保護猫のトライアルが始まる! 家庭に猫を迎える準備とよくある脱走事故の防止対策
7回にわたって「保護猫の迎え方」を紹介する当連載。第6回は、マッチングした保護猫を家庭に迎える準備と、脱走などの事故を防止する対策について取り上げます。猫との生活体験ができる「トライアル制度」は、家庭の先住動物との相性や家族のアレルギーの有無などを確認する目的があります。大きな問題がなければ正式譲渡の手続きへ移ります。
猫と試しに暮らす「トライアル」
多くの保護団体が正式譲渡の前に保護猫と家族が試しに暮らしてみる「トライアル制度」を設けています。トライアルの目的は保護猫と家族、先住動物との相性や、猫の生活環境の最終確認をすることです。期間は2週間前後ですが、家族の希望や団体の判断で短縮・延長する場合もあります。
保護猫にとって頻繁に環境が変わることはストレスになるため、トライアルは譲渡を前提としています。大切な家族の一員として迎え入れるつもりで暮らしましょう。先住動物とのトラブルや家族のアレルギーなどの問題が起きた場合を除いてキャンセルできないケースもあるので、手続きの前にトライアルの規約や契約書を必ず確認してください。
面談や対面に時間をかけて慎重にマッチングを行う保護団体では、トライアル制度を設けていない場合もあります。
トライアルの手続きと注意
規約を確認してから申し込む
正式譲渡の前は保護猫の所有権が保護団体にあるので、トライアル制度を利用する際には契約書などを取り交わします。譲渡を前提とする場合は、トライアルを申し込んだ段階で譲渡費用の全額や一部の支払い手続きを行います。
生活の注意を確認する
保護団体に保護猫と暮らすうえでの注意点や負担する費用などを確認し、家族全員で共有しましょう。トライアルの初日はどうしても慌ただしくなりがちなので、時間の調整が可能なら余裕を持って午前中や午後早めが理想です。
保護団体には定期連絡を
猫と対面を重ねていたとしても、一緒に暮らし始めると思いがけない出来事が起こります。トライアル期間中は保護団体に保護猫の様子や気になることを定期的に連絡し、必要であれば対応策を相談しましょう。
猫を迎えるために必要なものは?
保護猫とマッチングが成立したら、トライアルの手続きと並行して猫を迎えるための準備を始めます。保護団体が生活用品を貸し出す場合もあれば、譲渡希望者が生活環境を100%に近い状態まで整えてからトライアルに移る場合もあります。以下に加えて第7回の保護猫を迎える前の手続き 面談で聞かれること、猫との接し方、譲渡費用を確認しようも参考にしてください。
最低限の生活用品を準備
以下を参考に、最初は必要最低限の生活用品をそろえましょう。保護団体によっては猫が使っているケージやトイレ、食べているフードなどを提供してくれる場合があります。
- ケージ(ステンレス製やプラスチック製の2〜3段の檻)
- トイレ(猫の1.5倍のサイズが目安)
- トイレ砂(使い慣れた素材を選ぶ)
- 食器と水入れ(陶器製が衛生的。台で高さを調節する)
- 今まで食べていたフード(食べ慣れた主食のほうが体調を維持しやすい)
- 猫がとくに好きなフードやおやつ(食欲が落ちたときに与える)
- タオルや小さなひざ掛け(季節に応じてベッドにする)
- 爪とぎ(使い慣れた素材を選ぶ)
居住空間を整える
リビングなどの一角にケージを設置して、ベッドやトイレ、爪とぎを入れて居住空間を整えます。ケージに入れるのはかわいそうに見えるかもしれませんが、猫は環境の変化が苦手な動物なので、隠れ家のような狭い場所のほうが落ち着きます。むしろいきなり部屋に放せば、恐怖で隠れたり逃げたりしてしまいます。
猫が周囲の様子に不安を感じている場合は保護団体に写真を送って、改善点のアドバイスを受けましょう。先住動物がいる場合は部屋を分けたほうが互いに落ち着ける場合もあります。
脱走防止対策を徹底する
保護猫のトライアル期間は脱走に注意してください。慣れない環境に不安を感じて猫が逃げてしまうことがあるので、保護団体に相談して脱走対策を徹底することが重要です。
- 玄関の前に高さのあるフェンスを設置する
- ドア、窓、門扉を開けるときは、先に猫をケージに入れる
- 猫に網戸やドアを開けられないようにストッパーをつける
