審査や手続きに驚く人もいるかもしれません。
じつは猫を迎えてから「こんなはずじゃなかった」と後悔するミスマッチの問題が少なからず起きています。SNSでかわいい猫の投稿を見たり「猫は飼いやすい」と思い込んだりして、猫を安易な気持ちで飼ってしまう人の問題でもあります。譲渡によって幸せになるはずだった猫が飼育放棄され、再び保護猫になる二次レスキューへとつながっては、保護団体の活動が本末転倒になってしまいます。
審査とはいえ、初めて猫を飼う人や保護猫との暮らしに不安がある人には、的確なアドバイスを受けられる機会にもなります。たとえば集合住宅に住んでいるならおとなしい猫、未就学児がいる家庭には子どもとの同居が苦ではなく攻撃性がない猫、高齢者には穏やかな猫やシニア猫……といったように、保護団体では家族も猫もハッピーになれる組み合わせを考えてくれます。“一目ぼれ”ではなく“お見合い”を想像するとイメージしやすいのではないでしょうか。「どうしても猫を迎えたい」という強い希望がある場合も、保護団体に相談しながら準備を整えられるので心強いはずです。
まずは家庭の状況をセルフチェック
希望の保護猫に出会ったらすぐ迎え入れたくなるかもしれませんが、新たな家族になる大切な存在だからこそ、まずは家庭に猫を迎え入れられる状況かどうかを確認しましょう。以下の確認事項を例にセルフチェックをしてください。
- 現在の住居で猫を飼える
- 猫の習性をある程度知っている
- 必要な日用品やフードついてある程度知っている
- 猫を飼育できるスペースと時間があり、経済的にも問題ない
- 猫が寂しさを感じないように配慮できる(留守番が長時間ではない)
- 生涯に責任を持って飼育できる(猫の平均寿命は約15歳だが20歳を超えることもある)
- 先住猫の不妊・去勢手術をしている
もし当てはまらない項目があれば、勉強したり対策したりしてすべてにチェックをつけられるように準備しましょう。保護猫をすぐに迎える予定がない場合も、関心がある人は必要な準備について保護団体に相談してください。
保護団体が設けている確認事項
多くの保護団体がシェルターへの見学や譲渡会への参加の前後に、譲渡希望者の情報や家庭の状況などを記載する「譲渡申込書(アンケート)」の提出を必須にしています。個人情報の提出に疑問を感じるかもしれませんが、保護猫が再び飼育放棄されることがないように、マッチングの精度を高める目的で使われます。逆に、優良な保護団体からは希望の保護猫に関する情報(保護された経緯、性格、既往歴など)もすべて開示され、質問にも真摯(しんし)に答えてくれます。
確認事項は保護団体によって変わりますが、おもにチェックされる情報を知っておきましょう。立ち入った答えづらい質問や記入をためらう項目があれば、面談の際に口頭で説明するのも一案です。保護団体は個人情報を集めることが目的ではないので、相談に応じてくれるかもしれません。
(1)申込者について
まずは見学や参加を申し込んだ譲渡希望者の情報を記入します。信頼できる保護団体では譲渡後もさまざまな相談にのってくれるので、普段から使っている連絡がとりやすい電話番号やメールアドレスを記入しましょう。
- 氏名
- 生年月日
- 住所
- 電話番号
- メールアドレス
- 職業 ……など
(2)希望する動物について
次に、家庭に迎えたいと思っている動物の種類や大まかな年齢を記入します。すでにウェブサイトや譲渡会で気になる保護猫を見つけている場合は、希望する動物の名前や登録番号も記入しましょう。「この子がかわいい」という見た目に加えて、「猫を迎えてどのような暮らしを送りたいか」と考えることも大切です。
- 動物の種類
- 年齢
- 希望する動物の名前や登録番号
- 申し込んだ理由 ……など
(3)家族について
続いて、譲渡希望者自身や家族、居住環境などの情報を記入しましょう。猫を手放す理由には「アレルギー」がとくに多いので、家族のチェックはもちろん症状の程度なども確認してください。
- 家族構成
- メインで世話をする人
- アレルギー症状の有無
- 動物の飼育経験
- 猫を迎えることに家族全員が賛成している ……など
(4)住居について
猫は環境省から完全室内飼育を推奨されていることもあり、室内の環境を安全・快適に整えられることが重要です。猫は環境の変化が苦手なので、住居が頻繁に変わる状況であれば譲渡の時期を延期する必要もあるでしょう。
- 居住環境(一戸建て、集合住宅、持ち家、賃貸)
- 集合住宅や賃貸の場合、ペット飼育ができる
- 猫を飼育するスペース(間取り図など)
- 将来的な引っ越しの可能性の有無
- 引っ越す場合の猫の処遇 ……など
(5)ライフスタイルについて
猫の世話やコミュニケーションの時間を確保できる余裕が必要です。15年先のことまで考えてください。
- 申込者や家族の趣味
- 休日の過ごし方
- 想定されるライフスタイルの変化への対策(入院、結婚など) ……など
単身者や高齢者には譲渡不可?