もし脱走させてしまったらすぐに保護団体に連絡し、捜索方法を相談しましょう。地域の動物愛護センターや保健所、警察署にも連絡することが重要です。
保護団体が猫を連れて家庭訪問
保護団体が家庭に猫を送り届けるときに、居住空間や脱走防止対策の確認やアドバイスをしてくれます。書類や写真では問題なかったとしても、訪問では危険な箇所が見つかるケースも珍しくありません。猫の安全を守るためにもスタッフに確認を頼みましょう。
保護団体によっては家庭訪問をトライアルに進む前に行う場合もあれば、事前の確認のみで訪問しない場合もあります。
トライアルの過ごし方
トライアル期間は保護猫が家族や先住動物、自宅の環境に慣れることが重要です。
猫を落ち着かせることが最優先
保護猫のなかには、環境の変化が苦手な猫や人間と暮らすことに慣れていない猫もいます。ケージにタオルケットなどの布をかけて、周りの刺激を遮ったほうが落ち着きやすくなります。最初は世話や接触を最低限にして、ケージの中にいる猫に家族の生活を見せることから始めてください。
猫が寄ってくるのを待つ
家族が近くにいたり世話をしたりすることに慣れて恐怖心が薄れると、逆に好奇心で近寄ってきます。ケージ越しにやさしく声をかけて、猫じゃらしで頭をやさしくなでてみましょう。猫じゃらしの代わりに、人間用の歯ブラシ(柄に棒をつけて長くする)を使うのも一案です。家族全員で取り囲むように接するのは、ストレスになるので避けましょう。トライアル中は猫とのふれあいよりも環境に慣れさせることが重要です。
部屋に放してみる
猫がケージの外に興味を持つ余裕が出てきたら、ドアや窓を閉めてから片づけておいた部屋に放してみます。やんちゃな猫は運動量を確保するためにも、おもちゃで遊びましょう。怖がりの猫は無理をせずケージで過ごさせます。
食欲や体調をチェックする
環境が変わった不安から一時的に食欲が落ちることもあるので、猫が好きなフードやおやつを与えましょう。猫はストレスによって泌尿器疾患を起こしやすいので、トイレをチェックして排泄物の回数や状態を確認してください。気になることがあればすぐに保護団体に連絡し、動物病院を受診してください。
先住動物との対面は慎重に進める
先住動物と事前に対面していたとしても、同居になれば猫を受け入れるまで時間がかかることもあります。最初はドア越しやケージ越しに互いの気配を感じる程度の接触から始めましょう。互いが見える場所でごはんを同時に与えるのも一案です。
トライアル中に確認すること
シェルターなどの外部での交流ではわからなかった一面が見えてくることもあるので、トライアルを家族と猫が互いをより深く知る機会として活用しましょう。以下のポイントを中心に確認してください。
- アレルギーを発症した家族の有無
→もし発症したとしても、空気清浄機や掃除などで対応できるか - 保護猫と先住動物との相性
→互いにストレスを感じたりトラブルに発展したりする様子はないか - 保護猫を留守番させたときの様子
→もし不安を感じていても家族の対応で軽減できるか - 必要な治療やケア
→病気で投薬やケアが必要な場合、家族で継続できるか - 家族全員の気持ちを確認
→愛猫として迎えたいか。接し方の注意を家族が守れるか
トライアルが終わったら正式譲渡へ
事前に決めていたトライアル期間の最終日、家族や先住動物との相性の問題がなく、「この子を迎えたい」と意見が一致していれば正式譲渡へ移ります。もし気になることがあれば保護団体に相談してトライアル期間の延長を検討しましょう。定期報告を確認した保護団体から延長を提案されることもあります。
もしやむを得ない事情があって正式譲渡を見送りたい場合は、事前の規約や契約書に基づき保護団体との相談が必要です。厳しいように感じるかもしれませんが、一度家庭に迎え入れた命を気軽に返品できないのはペットショップから迎えた場合でも変わりません。
縁があってマッチングした保護猫と短期間でも一緒に暮らせば、きっと愛猫として迎える日が待ち遠しくなるはずです。
●監修=奥田昌寿(認定特定非営利活動法人 アニマルレフュージ関西)
(取材・文/金子志緒)
次回は、「正式譲渡」をお送りします。
(次回は12月1日公開予定です)
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