保護団体では譲渡申込書をチェックした結果、譲渡を断るケースもあります。実際に保護猫を迎えようとした人から「一人暮らしだから断られた」「60歳以上には譲渡できないと言われた」という声も上がっています。
猫は環境の変化に弱いため、譲渡の際には住み慣れた自宅で飼育を継続できることが重視されます。ところが単身者と高齢者は引っ越しやライフスタイルの変化、飼い主の入院などで環境が変わる可能性が高いので、保護団体では猫が強いストレスを感じたり飼育放棄されたりすることがないように条件を設けているのです。
しかし「保護猫を迎えようと思ってくれた人が離れてしまうのは惜しい」と要望を聞いたうえで相談にのってくれる保護団体も少なくありません。万が一のときに猫を手放す選択肢しかないと見なされると譲渡を受けるのが難しくなるため、事前の対策を伝えて交渉してみましょう。
<単身者の場合>
・環境の変化をできる限り避ける方法を検討する
・やむを得ず引っ越す場合には、次の住居にもペット可物件を選ぶ
・残業や出張のときに猫の世話を頼める家族やペットシッターを確保する
<高齢者の場合>
・最後まで世話ができる年齢の猫を選ぶ
・飼い主が入院した場合でも自宅で猫の世話を頼める家族やペットシッターを確保する
動物愛護センターや個人間取引との違い
行政が運営する都道府県の動物愛護センターでも、譲渡希望者には事前確認書の記入、もしくはセルフチェックによる条件確認を定め、ほとんどの自治体が事前講習会や適正飼養講習会を開催しており、それらに参加してから譲渡を受けられるシステムになっています。保護団体と似ていますが、譲渡後のアフターフォローには人員不足で十分に対応できない場合があり、保護団体を含むボランティアに協力を頼んでいる自治体もあります。
(環境省「子犬と子猫の適正譲渡ガイド」)
SNSや地域のコミュニティーサイトを利用した個人間取引には明確なルールがない分、手続きが簡略化されているものの、互いのことをよく知らないまま取引することになるのでトラブルが起きやすいのが問題です。猫を手軽に迎えられる方法が必ずしも幸せな結果につながらないことを知っておいてください。
保護猫を迎えるのはハードルが高いのか?
ペットショップでは子猫をすぐ連れ帰れるケースがあるため、保護団体の確認事項を知ってハードルが高いと感じた人はいるかもしれません。手順を踏む必要はありますが、譲渡希望者と保護団体の間に信頼関係ができれば、家庭にぴったりの猫とマッチングできる可能性が高まるのです。
また、優良な保護団体では「1匹の猫や犬との出会いは結婚のようなもの」と家族と動物の幸せを真摯に考えています。大切なパートナーとの暮らしを考えたら慎重に考えるのは当然とも言えます。保護団体から猫を迎えてから5年後、10年後も親しく付き合いを続けている飼い主も少なくありません。たとえ譲渡まで時間がかかっても心強い相談先ができるのは大きなメリットではないでしょうか。
●監修=奥田昌寿(認定特定非営利活動法人 アニマルレフュージ関西)
(取材・文/金子志緒)
次回は「迎える前の手続き」をお送りします。
(次回は11月17日公開予定です)
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